Hostess Club Weekender(第8回・2日目) @ 新木場スタジオコースト

Cat Power all pics by 古溪 一道(コケイ カズミチ)
通算8回目を数えるHostess Club Weekender 2日目。ブロンド・レッドヘッドをヘッドライナーに置き、2010年代モダン・ロックの洗練、革新方向のアプローチを見せるアクトたちの競演となった初日に対し、この2日目はむしろ現ロック・シーンのプリミティヴな起爆力やフリーキーなアプローチを見せるアクトたちが集結した1日となった。
The Bohicas
■The Bohicas
トップバッターはイースト・ロンドン出身の4ピース、ザ・ボヒカズ。アークティック・モンキーズやフランツ・フェルディナンドを輩出したDOMINOの秘蔵っ子として注目を集める彼らだが、まずはスタンドマイクを3本ぶち立て、黒ずくめの3人が掴みかかるようにヴォーカルとコーラスを競い取っていくフォーメーションが最高。基本は1.5倍速のストゥージズか、という勢いで猛り狂う弾丸ガレージ・サウンドで、しかもこのバンドが凄いのは曲のキャラクターを瞬時に決定付ける恐ろしくキャッチーなギター・リフを全ての曲に搭載している点だ。歌メロで何となくポップにまとめるガレージ・バンドは腐るほどいるが、ここまでポップなリフを書ける新人というのも珍しい。アルバム・デビュー前にも拘わらず“XXX”、“Swarm”といったナンバーではイントロ一発で早くも歓声が上がっていたが、これも「聴いたことあるメロディー」という頭の中の記憶ではなく体に直接訴えかけるリフの力だろう。「ツギノキョクハ~デス」と律儀に日本語で曲紹介を挟むなど、初来日のステージにかける意気込みもばっちり。最高のHCWデビュー、日本デビューのステージとなったのではないか。タイプは異なるが同じくHCWで日本デビューを果たしたテンプルズにも通じるポテンシャルを感じたニューカマーだ。
TOY
■TOY
続くトーイは2012年のサマソニに続き2度目の来日となる。ピース、テンプルズ、テレグラム、チャイルドフッドと新世代サイケ勢の攻勢がとどまるところを知らないUK、ロンドン出身のトーイのサウンドは、サイケはサイケでもマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの歪みきった爆音とスピリチュアライズドのスペース・ブルーズ、そしてプライマル・スクリームの攻撃性までハイブリッドした80Sネオ・サイケの系譜で、“Colours Running Out”、“Join The Dots”といったトライバルな曼陀羅グルーヴ・ナンバーが最高に嵌るバンドだ。抜けのいい新木場スタジオコーストの音響とも相まって、何度も音が束となって波状で襲いかかってくる。先行のボヒカズの武器がギター・リフだったとしたら、このバンドの場合はむやみやたらと華麗でシンフォニックなシンセがキモかもしれない。恍惚の渦の中にあってどこか醒めたポップさがあるのが新世代サイケ共通の感覚だが、トーイのそれはボトムでうねるグルーヴの対極で楽曲を高揚へと誘うシンセが生んでいるものだった。
Joan as Police Woman
■Joan as Police Woman
ボヒカズが100の音を10のサイズにぎゅうぎゅう詰めるような濃密ハードなセット、トーイが100の音を1000にも10000にも拡大する余力を感じさせた恍惚トリッピーなセットだったとしたら、続くジョーン・アズ・ポリス・ウーマンは100の音を1にも1000にもしうる多才でフリーキーなセットだったと言える。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンことジョーン・ワッサーは90年代NYの生んだ「伝説」と呼んでいいアーティストだ。故ジェフ・バックリィの恋人としても知られた彼女はルー・リードやルーファス・ウェインライトとの共演、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズへの参加、ブラック・ビートルとしての活動、そしてソロと15年以上に亙ってシーンの一線に立ち続けてきた人だが、なんと今回が初来日となる。彼女のパフォーマンスは曲によって本当にくるくると表情が変わる。ピアノだけで弾き語られるナンバーの饒舌なエレガンス、かと思えば「よっ!ジョーン姐!」と掛け声入れたくなるような骨太ブルーズ・ナンバーもあれば、緊迫のジャズ、愉しいボサノバやドゥーワップ、そしてフロアを一気にパーティーへと変貌させていくファンクと、何でもできるし、そのすべてに必ず新しいアプローチが潜んでいてワクワクする。ピアノ、ギター、ヴァイオリンと楽器も矢継ぎ早にチェンジしていくが、ショウを取り纏める軸としてのジョーンの存在は揺るがない。キャリア故の貫録・風格と、キャリアを重ねても失われない不可測な楽しさ、その両方を感じられたパフォーマンスだった。
