Base Ball Bear @ 日本武道館

Base Ball Bear @ 日本武道館
三が日にめでたく、初の武道館単独公演という舞台に上がることとなったBase Ball Bear。ステージには大きな日の丸のバックドロップ、そして「LIVE;(THIS IS THE)BASE BALL BEAR」の公演タイトルが燦然と輝いている。小出は序盤のMCで「まあ僕としては2009年の12月34日みたいな気持ちなんですが」と言っていて、確かに正月気分ではなかっただろうし気持ちも休まらなかったはずだが、ロック・リスナーとしてはこういうライブが観れるということは大変に幸先がいいというか、客入れSEにフジファブリックの曲が流されていたりもするので余計に、頼むぞベボベ、という気持ちになってしまったりするのである。

唐突に場内の照明が落とされて大きな歓声が沸き上がり、4人のメンバーが晴れの舞台に登場する。小出が「ブドウカーン!!」といきなり雄々しいシャウトをぶちかまし、まずは“ドラマチック”からの演奏開始だ。オーディエンスは飛び上がりながらの盛大なハンド・クラップとシンガロングで、急激な上昇線を描くバンド・アンサンブルに喰らいついていく。《あぁ、熱くなれるだけ 熱くなりたい》というフレーズが、真冬の館内に充満する思いとシンクロするようだ。そして“SOSOS”ではステージ後方から放射される真紅のレーザーがダイナミックなロック・コンボを援護射撃し、湯浅の情感溢れるギター・ イントロに導かれてスタートした“changes”はまさしく変革の瞬間を告げるように鳴り響く。ドラマー/堀之内はそのダンス・ビートを刻みながら、嬉しそうに笑顔を見せるのだった。

「今日は全力で駆け抜けて、最後には伝説にしたいと思ってますんで。……ひとつ言っていいですか?今日、親が観に来てるんですよ。なのでこういう、カッコイイこと言うの恥ずかしいんですけど……先に言っておくと後で楽かな、と思いまして。どうぞ最後まで楽しんでいって下さい」。大舞台にもかかわらず、スカしたようなことを言う小出である。さて、ベーシスト/関根のボーカルがフィーチャーされた“LOVE LETTER FROM HEART BEAT”から演奏が再開され、ベボベのサウンド・バリエーションの広さがガッチリと提示された“ヘヴンズドアー・ガールズ”、小出と湯浅の攻撃的なギター・フレーズが交錯する“つよがり少女”と、新旧織り交ぜての楽曲が次々に披露される。巨大なスクリーンや派手なレーザーなどが盛り込まれているものの、ベボベの楽曲のポップ・センスとダイナミックなグルーヴを基本軸に据えたライブ、という姿勢には揺らぐところがない。

「17歳で初めて体育館でやって、ここ(武道館)までくるのに8年ちょっとですか。このおっさん(堀之内)は当時好きだった女の子にフラレたりして、いろいろ変わりましたね。将平(湯浅)! なんで武道館まで来てマイクねえんだよ! どれだけ喋る気ないんだ。(振り向く)おれ関根のそういう笑顔、一番嫌い! 楽屋ではもっと下品な笑い方するじゃん」。何か悪いものでも食ったのか小出、ひとしきりメンバーを罵倒し始める。多分、高校時代からのバンドの道程に思いを馳せ、その道程を共に歩んできたことの感慨に一人で恥ずかしくなったりしているのだと思う。勝手な男だ。なんでこんなに偏屈で身勝手な男から、あの瑞々しくてキラッキラなメロディの数々が生まれてくるのだろうか。「それこそ10代のときは友達もろくに作ろうとしなかったけど、今は自分から入っていくようになったじゃん。こいちゃんカッコいい!」と堀之内がフォローする。「じゃあ変わった部分もあるけど、基本的には変わらないってことで。僕がそんな17歳のときに書いた曲を聴いて下さい。“ホワイトワイライト”」。ドラマティックな、柔らかいメロディが溢れ出す。それこそこういった黄金の小出節は、もしかすると若かりし頃から彼が抱えてきた、鬱屈したコミュニケーション願望の形そのものなのではないだろうかと思う。

