スターターは6月同様に“Barking Dogs”だ。文字通り「咆哮」のように吐き出される重低音のパンク・ナンバーだが、ブレイクで一気に重低音を振り切って空高く突き抜ける展開がフィーダーの醍醐味だ。続いて早くも鉄板の“Insomnia”が投入される。“Barking~”のブレイク後の突き抜けた爽快感をまんま引き継ぎ畳みかけるように疾走するエモ。そして続く“Sentimental”では再び重く、激しく、ねちっこいリズム隊が火を噴いていく。この曲ごとに明確に書きわけられるエモーションの高低差、そして迷いがなく無駄も無い緊張感のスイッチングの妙こそがフィーダーである。潔いと言ったらいいのだろうか、彼らのパフォーマンスにはグレーゾーンが無いのだ。しかもグレーゾーンが無いからといって単調になるのではなくて、白と黒、ポジティブとネガティブ、光と影のコントラストの美しさによって聴く者の意識を一瞬たりとも茫洋の境地に置くことがない。そう、常に醒めているのだ。
6月のプレミア・ギグはどこかロウキーで、新曲の試運転を兼ねたそのパフォーマンスは彼らの原点回帰的なムードを醸し出すものだったが、この日のショウは2010年バージョンにアップデイトされた最新最強のフィーダーの出現だったと言っていいだろう。イントロで手拍子が巻き起こった“This Town”、コーラスイントロの段階でどっと歓声が沸いたシンガロングの名曲“Feeling A Moment”、そして正打ち直球のドラムスとこれまた打楽器のようにぶっ叩かれるキーボードのコンビネーションがまるでザ・クラッシュの往年のクラシックスのようなド迫力だった“Renegades”と、前半戦からドラマティックな起承転結でもってぐいぐいショウが進んでいく。ここで「東京元気かー!」とタカさん。単純なことではあるけれど、タカさんの日本語MCはフィーダーとオーディエンスの距離をただそれだけで一気に縮める契機になる。
6月のショウでも重要なキーを担っていたのが“Down To The River”だ。今回の本ナンバーはさらにエピックな広がりを感じさせる堂々たる風格の大曲へと成長を遂げていて、この曲を境として前半戦の起承転結に加えてさらなるストーリー性が強まっていくのを感じる。そして極限まで拡大した“Down To The River”の重くダークなドラマツルギーを一気に振り払い飛翔する“Just The Way I’m Feeling”が猛烈に気持ちがいい。華麗なキーボードの音色も随所でフックになっている。そしてここまでで最大の盛り上がりを記録したのが“Buck Rogers”だ。まさに爆発、といった趣の一撃で、“Down To The River”以降の長大なストーリーの完璧なフィナーレのようにも響いていく。前半戦は鮮やかな起承転結、中盤戦は長編小説のようなストーリーテリングときて、鉄板アンセム“Lost And Found”で幕開けた最終コーナーは、文字通りヒットソング乱れ打ちのウィニングランだ。そこに集った誰もが求めるフィーダーのライブのクライマックスをきっちりまっとうして本編が終了する。
アンコールではタカさんが「おれのツイッター、フォローしてる?」とオーディエンスにおもむろに語りかけ始める。ツイッター上で写真を毎回アップしている『ツアー中に着たパジャマ』の中から名古屋の夜に着たというパジャマを持ってきて、「このパジャマの背中にサインを入れたから、今日、整理番号1番で並んだヤツにあげるよ」とのこと。そして誇らしげに1番の札を掲げた男子が見事パジャマをゲット! タカさんとがっつり握手を交わす。今後のツアーでもパジャマのプレゼントは続けていくとのことなので、我こそは!と思う方は整理番号1番ゲットを目指してみては!? そしてアンコールは“High”、“Just A Day”、“Breeder”の圧巻の乱れ打ちだ。うん、間違いない。フィーダーのライブは、絶対に裏切られることがない。(粉川しの)