全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート!

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート! - All photo by Tsukasa Miyoshi (Showcase)All photo by Tsukasa Miyoshi (Showcase)
BRAHMANがオリジナルアルバム6枚分、計72曲を4時間で演奏するワンマンライブを行う」という発表を見たときは「正気か?」と思った。フェスなどでの40分ほどの持ち時間でも肉体も精神もすべてを使い果たすようなライブをしてきたBRAHMANが4時間もライブをやるなんて。果たしてそれがどんなライブになるのか。その会場は神奈川・横浜BUNTAI。11月3〜4日の連休に行われた「YOKOHAMA UNITE音楽祭 2024」の2日目としてのスペシャルプログラムである。

開演時間の16時30分を少し過ぎたあたりで場内が暗転しておなじみのSEが流れると、ステージ背面のスクリーンにはこれまでのライブの映像が映し出される。さすがに「若いな……」と思うような映像もたくさんあり、それはBRAHMANが30年の歴史を重ねてきたからこそ実感できることでもある。と思っていたら、先にKOHKI(G)、MAKOTO(B)、RONZI(Dr)がステージに現れる。3人が音を鳴らし始めてからTOSHI-LOW(Vo)が登場し、歌い始めたのは“真善美”。この曲の最後にTOSHI-LOWが「まだ俺たちは終わるっていうことを知らない。必ず来る終わりっていうことをまだ知らない。なのに、いつか必ず、その終わりが来る」と、人生もバンドも終わった経験がない人間として、終わりが来ることについて語る。「4時間後、ここに立っているかどうかはわからねえ。あんたらもそうだ。でも、そんなこた知ったこっちゃねえよ。ずっと全力でやってきたんだ。さあ、幕が開くとは終わりが来ることだ。一度きりの意味を俺たちが問う。六梵全書、30年分のBRAHMAN始めます!」と告げた。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート!
本当にこれから4時間に及ぶライブが始まることを実感すると、その“真善美”を皮切りにアルバムとしては最新作の『梵唄 -bonbai-』の曲が収録順に演奏されていく。わかってはいたけれど、BRAHMANのライブにペース配分なんて言葉も手加減なんて言葉もない。ただひたすらに今この瞬間を全力で生きていくというだけ。だからTOSHI-LOWも初っ端からステージを激しく動き回りながら歌い、MAKOTOもステージ端のほうまで目一杯使って足を振り上げたりしながらベースを弾くのだが、それは観客もそうだ。2曲目、“雷同”からはまだここから4時間もライブが続くということが考えられないくらいに、スタンディングのアリーナではダイバーが続出している。それはいろんな付加情報がありながらも、ただいつものBRAHMANのライブとその楽しみ方を互いにやるということだ。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート! - TOSHI-LOW(Vo)TOSHI-LOW(Vo)
『梵唄 -bonbai-』には怒りを表明する曲も入っているが、対照的にTOSHI-LOWの、そして、BRAHMANの優しさを感じさせてくれる曲も入っている。そのひとつが“今夜”で、TOSHI-LOWが歌詞をこの日に合わせて「横浜」に替えて歌う箇所もあったが、そのTOSHI-LOWの歌唱からはどこか包容力のようなものすら感じられる。逞しい父親が子供のために歌っているかのような力が。それは今の年齢とキャリアのBRAHMANだからこそ感じられるものであり、“ナミノウタゲ”やスクリーンにメンバーが演奏する姿が映し出された“満月の夕”という、東日本と関西で起きた震災から立ち上がってきた人たちと場所を想起させる曲たちからも感じられるものだ。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート! - KOHKI(G)KOHKI(G)
震災という意味で言うと、再びSEが流れたことによって場面が転換するようになってから演奏された“初期衝動”でスタートするアルバム『超克』のゾーンは、その頃の記憶を思い出させてくれる時間でもある。当時のように映像が使われるということはなく、ただひたすらにメンバーが演奏する音を観客が受け止めて、時にはダイブなどの形で返すという衝動のキャッチボールはありながらも、“鼎の問”でのTOSHI-LOWの絶唱やKOHKIのギターフレーズは、あの東日本大震災のあとにBRAHMANのライブや行動がどれだけ我々に力を与えてくれたかということを思い出させてくれる。TOSHI-LOWの背中を見ては「ああいう人間になりたい」と思ってきたことも、それが今でも少しも変わっていないということも。それは、目の前でこの曲たちを演奏しているBRAHMANが今もただひたすらにかっこいいバンドであり続けているからだ。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート! - MAKOTO(B)MAKOTO(B)
再びのSEが流れてからの“The only way”から始まった『ANTINOMY』。アルバムを遡っていくように、そのアルバムの収録順に曲が演奏されているということに観客たちも気づき始めるのだが、恐ろしいのはSEが流れている時間以外は休憩らしい時間が全くないということ。こんなにも肉体をフルに使ったライブをぶっ通しでやり続けている。そのタフさは肉体的というよりもむしろ精神面にあると思いながら観ていた。絶対に自分自身に妥協を許さないという強い意志。体力はもちろんそんな精神力によってこのライブが作られている。本当に強く逞しい人間が4人揃ったバンドだなと思わざるを得ない。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート! - RONZI(Dr)RONZI(Dr)
しかしながら、ここまでの「アルバムごと」の流れが崩れ去るように感じたのは、“THE VOID”から“BASIS”に繋がることによって、『THE MIDDLE WAY』『A FORLORN HOPE』『A MAN OF THE WORLD』という3枚の曲が順番関係なしに次々に演奏されていったから。休憩はもちろんMCすらもなく、すでに40曲近く演奏しているバンドもすさまじいが、そのバンドについていくアリーナの観客たちもすさまじい。振り落とされないように、置いていかれないようにバンドにしがみついているのがわかる。それは一度掴んだBRAHMANというバンドの音楽を二度と離さないとでもいうように。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート!
もう70曲になろうかというくらいの終盤に配置された“PLASTIC SMILE”“PLACEBO”ではついにTOSHI-LOWもステージに膝をつくようにして歌う。さらに力を振り絞るかのようにして歌っているということでもあるが、その直後の“ANSWER FOR…”では場内の照明が客席のほうまで点くことによってダイバーが続出している客席の光景がより一層はっきりと見えるようになり、それまではバンドが演奏する姿しか映っていなかったスクリーンにも観客たちの姿が映るようになる。これだけの激しさの中でこの曲数をアリーナで耐え抜きながらなおもみんなが笑顔を浮かべている。それはBRAHMANとBRAHMANの音楽を聴いて、ライブを観て、生きてきた人たちとの絆を感じさせるものであるように見えた。そしてこれからもずっとこうやって生きていくということも感じさせられた。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート!
そして、TOSHI-LOWは“TONGFARR”のイントロで「ラスト! ちゃんと立ってる!」とバンドも観客も称えるように腕を広げて叫んだ。しかしこの曲では終わらず、「え? マジで?」というような表情をTOSHI-LOWが浮かべたのは、RONZIがそのままドラムを叩き続けて“FLYING SAUCER”“BEYOND THE MOUNTAIN”“ARTMAN”の3曲を追加したから。この3曲は終演後にスクリーンに流れたセットリストの中には入っていなかった。急遽バンドが曲を加えたということだ。

