キャロル・キング/ジェイムス・テイラー @ 日本武道館

pics by YUKI KUROYANAGI
実に本編25曲を歌いきったキャロル・キング&ジェイムス・テイラー、そしてバックを固めるザ・セクションの面々(ダニー・コーチマー:G/ラン・カスケル:B/リー・スカラー:Dr)をはじめとする大所帯バンドに対して、圧巻のスタンディング・オベーションで応える武道館のオーディエンス! さらに、アンコールで飛び出した“ロコモーション”のキャロル・キングの絶唱に、どう見ても40代50代60代がメイン層である会場が一丸となってハンドクラップとコール&レスポンス! 終演までの約2時間半、とにかく徹頭徹尾スタンダード的名曲のオンパレード。高純度なポップ・ミュージックが、2人のマジカルな歌声によって次々に2010年の「今」に花開いていく……そんな幸福な時間だった。


オーストラリア/ニュージーランド/日本を経て7月まで延々全米をサーキットする予定の、キャロル・キングとジェイムス・テイラー、ザ・セクションらによる『トルバドール・リユニオン』ツアー。彼らが青春時代を過ごしたロサンゼルスの伝説のライブハウス「トルバドール」の50周年記念ライブでの再集結&共演から、ついにはオールド・ファン垂涎必至の一大ツアーが実現。ここ日本での「武道館2Days+パシフィコ横浜」という開催規模からも、その熱気のほどは容易に窺い知れる。5月には上記の再集結ライブCD『トルバドール・リユニオン(原題:Live At The Troubadour)』がリリースされるし、そこに収録される“ソー・ファー・アウェイ”“思い出のキャロライナ”“ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー”“イッツ・トゥー・レイト”“きみの友だち(You Got A Friend)”といった名曲群のリストも出回っているので、今日のステージに向け誰もが当然期待の高まるところだ……が。実際にステージに現れたポップ・ミュージック・レジェンドたちは、そんな期待値を軽やかに飛び越えるアクトを観せてくれた。


キャロル・キングがピアノ、ジェイムス・テイラーがアコースティック・ギター、という基本スタイルに、ザ・セクションのバンド・サウンドが加わり、さらにロビー・コンドール(Key)、アンドレア・ゾン(Vo & Fiddle)、ケイト・マルコヴィッツ(Vo)、アーノルド・マッカラー(Vo)という9人編成。まだ公演日程の途中なので曲順掲載は割愛するが、曲ごとにキャロルとジェイムスがリード・ボーカルをとり合いつつ、時にキャロルがハンドマイクで前に出てきたり、ジェイムスがテレキャス構えてダニーとソロ合戦をしたり、拍手喝采に沸く客席にキャロルが「ミナサマウツクシイデス!」とか「イッショニウタイマショウ!」とか片言日本語MCを繰り出したり……という演出も含めたライブ展開はいちいちオーディエンスの間にどよめきのような歓声を巻き起こしていた。「きっちりがっちり合わせる」というよりは個人個人の「揺らぎ」も含めて極上のグルーブへと編み上げていく熟練のバンド・アンサンブルは、豊潤な包容力でもって客席の1人1人を包み込んでもいた。そして……何よりも神秘的に響いたのは、あまりにもエバーグリーンな2人の歌声そのものだ。


“ソー・ファー・アウェイ”の陽だまりのような優しい歌い回しから“ナチュラル・ウーマン”のホットロッド&ハスキーなシャウトまで変幻自在に響かせるキャロル。そして、アーバン・ソウルな曲でも静謐なバラードでも常にメランコリックさと艶やかさを帯びたジェイムスの声。「キャロル・キング68歳&ジェイムス・テイラー62歳にしては若い」とかいう次元ではなく、老いどころか年月の経過すら感じさせない輝きでもって、その歌は今ここで鳴り渡っている。ステージを練り歩くキャロル&ジェイムスの足取りなどは立派に60代のそれなのだが、声だけ聴くと2人とも70年代から明らかに時間が止まっている。


彼ら自身にとっても、もう何度歌い奏でてきたかわからないはずのマスターピースたち。楽曲の深部にアイデンティファイ&没頭する過程と、「みんなのうた」として客観化&対象化する過程を幾度も繰り返す中で、透明な宝石のように磨き抜かれたそれらの曲は、歌い手/作り手のエゴとは無縁の心地好さに満ちている。音楽が透明度を増せば増すほど、聴く者へより深く強く浸透する……というポップ・ミュージックの理想型とも言える瞬間だけで構成されたような2時間半だった。2人だけの静謐な時間を描き出したり、フル・メンバーでゴージャスの極みのような空間を生み出したり……と9人が次々にフォーメーションを変えながらの、本編25曲+アンコール3曲にわたる熱演。本編が約1時間ずつ2部構成になっているのは、「ステージ上のメンバーの体力を気遣って」よりはむしろ「年配のオーディエンスのトイレの近さを気遣って」のことだろう。それぐらい、彼らのアクトはどこまでも自然体かつエネルギッシュなものだった。次回公演は16日、同じくここ武道館にて。(高橋智樹)