おいしくるメロンパンとChevon、渋谷で炸裂したふたつの音塊!──「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」全公演レポートPart 1 〜東京Spotify O-EAST編〜

おいしくるメロンパンとChevon、渋谷で炸裂したふたつの音塊!──「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」全公演レポートPart 1 〜東京Spotify O-EAST編〜 - All photo by 郡元菜摘All photo by 郡元菜摘

今年、結成10周年。春に新作ミニアルバム『antique』がリリースされることもアナウンスされているおいしくるメロンパンが、2マンツアー「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」を現在開催中だ。彼らが2マンツアーを行うのは2019年以来、約5年ぶりとなる。ミュージシャンには、ワンマンでもなく、フェスでもなく、「対バン」だからこそ見せる表情がある。この5年の間にスケールも深みも増したおいしくるメロンパンは、今回の2マンツアーで私たちにどんな表情を見せているのか。「rockinon.com」では今ツアーの全公演をレポートし、おいしくるメロンパンの現在進行形の姿を捉えようと思う。セットリストをすべて記述するのはファイナルの大阪公演まで控えるが、各会場の現場の空気感が伝われば幸いである。まずはツアー初日、2月14日の東京・Spotify O-EAST公演から。この日のゲストはChevonだ。

おいしくるメロンパンとChevon、渋谷で炸裂したふたつの音塊!──「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」全公演レポートPart 1 〜東京Spotify O-EAST編〜

2月14日、日にち的にはバレンタインだが、O-EASTは甘ったるさとは無縁の熱狂に包み込まれた。ふたつの激しい音塊が、渋谷で蜂合わせた。「PAN or RICE...?」ツアーの初日、トップバッターを飾ったChevonは、「一体にならない一体感」とでも言おうか、観るもの一人ひとりを「個」として抱きしめながら、そのうえで巨大な熱狂の渦に巻き込んでいくような、鮮やかで濃密なパフォーマンスを見せた。サポートドラムの小林令(Dr)による強烈な迫力のドラミングに乗せて、Ktjm(G)とオオノタツヤ(B)がまずステージに登場。最後にステージに谷絹茉優(Vo)が姿を現すと、大きな歓声が会場を包み込む。その歓声の大きさとフロアいっぱいに膨れ上がった熱気からも、今Chevonに向けられている期待値の高さと、人々の心と視線を惹きつける谷絹のカリスマ性を強く感じるが、谷絹のカリスマは作りものでも、飾りでもなく、あくまでも谷絹の「人間」から表れているものであることを、この日のライブを通しても強く感じた。鋭くも柔和で、豪胆だが繊細。この複雑なカリスマ性は、谷絹が世界に向けて自分自身を開示するからこそ生まれるものだろう。

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クールかつ艶やかな“ノックブーツ”に始まり、“冥冥”へ。そして、谷絹の「新曲やります」という言葉に続き、Ktjmのギターソロも炸裂する“銃電中”へ。初っ端からヘヴィもメロウもダンサブルも、Chevonという獰猛な色彩の一部と化していくようなパフォーマンス。途中、“Banquet”で谷絹が勢い余ってステージから落下してしまうという、ヒヤッとするアクシデントもあったが、構わず歌い続けた谷絹は、やはり強い(本人は「ビックリした~」とあとでガハガハ笑いながら言っていたが、観ている側にはそうとは伝わらないくらい威風堂々とした歌いっぷりだった)。さらにMCでは、おいしくるメロンパンの音楽に出合った頃のエピソードを語る場面も。高校の頃に部活の先輩の影響で、おいしくるメロンパンの存在を知ったという谷絹。「その思い出の曲をカバーさせていただいてもよろしいでしょうか」と言うと、歓声に包まれながら、なんと“色水”のカバーを1コーラス披露。“色水”という楽曲が抱く、シャープな熱情を改めて私たちに伝える名演だった。そんな“色水”カバーから間髪入れずになだれ込んだラストの“サクラループ”。力強くファンキーな演奏に乗せて、ステージ真ん中のお立ち台に立ち、観る者を扇動するようにパワフルな歌唱を響かせた谷絹。空間全体をChevonで魅せて、Chevonで抱きしめて、Chevonに飲み込む――そんな圧倒的なバンドの存在感を見せつけた。

おいしくるメロンパンとChevon、渋谷で炸裂したふたつの音塊!──「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」全公演レポートPart 1 〜東京Spotify O-EAST編〜