それができる、やろうとするRONZI、MAKOTO、KOHKIのすさまじさ。BRAHMANはとにかくTOSHI-LOWの存在に目がいきがちだけれど、BRAHMANがBRAHMANたり得てきたのはこの3人がBRAHMANであり続けてきたからだと思った。TOSHI-LOWについていくんじゃない、TOSHI-LOWと対等でいることができる、この世に3人しかいない存在。曲が終わってメンバーが楽器を放り投げてステージから去っていくと、新曲“順風満帆”のMVがスクリーンに映し出され、来年のアルバムのリリースとツアーの開催が発表された。ちょうど4時間。始まるまでは長いと思っていた4時間は本当にあっという間だった。それはTOSHI-LOWが最初に言っていたように、1曲1曲のストーリーであり、1秒1秒の積み重ねだったから。

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート!
ずっとBRAHMANのライブを観ては「こんな人間になりたい」と思ってきた。でもなれないのもわかっていた。あんなに強い人間になることなんてできない。でも自分の人生の中におけるかっこいいを貫くことならできる。無謀だと思っていたことをやってのけ、「俺たちはやれた。お前はどうだ?」ということを言葉ではなく全身全霊の一挙手一投足で訴えかけてくれている。年齢を重ねていくことによってすぐに諦めることが多くなってきた自分自身の甘さに喝を入れてくれるような気持ちになる。

それはこの日ステージで休憩全くなしの4時間のライブをやり切った4人が最後に笑顔を浮かべていたから。その姿は化け物でも怪物でもない、我々と同じ人間だったから。でもやはりBRAHMANはただの人間じゃなくて、究極に人間臭い人間だったのだ。(ソノダマン)

全75曲、4時間ライブの果てにステージと客席にあったのは共に戦い抜いたからこその笑顔だった──BRAHMAN「六梵全書」をレポート!


●セットリスト
「六梵全書 Six full albums of all songs」
2024.11.4 神奈川・横浜BUNTAI

01. 真善美
02. 雷同
03. EVERMORE FOREVER MORE
04. AFTER-SENSATION
05. 其限
06. 今夜
07. 守破離
08. 怒涛の彼方
09. 不倶戴天
10. ナミノウタゲ
11. 天馬空を行く
12. 満月の夕
13. 初期衝動
14. 賽の河原
15. 今際の際
16. 俤
17. 露命
18. 空谷の跫音
19. 遠国
20. 警醒
21. 最終章
22. JESUS WAS A CROSS MAKER
23. 鼎の問
24. 霹靂
25. 虚空ヲ掴ム
26. THE ONLY WAY
27. SPECULATION
28. EPIGRAM
29. STAND ALOOF
30. SILENT DAY
31. ONENESS
32. HANDAN'S PILLOW
33. YOU DON'T LIVE HERE ANYMORE
34. CAUSATION
35. FIBS IN THE HAND
36. 逆光
37. KAMUY-PIRMA
38. THE VOID
39. BASIS
40. SHADOW PLAY
41. DOUBLE-BLIND DOCUMENTS
42. SHOW
43. GOIN' DOWN
44. SEE OFF
45. CHERRIES WERE MADE FOR EATING
46. BOX
47. DEEP
48. NO LIGHT THEORY
49. 時の鐘
50. FROM MY WINDOW
51. FAR FROM...
52. BED SPACE REQUIEM
53. SLIDING WINDOW
54. THAT'S ALL
55. THERE'S NO SHORTER WAY IN THIS LIFE
56. CIRCLE BACK
57. NEW SENTIMENT
58. LOSE ALL
59. Z
60. A WHITE DEEP MORNING
61. TREES LINING A STREET
62. HIGH COMPASSION
63. LAST WAR
64. MIS 16
65. (a piece of) BLUE MOON
66. BYWAY
67. PLASTIC SMILE
68. PLACEBO
69. ANSWER FOR…
70. ARRIVAL TIME
71. FOR ONE'S LIFE
72. TONGFARR
73. FLYING SAUCER
74. BEYOND THE MOUNTAIN
75. ARTMAN
76. 順風満帆 Music Video

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