「ハイではここでスペシャル・ゲストのウインク・スナイパーさんでーす!1年ぶりぐらいですねー。ちょっと太りました?」と武道館で全国のウインクスナイパー・ファンの殺意を買うことになった小出。一方のウインクスナイパーさんはピース・サインと笑顔を絶やさずに受け応えする。さすがにプロフェッショナルである。ここでウインクスナイパーさん、「武道館で、激アツだわー!」「あけましての、おめでただわー!」「あのカップル、アツアツだわー!」「あいつ、お偉いさんのオッサンだわー!」「マネージャーが、カンカンだわー!」と必殺の萌えボイスでコールを連発。となれば当然、関根リード・ボーカルの“WINK SNIPER”である。関根、ピンク色のレーザーを浴びながらモニターの上にまで乗り上がってノリノリだ。更には恒例、湯浅のダンス・パフォーマンス・タイムへと突入するのだが、袖に引っ込んだ湯浅がなかなか登場しない。延々と続く堀之内のドラム・ソロの中で小出は「将平、まだかよー!」としびれを切らしている。そのとき、ステージ左右の巨大モニターに湯浅の顔が大映しになってオーディエンスの爆笑が巻き起こった。なんと湯浅、楽屋で升酒を煽っているのである。ステージ方向に駆け出した湯浅をカメラが追い、遂にステージに登場すると大喝采。酒も入って上機嫌の湯浅、踊り狂う。さすが武道館公演だ。時間とスペースを贅沢(無駄)に使いまくっている。

“SAYONARA-NOSTALGIA”を披露したのち、小出はこんな話を始めた「17歳のときに僕はこのバンドを始めて、つまり17歳の1年というのは僕にとって人生の転機になった年で、彼女と陽炎の立ち上る坂道をヒイヒイ言いながら登ったこととか、色素の薄い彼女の髪が夕陽に照らされて透き通るようだったこととか、親に内緒で二人で自転車に乗って遠乗りしたこととか、そういうことが全部、今の僕を形作っているのではないかと思います」。そして歌われたのは“17歳”ではなく“BREEEEZE GIRL”であった。消えないあの夏の匂い、色、暑さ。小出節のこういった曲に染み付いたものに触れると、これから先の人生にそれより大事なものがあるのだろうかと思う。でもそれをまた求めていってしまうことからも、逃れられないのだろうなと思う。

ここから終盤にかけては、ベボベ流ダンス・ロックの本領がこれでもかと畳み掛けられていった。“Stairway Generation”“海になりたいpart.2”“CRAZY FOR YOUの季節”“LOVE MATHEMATICS”。結局、どこの舞台に立っても自分たちはこれをやるし、これをやらせたら最高のバンドなんだと言わんばかりの大放出っぷりである。ダンス・ビートがデフォルトでロックのビートになっている世代。彼らにはそのビートの上で歌わなければならないことが、まだ山ほどある。「始まるまではすごく緊張していたんですけど、今まで何で自分が音楽をやってきたのか、とか、そういうものを越えたところで楽しんでいる自分がいました。これが武道館の楽しさだと思いました。また会おうぜー!」という小出の言葉から本編最後の“ELECTRIC SUMMER”のイントロが鳴り響き、同時にリボンを放出するキャノン砲が発射される。踊るアリーナ席一面に金銀のリボンが揺れて、とても奇麗だ。それにしても、今回の公演はアリーナまで座席が用意されていたのだが、誰も彼もが最後まで踊っているのでまるで意味ナシである。

「入れようと思えばもっと入るんですよ。別に武道館に立つことが目標じゃなかったけど、いつでも武道館を一杯にできるようなバンドになろうと思いました」。アンコールに応じて姿を現した小出が、そう語っていた。“夕方ジェネレーション”“BOY MEETS GIRL”という大ぶりなグッド・メロディが場内を満たし、「ギター・湯浅将平! ドラムス・堀之内大介! ベース・関根史織! ボーカル/ギター・小出祐介! 以上4名が、以上4名だけが、Base Ball Bearでした!」というメンバー・コールが成されたとき、今回の公演の成功は確定していた。セカンド・アンコールの“祭りのあと”の狂騒ぶりについては、敢えて触れるまでもないだろう。

終演後、巨大スクリーン上に緊急告知がなされていた。この武道館公演を明けての1月4日、下北沢のライブ・ハウスGARAGEにて、急遽ベボベのワンマン公演が行われるという。18:00開演。終わらない17歳の夏を生きている彼らには、どうやらまだ正月は訪れないようだ。(小池宏和)

セットリスト
1.ドラマチック
2.SOSOS
3.YUME is VISION
4.changes
5.LOVE LETTER FROM HEART BEAT
6.ヘヴンズドアー・ガールズ
7.つよがり少女
8.4D界隈
9.ホワイトワイライト
10.GIRL OF ARMS
11.WINK SNIPER
12.SIMAITAI
13.SAYONARA-NOSTALGIA
14.BREEEEZE GIRL
15.Stairway Generation
16.海になりたい part.2
17.CRAZY FOR YOUの季節
18.LOVE MATHEMATICS
19.ELECTRIC SUMMER

アンコール
20.夕方ジェネレーション
21.BOY MEETS GIRL

アンコール2
22.祭りのあと
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