吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM

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「リキッドルームは高校生の頃、友達と一緒に、凛として時雨さんを観に来たのが最初だったんですけど。『リキッドルームって大きいなあ』って思って。『こういうところでライヴしてるのって、どんな気持ちなんだろう?』って思ってたんですけど……なんか、嬉しい気持ちですね」。満場のオーディエンスに、ひと言ひと言ふわっと語りかける吉澤嘉代子の言葉からも、この瞬間の喜びと充実感が伝わってくる。

10月に発売したメジャー3作目・通算4作目となるミニアルバム『秘密公園』を携えて、計8公演にわたって行われてきた全国ワンマンツアー「吉澤嘉代子 秘密ツアー ~8都市を巡る秘密公演~」のセミファイナル、東京・LIQUIDROOM ebisu。ポップの不思議世界に迷い込んだようなカラフルな歌世界と、表現者・吉澤嘉代子の切実な想いが目映いマーブル模様を描いていくような、どこまでもマジカルなステージだった。

吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
Key:伊澤一葉(the HIATUS、あっぱ)/G:弓木英梨乃(KIRINJI)/B:Shige(DadaD)/Dr:神谷洵平(赤い靴)というラインナップとともに行われている今回の「秘密ツアー」。そんな辣腕メンバーの繰り出すアンサンブルの上で軽やかに踊り回る、透き通るような歌声の輝度と浮力が、冒頭の清冽なラブソング“ユキカ”からフロアのクラップを呼び起こしていく。

吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
自らアコギをかき鳴らしつつ力いっぱいパーカッションを連打してみせた“ユキカ”から、タンバリンを叩きながらシュープリームス“恋はあせらず”の続編的ナンバー“キスはあせらず”のモータウンビートへ――といった最新ミニアルバム『秘密公園』の楽曲から幕を開けたこの日のアクト。そのままインディーズ時代からの人気曲“未成年の主張”、続けて“チョベリグ”へ、とサーフロックテイストなサウンドに流れ込みながら、なんと曲の途中でマイクを持ったままフロアに歩み入って、会場に驚きと感激を巻き起こしていく。

吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
昭和歌謡/ディスコ/ファンク/ロック/グループサウンズなどレトロかつ豊潤な音楽性と、1曲ごとに映画ばりのキャラ設定が施された主人公の姿を歌で「演じる」独特の存在感。ライヴ序盤にして、フロアは吉澤嘉代子時空とでも呼ぶべき浮遊感で包み込まれている。情念とセンチメントがせめぎ合う“化粧落とし”で見せたオトナの妖艶な表情。《許されないのなら いっそ あなたの恋人に抱かれたいと思った》と禁断の恋に胸焦がす少女の姿を、魅惑のファルセットとともにメロディアスに歌い上げる“うそつき”……フィクショナルな設定を借りながら、彼女の歌のひとつひとつが観る者のリアルな記憶や感情と共振し響き合っていく。

吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
ライヴ中盤、「子供の頃は使えていた魔法を取り戻したいと思って作った、大切な曲です」という言葉とともに披露したのは“ストッキング”だった。夢で会った魔女に憧れて「魔女修行」に勤しんでいたという彼女が、自身の子供時代に決着をつけるべく書かれたこの曲。《自分の力を 信じきれなくなるとき/いびつに歪んだ心は たった一つの魔法を忘れかけていたんだ》という彼女自身の「物語」が、他でもない今の彼女の歌という確かな魔法と一体となって、会場の隅々にまで広がっていった。

吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
“泣き虫ジュゴン”の震えるほどの美しさから、ゴージャスなディスコポップ“綺麗”、さらに“真珠”といった『秘密公園』の楽曲を立て続けに披露。“運命の人”ではクイーンばりのギターアンサンブルを弓木/Shige/伊澤のトリプルギターで再現してみせたり、ヤンキーに恋する幼い恋心を歌った歌謡ロックナンバー“ブルーベリーシガレット”では全員サングラス姿で演奏したり、と遊び心も満載。稀代のムダ毛アンセム(?)“ケケケ”では《シェーバー》のコール&レスポンスを巻き起こしてみせた後、『秘密公園』からの“必殺サイボーグ”の伸びやかな熱唱と躍動感で、本編の終幕を鮮烈に彩ってみせた。

吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
アンコールでは、2月17日にリリースされる2ndフルアルバム『東京絶景』に触れつつ、新たなツアーの開催を発表。そのツアーの東京公演は、4月30日・東京国際フォーラム ホールCでのワンマンライヴ。自身初となるホール公演の開催を告げる彼女の言葉に、熱い拍手喝采が湧き起こっていく。ニューアルバムのタイトル曲“東京絶景”を至上のアンサンブルとともに美しく響かせて終了――かと思いきや、鳴り止まない手拍子に応えて彼女がひとりで舞台に登場。「今日歌ってて、何回もびっくりしました。みなさんこんなに暑い中、こうやって聴いていることに。私ってこんな人間じゃないのにって。ありがとうございます!」と感謝の想いを語る彼女に、再び拍手が湧く。

「ずっと、曲を作って、録音して、ライヴをしていきたいなぁ……」。ひとり言のような、決意表明のような言葉の後、彼女いわく「一番新しい曲」をアコギ弾き語りで披露。朝帰りの場面と切ない気持ちを織り込んだ歌が、ライヴの余韻とともに深く胸に染み渡った。唯一無二の表現者:吉澤嘉代子の存在証明のような、確かな手応えに満ちた一夜だった。(高橋智樹)


吉澤嘉代子@恵比寿LIQUIDROOM
●セットリスト

01.ユキカ
02.キスはあせらず
03.未成年の主張
04.チョベリグ
05.化粧落とし
06.うそつき
07.がらんどう
08.ストッキング
09.泣き虫ジュゴン
10.綺麗
11.真珠
12.運命の人
13.美少女
14.ブルーベリーシガレット
15.ケケケ
16.必殺サイボーグ
(encore 1)
17.東京絶景
(encore 2)
18.新曲
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