真空ホロウ @ 下北沢シェルター

JACKMAN RECORDSよりリリースしたミニ・アルバム(詳細はここ→http://jack.ro69.jp/contents/records/artist/shinkuuhorou.html)のレコ発ライブを、ワンマン、しかも公式サイトで募集をかけての招待制無料ライブ、という形で行うことにした真空ホロウ。応募殺到で、チケットは早々とソールドアウト、といえばきこえはいいが、「売ってないじゃん」というのが、まずある。あと、無料招待制というのは、「普段来ない人も来てくれる」というメリットもあるが、逆に「タダだから行かなくても損しない」というデメリットもある。メジャーの人気バンドとかなら別ですが。しかも当日、かなりの雨。あちゃあ。大丈夫かなあ。と心配したんだけど、見事に満員だった。バンドに対する熱の高い、「なんとなく」じゃない、真剣なファンが多いんだと思う。

本編は12曲。中盤の6曲目と7曲目は、松本明人(vo&g)ひとり、アコースティック・ギター弾き語りのコーナー。で、13曲目のアンコールでは、足の故障でドクターストップがかかり、4月17日渋谷乙のライブをもってバンドを脱退した前任ドラマーの山本ワタルが、ゲストとして参加。パーカッション……なのかなあれ、鉄琴とシンバルを叩いておられました。
で、予定はここまでで終了だったけど、アンコールを求める声がやまず、急遽再登場。3人で14曲目“Small world”をやって、1時間半強のライブをシメた。
元々このバンドを好きだった人は、ひとり残らず大満足して帰っただろうし、タダだから来たって人も、ほぼ全員また来るな、次はお金払って。という確信を持てる、そんなライブだった。
このバンド、本当に、もう観るたびにどんどんよくなる。まずステージ上手でギターを弾きながら、ほとんど身じろぎもせず、目を閉じ気味で歌う松本明人と、ステージ下手でまるで全身でベースを弾いているみたいな激しいアクションを見せ続ける村田智史の対比が、とても画になる、いつ観ても。演奏力は、元々まったくアマチュアの域にいない人たちだけど、ドラムが代わったことによってそこが弱っちゃう(ワタル、いいドラマーだったのです)、ということはまったくなかった。新加入の大貫朋也も優れたドラマーで、ゆえに、歌、ギター、ベース、ドラム、死角ゼロなまま。
最初から実力のある人たちだし、そこにおいては前と変わらないんだけど、その実力をもって何を表現するか、何を伝えるか、何を届けるか、というところが、もう観るたびに進化している感じだった。

自分には、世界はこう見える。こう思える。こう感じられる。ただ、それらは、必ずしも周囲の人たちと同じではないようだけど、というか、ちょっと困るくらい違うようだ。
でも、「じゃあ周りに合わせようか」ってものでもない。というか、それは無理だ。であれば、「自分にはこう見える」ことを、表現物としてアウトプットして、しつこく届けていくしかない。松本明人からきいたわけではないが、というかベースの村田智史としか話したことないが、真空ホロウがやっているのは、そういうことだと僕は思っている。
って、ちょっとわかりにくいか。身近な何かにたとえます。えーと、そうですね、私個人のあれでいうと、たとえば最近、画面に映るたびに「うわあ、イヤっ!」ってあわててチャンネルを替えるCM、だんだん、日に日に、増えているような気がする。その商品に対しては、何の悪感情もない。出ているタレントも嫌いじゃない。むしろ好きだったりする。でも、そのタレントが、どういうシチュエーションで、どういう行動をして、どういう台詞を言っているか、そこのところが、もう身の毛もよだつほどイヤで、イラッときて、勘弁ならないのです。「何これ? これがいいと思ってんの!? よくねえよ! 逆効果だよ!」というものが、増えているような気がするのです。
単におまえの趣味嗜好の話だろ。といわれればその通りなんだけど、こういうことに関して、本当に絶望的な気持ちになるのは、そのCMの作り手たちは、「一般大衆はバカだから、こんなもん作っとけば喜ぶんだよ」という悪意やニヒリズムで動いているわけでは、きっとない、ということだ。「これ、いいよね!」「うん、ぐっとくるよね!」「人に何かが届くよね」みたいな、純粋で前向きなクリエイティヴィティによって、そういうものを作っている、ということだ。
悪意やニヒリズムのほうがまだましだ。却ってすんごい断絶を感じるし、「わかりあえんなあ、これは」と思い知る。で、僕みたいに、歳食ってるし長いことサラリーマンだしで、それなりに世間ずれしてる奴ですら、そんなふうな虚無や絶望を感じたりすることがあるんだから、もうナイーヴの極みみたいな、あからさまに社会性なさそうな松本明人みたいな人は、もうその塊みたいな毎日を送っているんじゃないかと思う。思うが、でも、そこで途方に暮れるわけでもなく、あきらめるわけでもなく、「じゃあどうするか」というアクションが、真空ホロウの音楽になっているんじゃないか、とも思う。つまり、音楽に対してだけは、タフなのだと思う。

そういえば。一度目のアンコールで“I do?”をやる前に、赤いフェンダー・ジャズマスターを手にステージに戻ってきた松本明人は「ワンマンなので……楽器を借してもらいました。これ、“枠”って曲のPVで使われてるギターです」と言った。そう、plentyの江沼に借りたんですね。どっちも茨城・鹿嶋LOOP出身のバンドだし、知り合いなんじゃないかなと思ってたんだけど、やはりそうだったのか。いや、それだけなんだけど、その「ナイーヴだけど強靭」な感じ、確かにplentyと通ずるものがあると思う。(兵庫慎司)

1 終幕のパレード
2 ナサム・コニロム
3 サイレン
4 パルス・リビドー
5 引力と線とは
6 アイラブ (松本明人アコースティック弾き語り)
7 新曲   (同)
8 新曲
9 被害妄想と自己暗示による不快感
10 ストⅡ
11 新曲
12 蘇生のガーデン

アンコール1
13 I do? (+ゲスト:山本ワタル)

アンコール2
14 The small world