阿部真央 @ 渋谷duo music exchange

想像以上に激しくエモーショナルで、スケール感に満ち溢れたライブ・パフォーマンスだった。『阿部真央らいぶNO.0.7』。地元九州以外では初のワンマンとなる大阪と東京でのステージである。ツアー・タイトルの示すところでは、まだステージ・キャリアの助走段階といったところなのだろうか。が、これで助走だったら将来は一体どうなってしまうのだという、彼女の底知れないポテンシャルを十二分に示す内容になっていた。

バンド・メンバーが先に現れたステージ上に、更なる大きな歓声を浴びながら阿部が登場する。身に纏うのはブレザー型学生服を着崩したような衣装だ。可愛い? 確かに可愛いと言えば可愛いのだろうが、それ以上に彼女にとっての戦闘服のようにも見える。阿部はアコースティック・ギターを抱え、バンドによるダイナミックで疾走感溢れる演奏に乗せてデビュー・アルバムのタイトル曲でもある“ふりぃ”を歌い出した。制服のような衣装にせよロック・ナンバーの中でのアコギにせよ、今の彼女は自身の歌の原風景に率直であろうとしている気がする。生まれ落ちた歌のエモーションが損なわれないよう、己に強いているように見える。「ホラどーした渋谷!もっと来いよ!」「こんなライブのためにお金払って来たんですか!?」と、序盤から吐き出される想いが大きいぶん、オーディエンスへの要求も大きい。

「真央ちゃーん!」「あべまー!」「可愛いー!」という歓声にはクールな表情を見せていた阿部だったが、さすがに「美脚―!」という声には「やめてくださいよ」と顔を綻ばせてしまう。ついでに「えー、大阪Umeda AKASOからスタートしたツアーですが、惜しまれつつも今回がファイナルです」と笑いを誘っていた。念のため補足しておくが、今回は大阪と東京の2公演のみである。「最後までよろしくお付き合いください」と続けて、今度はアグレッシブなロック・ボーカルから一転、アップテンポなバンド・サウンドの中に伸びやかで芯のある美声を聴かせる“キレイな唄”である。《汚い言葉でできてる僕の全てを/キレイな唄にのせたい のせて君に届けたい…》というフレーズが胸に響く。

中盤戦はバンドが一時ステージを離れ、阿部のソロによるアコースティック・セットとなった。途中、メモを取り出して2010年初頭のニュー・シングル、続くセカンド・アルバム、そして3月からの全国ツアーについての告知をして、オーディエンスに「棒読みー!」とツッコまれたりもしていたが、それでもステージ本編の熱は衰えることがない。男性リスナーとしては彼女の「僕/俺」という独特の一人称が用いられたストーリーテリングはドキリとさせられるし(“情けない男の唄”)、そしてライブだけのレパートリーとして披露される“母の唄”は弾き語りなのにとんでもない熱量を放射する圧巻のパフォーマンスであった。阿部のギター・プレイは、シンプルなコード・ストロークやリフ回しで成り立っている。しかし、「ロックが巧い」とは、こういう演奏のことを言うのだ。拙さが良い、などということは言わない。吐き出すべき大きな感情と突き刺さる言葉があって、それが躊躇無く転がっていく演奏。これが出来るということが既にひとつの才能だし、ひとつの技術なのだ。

再びバンド編成での演奏に戻って、来るニュー・シングルのカップリングとなる新曲“give me your love”がプレイされる。ローリング・ストーンズ風のルーズなロックンロールでかっこいいのだが、このときふいに阿部が「あ……つけまつ毛、はずれたっぽいぞ…」と漏らす。「笑え!笑えー!」と即座にまくしたて、そのまま熱狂的なパフォーマンスへと傾れ込んでいってしまった。オーディエンスが拳を振り上げ、跳ね回り、嬌声を上げている。すごい。なんて大きなコミュニケーションだ。まだ誰も知らないような新曲で、このパフォーマンスである。そして続けて放たれた美しい曲は、ニュー・シングルの“いつの日も”であった。途中、感極まったのか阿部は声を震わせるが、それを隠そうともせずに、まるで泣くようにしてこの曲を歌い切った。

「私にはどうしようもないところもあるし、出来た人間でもない。それでも、表現することでこうしてみんなと繋がることが出来る。仕事だからとか、そういう理由だけで私の側にいる人がいても、今日みんなと一緒にいたことは忘れません」。阿部は本編最後の“17歳の唄”まで、震える声を振り絞り、2本の足でそれを支えるようにして歌った。もしかすると今日の彼女は、喉の調子があまり良くなかったのかもしれない。そのことが苦しくて、悔しくて、余計に声を震わせていたのかもしれない。この日、アルバムの中で明らかに最も激しいエモーションが歌い込まれていた楽曲“デッドライン”は、残念ながら披露されなかった。

ロックは、厄介なアート・フォームだ。耳障りなノイズと音量で、身を切るような叫び声とメッセージで、それ自体が突き刺さる対象を選ぶ。ロックはある一面においては果てしなく優しいが、やはり痛烈でもある。それは、コミュニケーションに一度絶望した人が、それまでのコミュニケーション様式を投げうって、より高度なコミュニケーションを目指すアート・フォームだからだ。阿部のようにロックそのもののパフォーマンスを行う人は、自身が目指すその高度なコミュニケーションがうまく成立しなかった場合、窒息するように苦しく、悔しいはずである。アンコールで彼女は、「こんな声だけど歌ってよ!」と告げ、“I wanna see you”での大きなシンガロングを促し、そして“モンロー”でバンド・メンバーとダンス・パフォーマンスをしてみせた。一見、その姿は陽気で可笑しくもあったが、まるで一切の言葉が通じない異国の地に放り出された人が、何とか身振り手振りで周囲の人々とコミュニケーションを試みるような、切迫感を抱かせるものでもあった。

そして、阿部にとっての理想の形ではなかったかも知れないが、今回のステージにおけるコミュニケーションは成立してしまったのである。終演を告げるSEが流れても多くのファンがフロアを立ち去ろうとせず、流されていた“ふりぃ”に合わせて大合唱を巻き起こしていた光景が、確かにその事実を裏付けていた。ライブ・パフォーマンスには、ときにそういうことが起こる。奇跡ではない。阿部の切迫したパフォーマンスとオーディエンスの力によって、起こるべくして起こったことなのだ。(小池宏和)

セットリスト
1.ふりぃ
2.want you DARLING
3.人見知りの唄~共感してもらえたら嬉しいって話です~
4.キレイな唄
5.コトバ
6.情けない男の唄
7.母の唄
8.Don’t leave me
9.マージナルマン
10.give me your love
11.いつの日も
12.MY BABY
13.貴方の恋人になりたいのです
14.17歳の唄

アンコール1
15.I wanna see you

アンコール2
16.モンロー
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする