氣志團@渋谷C.C.Lemonホール

ニュー・アルバム『木更津グラフィティ』のリリース・ツアー、『KISHIDAN HALL GIG TOUR 氣志團現象2010 A/W ロックンロール・グラフィティ』、ついこないだ発表された追加公演=2011年1月2日&3日・さいたまスーパーアリーナ2デイズも含めて全16本の4本目。なので、セットリストは書けない上に、演出や構成もばらしちゃダメなんだけど、にもかかわらず、全然「何書けばいいんだ」って困らなかった。これほどまでに書きたいことが、観ながらあとからあとから浮かんでくるライブ、珍しい、というくらいだった。つまり、もう、すごくよかった、ということなんだけど、どっから書こうかな。えーと、ちょっと、総括的な話からいきますね。

まず、氣志團が、ライブのおもしろさ・楽しさで勝ち上がってきたバンドであることは周知の事実だが、活動休止した理由のひとつに、そのライブの「おもしろさ」「楽しさ」が飽和状態になってしまった、というのもあると、僕は思っている。
基本的に、氣志團のライブというのは、アイディアも、ネタも、カネも人も手間ひまも、かけられるようになればなるだけ、毎回毎回右肩上がりでどんどん投入していく、そういう、まるでバブル絶頂期の日本経済のような状態で進んできた。ゆえに、コーナー数はどんどん増え、演出は次々と考え出され、ネタは次々とぶっこまれ、登場人物は増殖する一方で、しまいには、「ステージの上の人数だけで下北沢CLUB Que満員」みたいなことになっていた。
これはひとえに、團長綾小路翔がそういう演出家であった、という理由によるものであり、とにかく足す一方で引くことがなかったゆえに、そのバブル絶頂期、いやその少し前くらいから、その「おもしろさ」「楽しさ」及び「豪華さ」の陰、とも言うべき弊害が、ステージに生まれはじめた。

何か。「ぐだぐだ」だ。具体的に言いますね。「なげえよ」ということだ。コーナー数が多い、だから長い。のはまだいいが、そのひとつひとつのコーナーも、やたら長い。氣志團じゃない人(たいてい微熱DANJI、またはそのうちの誰か)がステージでなんかやってるところに、突然團長が出てきて、ひとりひとりと絡みながら順番にピストルで撃ち殺す、というコーナー、よくやっていましたが、正直、私、「これ、ぐだぐだしゃべってないで、キビキビ終わって次のコーナーにいけば、もっとシマるのになあ」と、いつも思っていました。ほかのコーナーでも、大笑いしながらも、同様のことを思うこと、ありました。申し訳ないが。
というわけで、ライブ全体の尺はどんどん伸び、3時間半とか4時間とか4時間半、というようなことになっていく。あ、これ、團長のお友達のDJ OZMAさんのライブにも共通することですね。

その、いわば「バブル経済ライブ」が飽和点に達したのが、活動休止前最後の大会場ライブ、2006年8月の『氣志團万博2006 極東NEVERLAND』だ。というとわかりやすいが、違う。その前年、2005年12月の全国ホール・ツアー『氣志團學園~愛羅武勇からはじめよう~』が、そうでした。このツアーの東京公演、代々木国立競技場で、観ながら私、「これ、もう臨界点だなあ。もうやりきった感じだなあ。『これ以上』ってないよなあ。でも、事務所のボス、実は来年の夏にもでっかいのやるって言ってたよなあ。どうするんだろう?」と思っていました。
で、その結果が、あの『極東NEVERLAND』でした。すごくおもしろかったし楽しかったし感動もしたけど、あれ、氣志團のピークではなかった。ピークを終えたあと、その余力でなんとか形にしました、というものだった。今頃言うな、と自分でも思いますが。

というわけで。休止した頃も、復活した頃も、團長がいろんなところで休止の理由を語っていたが、それらの中に、そういう、「今のままのフォーマットではライブがもう限界」というのもあったと思う。と考えると、復活した去年4月の武道館2デイズと、7月~8月のライブハウスツアーが、メンバー6人だけによる、演出を極端に減らした、というかほぼなくした、「音楽だけ」「ライブ・パフォーマンスだけ」のステージになっていた理由も、とてもよくわかる。バブルを一回まっさらにして、骨と皮だけにならないと、始められなかったのだ。
なお、その時のライブレポはこちら。
武道館 → http://ro69.jp/live/detail/20071
ライブハウス・ツアー → http://ro69.jp/live/detail/24069

しかし。今年の夏、ROCK IN JAPAN FES.等の、フェスでの氣志團のステージは、そういうものではなかった。メンバー全員楽器を置いて「オジャパメン」をやったりしていた。
そして。そういう、いわばリハビリ期間を経た氣志團は、今回のこのツアーで、どうなっているのかというとですね。
細部には触れられないのでざっくり簡単にいうと、前は4時間半かけてやっていたことを、今は2時間50分でやる、そういうものになっています。どういうことかというと、「ぐだぐだ感」が消えた、ということです。つまり、最高だってことです。

演出、コーナー、ネタ、アイディアなどてんこ盛り、でも、タイトで、ひきしまっていて、バブル感ゼロ。おもしろいし楽しいしかっこいいんだけど(そう、「かっこいい」が加わった感じがした)、それらのライブのプラス要因が、どれも筋肉質なのだ。ブヨブヨしていないのだ。
あと、それぞれのコーナーやネタやアイディアが、すべて音楽に直結しているところもすばらしい。って、前は違ったのか。違う時もあった。凝りすぎて、音楽とか、その日のライブ全体のストーリーから、逸脱していってしまう瞬間もあった。『氣志團學園』の時のMC KOREAのコーナーとか、もう血を吐くほど笑ったけど、同時に「これ、もはや何のコーナーなんだかわかんないよなあ」とか思ったのを憶えています。

というのが、なかった。氣志團の楽曲、ライブ全体のストーリー、というふたつの軸がまずあって、そこにすべてのネタや演出やコーナーが収束していく構成。ゆえに「おもしろいから盛り込みました」「やりっぱなし」みたいなパートがゼロ、ステージの上で行われていることすべてに必然がある感じ。
正直、1回だけ、「あ、ここ、下手にひっぱると昔みたいにぐだぐだになる」とヒヤッとした瞬間があったけど、そうなる前に次のコーナーに進んだ。安心しました。

あと、もうひとつ唸ったのが、ニュー・アルバム『木更津グラフィティ』の曲たちの「置き方」。氣志團に限らず、ベテランになると、ライブでやってほしい過去の代表曲がいっぱいあるわけで、ニュー・アルバムの曲ばっかりやられるとそういうニーズに応えられなくなるわけで、よって下手するとその時間だけ明らかに盛り上がってないことになってしまうわけで、そこのせめぎあいがどんなバンドでも難しいわけだけど、「このタイミングでこういうふうにやれば、ファンにニュー・アルバムの曲たちを一番おいしく食べてもらえる」という、考え抜かれた曲順と演出とストーリー作りになっていた。
これ、すんごい感心しました。同じことで困っているベテラン・バンドのみなさん、観ると参考になると思います。おいそれと真似できるものではないとも思うが。

というわけで、これから行くみなさん、期待していいと思います。私、一応メジャー・デビュー以降の、関東近郊での大会場GIG(代々木とか木更津とかドームとか富士急とか)、ほぼすべて観ていますが、その中でも屈指です、今回。(兵庫慎司)