Chevonの熱演の余韻が冷めぬ中、転換中のステージに3枚の絨毯が敷かれ始めると、物々しい空気がフロアにも漂い始める。ツアーのホストである、おいしくるメロンパンの出番である。昨年の『eyes』ツアーの最終公演、TOKYO DOME CITY HALLでのワンマンを観た時にも感じたことだが、今のおいしくるメロンパンは猛烈に自由で、解放的で、プリミティブなモードのようだ。彼らがこの10年間ずっと保ち続けている美しき3ピースのアンサンブル、そのミニマリズムはこの日、瞬間瞬間で膨張と収縮を繰り返しながらとんでもない圧力と柔軟性とスケール感で鳴り響いていた。「10年」という季節は、彼らに成熟と同時にさらなる初期衝動を与えたのでは?と思えるほどに、おいしくるメロンパンは自分たちが自分たちであることをステージ上で謳歌していた。しかも、この日はChevonとの対バンということで、新世代バンドの生み出す熱狂に触発され、その激しさにさらなる拍車がかかった部分もあっただろう。

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他のふたりが一切はみ出さない代わりに、踊るように、歌うように、叫ぶようにベースを弾きながらひとりだけ敷かれた絨毯からはみ出しまくっている峯岸翔雪(B)。サウンドのエンジンとなって、爆発力を持ちながらも、しなやかに疾走する原駿太郎(Dr)のドラムは、その精緻さと獰猛さの緩急に恐ろしさすら感じさせた。そしてナカシマ(Vo・G)は、彼が人間として纏う静けさを一切損なわず、その上でとんでもない迫力のギターを鳴らし、逞しい歌声を響かせる、という離れ業をやってのける。Chevonがみずみずしくカバーした“色水”は、本家の手にかかれば、曲の端正な輪郭は壊さないままに各楽器がフリーキーに蠢きまくるような進化を遂げていた。滑らかかつ大胆な曲展開の中で、ナカシマが奏でる鋭利なギターが時間を切り裂くように映える“沈丁花”や、峯岸のベースがゴリゴリに響き渡る間奏も素晴らしいグルーヴィなグランジチューン“空腹な動物のための”といったアグレッシブな楽曲たちの演奏も素晴らしかった。聴く者の人生に殴り込んでくるようなダイレクトさがあった。

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昨年、ミニアルバム『eyes』と『phenomenon』をリリースした頃、ナカシマ(Vo・G)は「もう1度、自分の内側の世界に向き合おうと思った」という旨の発言をしていたし、そんなおいしくるメロンパンの内面世界の最果てから生まれたと言っていいような“渦巻く夏のフェルマータ”という名曲もリリースされている。しかし、自分の内面を見つめることで生み出される結果が、なにも「閉じ籠る」ということだけとは限らない。むしろ、掘って掘って掘り進める、そんな徹底した自己の内面探求の果てに、パッカーンッと、とんでもない開けた境地に行き着いてしまうということが、表現においては起こりえる。今、おいしくるメロンパンに起こっているのはそういうことなのではないかと、この日のライブを観て改めて感じた。

おいしくるメロンパンとChevon、渋谷で炸裂したふたつの音塊!──「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」全公演レポートPart 1 〜東京Spotify O-EAST編〜

MCでナカシマは「対バンなのに、こんなにやりやすいなんてあるんですね」と嬉しそうに言っていた。裏を返せば、これまでの彼らにとっての対バンライブとは、(もちろん時と場合に寄るだろうが)少なからず「やりづらさ」を感じるものでもあったのだろう。しかし、この日の彼らは居心地のよさを感じていた。それはChevonとのバンド同士の親和性の高さもあっただろうし、両バンドのファンが集まった観客たちの空気のよさもあっただろう。そしてなにより、今のおいしくるメロンパンが「自分を受け入れ、世界に飛び込む」という状態をナチュラルにキープできている、そんないいモードにあるからではないかと思う。Chevonの“色水”カバーへのお返しとばかりに、おいしくるメロンパンがChevonの“冥冥”を1コーラスカバーする場面もあり、両バンドの空気が循環していくような清々しさもある2マンライブだった。

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この日、ナカシマは「せっかくの2マンツアーなので、友達をたくさん作って帰りたいと思います」と言っていた。結成10周年にして友達が増えていく、というのは……なんとも、おいしくるメロンパンらしい物語だ。「PAN or RICE...?」ツアー、次回公演は福岡 DRUM LOGOSにて、対バン相手はポルカドットスティングレイ。いったいどんな景色が広がるだろうか。(天野史彬)

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