20分以上押して始まったこの日のショウ、記念すべき一曲目は今年リリースされた最新ソロ・アルバム『ジーズ・ピープル』のナンバー、“Out Of My Body”だった。一気に覚醒を促す切れ味鋭いギターのストロークを合図にスポットライトの真下にリチャードが登場、そのいきなりカリスマティックな姿に場内からはどよめきが起こる。ライトが激しく点滅する中パーカッシヴなストリングスが畳み掛けられるクライマックスの勢いをそのままに、そのままヴァーヴの“Space And Time”へ。この日はヴァーヴの曲も躊躇なくがんがんセットに混ぜ込んでいく集大成なパフォーマンスで、リチャードはギターも弾く。
そして「おれの歌にはすべてメッセージがある」とリチャードが言って始まった“Music Is Power”では、そこにさらにソロ3作目『キー・トゥ・ザ・ワールド』のナンバーらしいソウルフルなグルーヴが加わり、「カモーン!!!」と叫びながらTシャツをまくりあげ、裸の胸の心臓辺りを拳でドンドンと叩くリチャード。そんな“Music Is Power”からストリングスを過剰に盛り込んだドラマティックなアレンジで聴かせ、最後にはリチャードがアコギを抱きしめうずくまった“Sonnet”、そして靴を脱ぎ捨てたリチャードがその靴を両手に持ってビシバシとブチ叩きながら手拍子を促す“Science Of Silence”に至った3曲は中盤のクライマックスで、まさに「これぞリチャード・アシュクロフト!」という正気と狂気の狭間のカリスマっぷりが露になったセクションだったと言える。ちなみにステージでよく靴を脱ぐリチャードだが、ヴァーヴ時代の彼はたいてい裸足だったのに対して昨夜はちゃんと靴下を履いていたのを見てちょっと笑ってしまった。
そう、ヴァーヴのセカンド・アルバム『ア・ノーザン・ソウル』と比較すると、『アーバン・ヒムス』とはヴァーヴというよりも「リチャード・アシュクロフトのアルバム」だったんだな、とつくづく思うのだ。あれは彼のエゴマニアックでスピリチュアルな世界観の元で統一された作品であり、ロック・バンドの共和制の中ではけっして生まれ得なかったアルバムだ。「バンド」としてのヴァーヴはやはり『ア・ノーザン・ソウル』後の最初の解散で終わっていたのだと思うし、“Bitter Sweet Symphony”の高らかな号令と共に復活したのはヴァーヴというバンドではなく、究極的にはリチャード・アシュクロフトという独りの男、唯一無二のカリスマだったのだと思う。彼のソロ初シングルの“A Song For The Lovers”から“The Drugs Don’t Work”へ、リチャードの弾き語り演奏を見守りながらそんなことを考えていたが、“The Drugs Don’t Work”の後半でバンドが合流、そのド迫力のアンサンブルで一気に意識を引き戻される。
「うちの奥さんに見せたいから」とリチャードが会場のファンを撮影、そんな和気あいあいから一転“Hold On”のダンス・ビートでリチャードの2016年がアップデートされていく演出も素晴らしかったし、オール・ラストはもちろん“Bitter Sweet Symphony”、最前列のファンたちに次々にマイクを渡して歌わせていくリチャードと、それに大声張り上げて応える私たちの総力戦で幕閉じたフィナーレも完璧だった。(粉川しの)
01. Out Of My Body
02. Space and Time
03. Break The Night With Colour
04. They Don’t Own Me
05. This Is How It Feels
06. Music Is Power
07. Sonnet
08. Science Of Silence
09. These People
10. Lucky Man
En1. History
En2. A Song For The Lovers
En3. The Drugs Don’t Work
En4. Hold On
En5. Bitter Sweet Symphony