ザ・ティン・ティンズ @ SHIBUYA-AX

ザ・ティン・ティンズ
ザ・ティン・ティンズ
ザ・ティン・ティンズ
デビュー・アルバム『ウィ・スターテッド・ナッシング』が全英チャート1位を獲するなど、08年ブレイクを果たした男女デュオ、ザ・ティン・ティンズ。ポップかつ端正にまとまったCDからは意外とも思えるほど、すさまじい熱量を放ったサマーソニック08でのパフォーマンスも話題を呼んだ。その後もiPodや飲料のCMで楽曲が使用されたりしたことなどもきっかけとなって、ここ日本でもファン層を拡大させてきた彼ら。ようやく実現した日本ツアーとあって、今夜の公演もチケットはソールドアウト。フロアも開演10分前には超満員になっており、万全の体勢で主役の登場を待ち構えている。

ステージには、中央にドラムセットが、その左側にもバスドラとハイハットのみのセカンド・ドラムセットがある。そして中央右にはシンセサイザーがあり、その右側に、バンドのロゴがデカデカと描かれたバスドラが用意されている。ザ・ティン・ティンズのライブは基本サポート・メンバーなし。二人でこれらの楽器・機材を操っていくのだ。

暗転とともに、大きな歓声と拍手が。1Fフロア前方は、後方にいた人が一気に押し寄せ、人口密度も急上昇。皆、もみくちゃになりながらも、中央のドラムセットに腰かけたジュールズに向けて歓声と拍手を送っている。“ウィ・ウォーク”のイントロ・ビートを奏でると、そこで「ワァッ〜」とまたひときわ大きな歓声が。なんと、ジュールズはドラムとベースを同時に演奏しているのだ。そして、ケイティが、グレーのカットソーチュニックの裾のドレープをひらひらさせながら、颯爽と登場。「Ah Ah Ah」という哀愁漂うコーラスに合わせ、フロアからは自然と手拍子が。この曲は、アルバム随一のドラマチック・ナンバー。「うまくいかなかったら選択した道を行けばいいだけ」という内容や、ループ・ペダルによるコーラスの反復、規則正しく脈打つ拍は、バンド自身はもちろん、聴き手を鼓舞する行進曲のように、気持ちをグイグイと高揚させていく。「We Walk」というケイティのシャウトと同時に、フロアも手を掲げながら「We Walk」と歌い上げる。

続いて早くも“グレイトDJ”が。ケイティのボーカリストとしてのパンキッシュな魅力が全開になっていく。ギターをかき鳴らしながら、髪を振り乱しシャウトするケイティには、ロックな衝動がみなぎっている。「ザ・ドラム、ザ・ドラム、ザ・ドラム」という、冷静に言葉だけ並べたら「?」というシンプルな歌詞達に、イキイキとした魂を吹き込み、カッコ良く響かせてしまうマジック。売れないアイドル・グループの一員だった過去もあり、基礎的な歌唱力はバッチリ。だが、スキルがあるからといっても、それだけではライブに対する今のような好評判は得られなかっただろう。生い立ちなど知らなくても、ライブでの芯の通ったパフォーマンスを観れば、ザ・ティン・ティンズの世界観というのが、「狙って作られた世界」ではなく「二人にとっての必然」であることがよくわかる。CDでは収まりきらない衝動がぶちまけられ、あんな軽快なダンス・サウンドなのに、ヒリヒリとした手ごたえと情緒を残していく。間口の広いポップネスを有しながらも、ロックの興奮をもたらしてくれるバンドなのだ。

“フルーツ・マシーン”“キープ・ユア・ヘッド”に続く“トラフィック・ライト”“ビー・ザ・ワン”といった、ガールズ・ギター・ポップ的な曲になると、ケイティは驚くほど可憐な歌声も聴かせてくれるけれど、それもまた良し。男女デュオならではのコーラスの妙も楽しめる。

一転してザクザクとしたビートで幕あける“ウィ・スターテッド・ナッシング”。軽快なバンド・アンサンブルのループに、ブレイク・ポイントに向けループ・ペダルで歌声や音色を重ねていき、ジワジワとフロアの基礎体温を上げてトランス状態に導いていく。これまでの即効性の強いポップ・ナンバーとは一味違う粘っこいグルーヴで、ダンスの聖地マンチェ出身のデュオならではの百戦錬磨ぶりを発揮。そしていよいよ“シャット・アップ・アンド・レット・ミー・ゴー”を投下。フロアが一斉にジャンプしての「Hey!」コールにはなんとも言えない爽快感が。一度袖に引っ込んだ二人。アンコールでは、ヒートアップしたフロアを、平熱の世界へと引き戻すように、密室感のあるニュー・ウェイヴ・ナンバー“インパシラ・カーピサング”を繰り出す。そのまま突入した、“ザッツ・ノット・マイ・ネーム”での幕切れのあっけなさは、フロアに充足感と渇望感が入り混じる、なんともいえない余韻を残していた。それは、確信犯的に次への渇望感を煽るような余韻なのだ。きっちりアルバム収録曲全10曲をパフォーマンス。抜群のポップ感覚に加え、ちょっとやそっとでは消費されないアクの強さも備えている二人。まんまと術中にはまってしまっているけれど、本当に、次の一手がどうなるのか楽しみ。(森田美喜子)