BRAHMAN@Zepp Tokyo

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「『Tour 1080°』、Zepp Tokyo! なんか、悪い奴が混じってるらしいけど、自分の身ぐらい自分で守れ! 弱い奴は、強くなれ! 強い奴は、悪い奴を捕まえて俺らのところに突き出してくれ! 人の大事なものに触れたらどうなるか教えてやるよ! 俺たちBRAHMAN、始めます!」。ただでさえ沸点越えの熱気に満ちていたZepp Tokyoのフロアが、TOSHI-LOWの鬼気迫るMCで瞬時に魂の戦場と化していく――全国Zepp5会場+東京・新木場STUDIO COASTを巡る計6公演のツアー『Tour 1080°』のセミ・ファイナル:東京・Zepp Tokyo公演。八角形の内角の和=1080°をタイトルに冠している通り、約1年前に行った正八角形・360度ステージの幕張メッセ公演『Tour 相克 FINAL 「超克」 the OCTAGON』のコンセプトを継承したこの日のライヴは、誇張抜きで自らの全存在を懸けて音楽に挑むBRAHMANの強靭な覚悟が、熾烈なる爆音とともに轟く、感動的なロック・アクトだった。なお、冒頭のMCは、今月17日に行われた新木場STUDIO COAST公演でスリ/置き引き/痴漢の被害が発生したことに対してのものだが、単に憤りを表明して「ライヴ中の犯罪行為はやめよう」という一般的な結論に着地させるのではなく、自身の人生観と一体となったメッセージとして放ってみせた姿も、この日のオーディエンスをひときわ激しく高揚させる熱量に満ちていた。

BRAHMAN@Zepp Tokyo
360度形式でこそないものの、舞台上に最新アルバム『超克』のキー・ヴィジュアルでもある八角形のアートワークが巨大なオブジェとして(舞台からハミ出す大きさだった)設置されていたこの日のライヴ。まだツアー・ファイナル=6月28日・Zepp Sapporo公演が控えているので、ここではセットリストの掲載や演出の詳細は割愛、一部楽曲に触れるに留めさせていただくが、“霹靂”など『超克』の楽曲を随所に盛り込みつつ、“ANSWER FOR…”をはじめ各年代の名曲群を結集させたような渾身のステージだった。開場時間=18:00に対して開演時間を通常のライヴより遅めの19:30に設定、「東北ライブハウス大作戦」「NBC作戦」「幡ヶ谷再生大学」など東日本大震災の復興支援を目的としたブース展開に長めに時間を割いていたことも含め、約1時間半の演奏のみならず会場の隅々にまでメンバー4人の血と想いが通っているような温かな磁場も、このライヴ空間の魅力を生んでいた大きな要素ではある。が、この日のアクトを至上の名演にしていたのは何より、もはやギター/ベース/ドラムの音色という形態もパンク/ハードコアという範疇も越えた魂の衝撃波の如きKOHKI・MAKOTO・RONZIのアンサンブルであり、轟々たるエネルギーとヴァイタリティを放射していくTOSHI-LOWの絶唱そのものだった。祈りと慟哭が同時に噴き上がるような“露命”の切実な歌が、満場のシンガロングを呼び起こした瞬間。“霹靂”の静謐なイントロからカオスの極致へと昇り詰めたバンド・サウンドが、むせ返るほどの狂騒感でフロアを満たしてみせた瞬間……「セットリストを2曲足したら、2曲歌詞を忘れました!」とTOSHI-LOWが言っていたのも含めて、この日限りのドキュメントとして胸に刻みたくなるような決定的瞬間が次から次へと飛び出す、ドラマチックなライヴだった。

