さあ、この日も2組の国内勢バンドがオープニング・アクトを務め、ステージ袖から威勢の良い掛け声が聴こえると、先にSTAGE Bに登場したのはSILHOUETTE FROM THE SKYLITの4人である。鮮烈なギター・プレイでカチ上げにかかる“Parallel Lines”のオープニングから、12/3リリース予定のシングルより“Closer”へ。「2日目最初のシンガロングやりたいんですけど、ついてきてくれますかマクハリー!」と、SeshiroX(Vo)が歌詞フレーズをレクチャーして見事な盛り上がりを見せてくれた。
続いてSTAGE Aも稼働し、昨年までASHLEY SCARED THE SKYとして活動していたJulian(G・Vo)らが、新ヴォーカリストを迎えて改名・再出発したMAKE MY DAY。ほとんどアジテーションのように浴びせかけられるパンチの効いたIsamのヴォーカルと、Julianによる伸びやかな歌メロとのコントラストが鮮やかだ。シャツを脱ぎ捨てて上半身を晒したハーフのIsamは、「アメリカやヨーロッパのバンド、かっこいいね。でも、このフェスに出てる日本人の全バンド、負けてない!」とフロアを煽り立てていた。
2連砲ヴォーカルの破壊力という点で言えば、ローポジでベースを構えるTAKESHIとTAKAYOSHI SHIRAKAWAによる信頼感抜群のコンビネーションが流石だったAA=。凶暴なデジタル・ハードコアのギラついた音響の中で、嵐のように襲い来るコーラスからSHIRAKAWAの美声に辿り着く“WARWARWAR”の緊迫感はライヴ序盤から圧巻だった。けたたましいスウィープ・シンセが鳴り響く中でTAKESHIが咆哮を上げる“GREED…”、ハードコア性丸出しの“I HATE HUMAN”と、オールタイムなセットリストで攻め立てる。最後に、TAKESHIは感謝の言葉を伝えながら、「今日ここに来ることが出来なかったバンド、マキシマム ザ ホルモン。彼らのぶんまで、みんなで楽しんでください」と告げて去っていった。
続いては、先頃2015年の新ツアーも発表されたKNOCK OUT MONKEYだ。dEnkA(G)がやたらとブルージーで濃厚なギター・イントロを奏で、“Challenge & Conflict”ではクリスピーな節回しと熱いシャウティング・ヴォーカルを届けるw-shun(Vo・G)である。メタル/ハードコアとは一線を画しながらも、ふてぶてしいほどの自信に満ち溢れたグルーヴにロックのキモを混ぜ込んで鳴らす。前日にオーディエンスと同じように物販の列に並び、ライヴで泣いたというw-shunは、「メタル・フェスだってことは分かってますし、おまえらJ-POPやんけって言われても仕方ないんですけど、ここに出てるバンドの影響を受けて育ってる以上、死ぬ気でやらせて貰うんで、かかってこいやあーっ!!」と言い放ち、サウンドごとエモーション渦巻くニュー・シングル表題曲“How long?”へと飛び込んでいった。
海外勢としてはトップに登場したアモン・アマースはスウェーデン出身で、ヴァイキング・メタルを標榜し、シンガーのヨハンは、まさに海賊を思わせる立派な髭を揺らしながらシャウトする。出番が早いアクトとしては異例とも言えそうな大判のバックドロップを後方に掲げ、しかも途中で絵柄を変える2枚使いのダイナミックな演出。その一方で、水分補給用のカップも角状の形をしたものになっていたりして、小道具も細かいのに感心。筆者のいた位置からはよくわからなかったが、前方ではオーディエンスがフロアに座って一斉に舟を漕ぐ動作を行なう独特のパフォーマンスをするなどユニークな光景も見られたそうだ。