Cloud Nothings
■Cloud Nothings
場内は徐々にむっとするような湿気と密度になってくる。いよいよクラウド・ナッシングスの登場だ。来日も今回で既に3回目、しかし最新作『ヒア・アンド・ノーウェア・エルス』(大・傑作です)を引っ提げての来日ということで期待感は過去2回とは段違い。サウンドチェックの段階から桁外れな音の大きさに笑ってしまったが、“Quieter Today”でのっけから迷いなく脳天かち割りにくる。ラウド、ヘヴィ、さらにラウド!もともとヴォーカルのディランの宅録ローファイ・ポップ・パンクとしてスタートし、スティーヴ・アルビニをプロデュースに迎えた前作『アタック・オン・メモリー』でハードコアの基礎の基礎たるマナーを叩きこまれるも、未だそれをライヴでプレゼンするには筋力不足……というのが前回までの彼らのストーリー。そして『ヒア・アンド・ノーウェア・エルス』を完成させた現在のクラウド・ナッシングスは、まさにその課題だった筋力を十全に身につけ、ハードコアの文字通りコアに遂にリーチしうるプレイを手に入れていた。アドレナリン過多のニルヴァーナとでも言うか、彼らのノイズ・ギター、ヘヴィ・ギターにはどの曲でも必ずカオスを突き抜ける快感が宿っているのが最高なのだ。そんな彼らの一皮むけた演奏にファンはひっきりなしのダイヴで応え、最新アンセム“I'm Not Part of Me”ではサークルモッシュも生まれる。バンドとオーディエンスが一丸となってなだれ込むようなフィナーレだった。
Cat Power
■Cat Power
そして第8回Hostess Club Weekenderもいよいよオール・ラスト、キャット・パワーの登場だ。昨年のフジ・ロックではホワイト・ステージのヘッドライナーも務めた彼女、最早説明はいらないだろうが、20年に亙りUSオルタナ・シーンに軌跡を残してきたマタドールの女王とでも呼ぶべきSSWである。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンといいこのキャット・パワーといい、何気に女傑揃いのHCW2日目だったのだ。がしかしこの女王、ステージ登場時から何気に挙動不審である。オンタイム進行デフォのHCWの慣例をさくっと破って押したオープニング、始まったと思ったら延々止まないループ・イントロの中、中腰でひょこひょこと跳ねながら登場する彼女。その後もパントマイムのような動きで明後日の方向を向いたままふわっと歌い始め、かと思えば「マイクの音量!上げて!」と凄まじい勢いで幕内にジェスチャーを送り、そしてまた再びふわふわとステージを漂いながら歌い始める。「ひょっとして酔ってます?」と一瞬思ったが、そんな疑念も彼女の歌がカチッとフォーカス合った瞬間に四散した。艶やかに伸び、伸びゆく放物線に余韻を溜め、広がっていくふたつとない声に瞬く間に引き込まれていく。ジャニスばりのこぶしを効かせたソウル歌唱、リズム楽器のように弾み歌に分節を付けていくポエトリー・リーディング調のヴォーカル、意識して歌い変えているようでもないのに、自ずとキャット・パワーの声に先導されるかたちで曲が起伏を描いていく。加えて、曲間の彼女は相変わらずよくわからないテンションで揺らいでいるので、1曲毎に仕切りなおすかのようにいちからセットが構築され直されていく、という意味でも起伏が凄い。思えば直前のクラウド・ナッシングスまで、この日のHCWは息付くヒマのない掛け算、相乗関係のパフォーマンスが続いたけれど、最後の最後にきてふと引き算の時間、佇む時間が訪れた、という感じだった。夏フェス的な大団円とは少し意味が違うが、これもまたHCWらしいチルアウトのエンディングだったと思う。

カイザー・チーフスを迎えての第9回が11月に早くも決定しているHCW、カイザーズとくれば次もまた全く異なる音楽体験の場となるに違いない。(粉川しの)