いくつもの楽曲が曲間なしで一体化していくジャム・バンド的なライヴ展開で、静寂と狂騒を幾重にも織り重ね、紅蓮の音世界を描き出していく4人。ひときわヘヴィな“警醒”のイントロから、BPM急加速してアンサンブルが爆走――というところでTOSHI-LOW、フロアに鮮やかにダイヴ! そのままオーディエンスに高々と掲げられフロアに仁王立ちしたまま、大草原を歩くように徐々にフロア中央へと移動し、立て続けに何曲も絶唱を繰り広げてみせた。MCでは、ツアーのZepp Fukuoka公演で小学2年生がくれた手紙の裏に「世界一目指せ」と書いてあった、というエピソードから「新木場で『世界一になる』って言ってしまったので、ライヴの後は家まで走って帰ろうと思った」「でもMAKOTOが『無理すんな、身体壊すぞ』と言ってくれたので、ランニングシューズの紐をゆるめてMAKOTOの車で送ってもらった」「首都高空いてて早く着いて、幡ヶ谷に繰り出して何も食べずに飲んでたら夜中3時。『もう帰って寝れるな』と思ったら若いスタッフが『まだやってます。新しい店ができました』と言ってきた」と至って真面目なトーンで語っていくTOSHI-LOWの言葉がオーディエンスを沸かせ、挙げ句に「食べましたよ、夜中3時半。特濃中華そば、肉増し、ネギ増し、大盛り、ライス付き……世界は遠いです(笑)。世界に行くためには、俺には敵がいっぱいいるわけだ」とオチをつけると、フロアが爆笑に包まれていく。

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そして、TOSHI-LOWは真面目な口調のまま、「そういえば新木場、みなさんの楽しい夜を邪魔する敵が出たっていう話を聞きましたよ」という話に斬り込んでいくと、会場の空気が一変する。「スリ? 置き引き? 痴漢? もちろんやられた人たちは深く傷付いたと思うけど、どこの世界行ってもいい奴ばっかりじゃねえんだ。どこ行ったって、いい奴もいれば悪い奴もいる。自分を鍛えて、自分で身を守るしかねえ」「世の中は『ここはいい』『ここは悪い』なんて決めるけど、そんなことねえ。『この国は悪い』とか言って日本は今、集団なんたらっつって戦争しようとする国にしてるけど、中国行ったって、石や生卵をライヴでぶつけてくる客もいれば、次の日に『悪い、俺たちの国をあんなふうに思わないでくれ』って謝りながらメシをおごってくれる奴もいる。国と国じゃねえ、個と個、俺とお前、それしか俺は見てねえ」……自らの信念を真摯に語る彼の言葉に、観客はじっと聞き入っている。

「自分が被災者であるにもかかわらず、あそこ(会場外)のブースに今日も立って、他の被災者が作ったミサンガを売って助けようとする人たちがいます。俺は、個と個のそういう関係をずっと信じてるし、その人たちを信じてるし、そこに協力してくれた人を信じてる」と話した後で、「最後に、スリと痴漢、置き引きに告げます。命懸けたステージやってんだ。邪魔すんなら命懸けで来い! 俺は、3月11日のあの日から、本気を教わったんだ。命なんか、いつでもくれてやる。本気で、本気で、本気でライヴがやりてえんで。今後もよろしくお願いします!」と宣誓するTOSHI-LOWに、場内から惜しみない拍手と歓声が降り注ぐ。「……また余計なことを言ってしまった。ちくしょう!」と思わず苦笑いするTOSHI-LOW。現実へのシビアな批評眼、揺るぎない生き様をそのまま音楽に焼き込んで響かせるBRAHMANにしか実現できない圧巻のライヴ空間が、そこには確かにあった。

すべての音が止み、メンバーが舞台を去り、暗転した会場。舞台背後のスクリーンに映し出されたのは「2015」の数字。さらに、仏教用語で「永遠の未来」を意味する言葉=「尽未来際」の文字が浮かんで……終了。アンコールなし、本編90分ほどのステージだったが、体感的には3時間4時間分くらいの濃密な音と物語が爆風のように体内を吹き抜けた、最高の一夜だった。そして、1995年のバンド結成からちょうど20年の節目にあたる来年:2015年に向けて、BRAHMANはいったいどのようなアクションを起こすのか?――という想いが、強烈な余韻とともに終演後のフロアに渦巻いていた。(高橋智樹)
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