続いて登場したファイヴ・フィンガー・デス・パンチはアメリカで2007年にアルバム・デビューして以降、ここ日本でも着実に人気を高めてきたバンド。昨年には「Vol.1」と「Vol.2」の連作で最新アルバム『ザ・ロング・サイド・オブ・ヘヴン&ザ・ライチャス・サイド・オブ・ヘル』をリリースするなど意欲的な活動を見せている。いかついルックスのヴォーカリスト=アイヴァンは、ここぞとばかり兄貴的なキャラを発揮、それが慕われている様子はライヴの空気からだけでも充分に伝わってきた。途中、お客さんを2人ステージにあげ、バットを振り回させたり、最新作からの曲"バーンMF"のキメのフレーズを歌わせるなどの見せ場も作り、これまた大いに会場を沸かせていた。
次のバンドは、これまたスウェーデン出身、メロディック・デス・メタルの重要バンドとされるイン・フレイムスだ。実は初めて見たのだが、予想以上にオルタナティヴよりな楽曲が繰り出され、ちょっと意外な印象を受けた。ヴォーカルのアンダースも帽子に白いシャツと、メタルの本道とはズレた服装で、独自性を感じさせる。主催者のスリップノット自体が、90年代後半のニュー・メタルの流れを受けながらも、独自に新しい音像を鳴らしたバンドだけあって、今回のノットフェスは、例えばラウドパークに比べると、典型的なオールド・スクールのヘヴィ・メタルよりは、オルタナティヴなセンスも合わせ持ったバンドの割合が多いようにも感じた。個人的には、このジャンルの越境感に悪い感じはしない。
AA=との同日出演も胸が熱くなるWAGDUG FUTURISTIC UNITY。5ピースのデジタル・ハードコア・サウンドが巨大な怪物のようにのたうち回るのだが、すべてをなぎ倒さんばかりの咆哮を上げるKYONOの存在感がやはり凄い。YOSSY THE CLOWN (Performer)もマイクを握って勢い良く前線に飛び出して来る“WHY?”、「シド(スリップノット)と一緒に作った曲をやります!」と紹介され、狂ったプログラミング・ビートと共に最高の舞台に鳴り響く“HAKAI(x DJ STARSCREAM(Sid #0 of Slipknot))”。そしてKenKen(B)のベース・イントロが一層雄弁に奏でられると、最後に披露されたのは(音源ではマキシマムザ亮君をフィーチャーした)“SYSTEMATIC PEOPLE”だ。これは心憎い、そして嬉しい演出である。怪物的でありながら同時に人間臭い。そんな名演になった。
そんなムードを、WAGDUG FUTURISTIC UNITYのデジタル・ハードコアなサウンドがいっそう強めた後で舞台に上がったトリヴィアムは、どちらかと言うと伝統的なメタル重視のタイプだったかもしれない。彼らは昨年のラウドパークにも参加しているが、筆者は諸事情により見られなかったので、今回また来てくれてよかった。アメリカ人と日本人のハーフであるフロントマンのマシュー・キイチ・ヒーフィーは、髪を短くして精悍さを増したルックスで、丁寧な日本語でMCを試みているところも親近感が持てる。彼に限らず、この日見た海外バンドは、一生懸命に日本語で話そうとしてくれる人が多かった印象を受けた。メタル・ミュージシャンは、アグレッシヴなサウンドとは裏腹に優しくて性格のいい人が多いということはよく言われるが、こうして見ていると、熱心なファンが見せるライヴでのリアクションに心を動かされ、この国のオーディエンスに向けて誠意で応えようとしているのだとあらためて実感させられる。
さあ、2日目の日本勢バンドの中で最後に出演するのは、ファン投票によってセットリストを決定する「PLAY WHAT U WANT TOUR」真っ最中のMAN WITH A MISSIONである。サウンドチェックに“Smells Like Teen Spirit”や“database”をプレイしてひとしきり沸かせると、本編オープニングは『Tales of Purefly』のストーリーをモンスター・バンドたちのカーニバルになぞらえるような“evils fall”。ジャン・ケン・ジョニー(G・Vo)は「KNOTFEST、半端ナイネ。コノ半端ナイメンツニ、ツイテイケルノカ人間ノ野郎ドモ!」と煽り立て、“Get Off of My Way”や“FLY AGAIN”とキラー・チューンを披露する。“distance”ではなんと、リミックス・ヴァージョンを手掛けたDJ Starscreamことスリップノットのシドが、DJサンタモニカとのツインDJという形で飛び入りし、2人でスクラッチングを決めまくっていた。完璧な高揚感が生み出される、スペシャルなステージであった。
さて、前日に続けてトリを務めるスリップノットの直前に登場したのは、90年代後半から一大ムーヴメントを巻き起こしたニュー・メタルの中心的存在であり、格としてはスリップノットに決して負けていない人気と実力を持つKORNだ。しかも今回は、一時的にバンドを離脱していたオリジナル・ギタリストのブライアン"ヘッド"ウェルチが劇的な復帰を果たして以来、初めての日本公演とあって、会場に集まったファンのボルテージもいっそう高い。やがて、待ち受ける観衆の前に姿を現した彼らは、初期の代表曲から最新作のナンバーまでバランスよく織り交ぜたセットリストを披露してくれた。アルバムを重ねるごとに多様な音楽性を追求してきたバンドの歴史が、間違いなく優れた楽曲を産み落とし続けてきたことを証明するかのような、充実の内容だったと思う。素晴らしい歌声を聴かせるジョナサン・デイヴィスの元気そうな姿は、色々とトラブルもあったバンドが、現在ではとても良好な状態にあることを何よりも実感させた。
そして、最後を飾るにふさわしく、中央に巨大な悪魔の頭部と、その下には出入り口のような穴までつけられた巨大なセットが組まれたステージに、いよいよスリップノットが登場。後方には最新アルバムのジャケットの絵柄2つ分が大きく掲げられ、もちろん、ステージ前方の両サイドでは、クリス・フェーンと、クラウンことショーン・クラハンがブッ叩きまくる例のパーカッション台も、しょっぱなから激しく上下し、回転している。
今回のライヴは、単なるドラマーという以上に、バンドの創設メンバーでもあり、音楽的な貢献も大きかったジョーイ・ジョーディソンが、脱退なのか解雇なのか詳細不明なまま不参加状態となって初めての日本公演ということも注目ポイントだった。未だに代わりを務めるドラマーも、さらには2010年に亡くなったオリジナル・メンバー=ポール・グレイの代わりを務めるベーシストが誰なのかも、こうして実際にショウが行なわれる段階にありながら、公式には発表されていない(それができてしまうのが覆面バンドの面白いところでもある)。特にジョーイに関しては凄腕のドラマーとして名を馳せていただけに、彼の抜けた穴を埋められるのか危惧する声も聞かれたが、結論から言えば、スリップノットの爆発的なエンターテイメントは問題なく成立していた。これは正体不明のままのサポート・ドラマーの実力ももちろんだが、やはり9人もいるメンバーが一丸となって大きな困難も乗り切ってみせたのだ、という表現が正しいだろう。
素晴らしいシンガーであるのと同時に、オーディエンスの心をつかむことにかけても優れた才能を持つコリィ・テイラーによる、巧みに日本語を織り交ぜたMCも冴え渡り、これまでとまったく変わらず、広大なフロア全体が興奮のるつぼに叩き込まれながら、ノットフェス・ジャパンの記念すべき第1回目は幕を閉じた。最後に、サポート・メンバーも含めた9人が揃って肩を組み、がっちりと身を寄せ合いながら、鳴り止まぬ大歓声に応えていた姿は非常に印象的だった。
ひとつ不満を言えば、KORNの演奏時には多少の改善は見られたものの、全体的に音響面が今ひとつだったのは、出演者たちがそれぞれ熱演を見せていただけに残念だった。それでも、多くの観客は満足していたように見えたし、コリィは去り際に「またやるよ」と力強い言葉を発してくれたので、おそらく次回がある可能性は高いだろう。このままどんどん回数を重ねて内容もさらに成長させ、日本の素晴らしいロック・フェスとして存在を確立していってくれることを期待したい。(洋楽=鈴木喜之、邦楽=小池宏和)