capsule @ 新木場ageHa

5月にリリースした約1年ぶりのニュー・アルバム『WORLD OF FANTASY』のクラブ・ツアー。まだ数本の公演を残しているが、新木場ageHaで行われた公演の模様をレポートしていきたい。演奏された楽曲のタイトルなどネタバレを含むので、今後の公演に参加予定の方はどうぞ閲覧にご注意を。ageHaでの一夜は、23時からアリーナメインホールの他、エントランス側のアイランドバー、プールサイド、屋外テントと4つのDJブース/ステージが同時稼働し、多くの出演者が来場者とともに『WORLD OF FANTASY』リリースを祝う一大パーティの様相を示していた。

アリーナのメインホールには、この夜のトップ出演そしてダブルヘッダーを務めたRAM RIDERをはじめ、ハード・テクノ風のレイヴィーなエレクトロ・チューンの数々できっちりとcapsuleへの援護射撃を果たしていたFPMこと田中知之、そしてアンセミックなトラックを次々に投下し、世界に名を轟かすDJとしての現在地を貫禄とともに見せつけたTaku Takahashi(m-flo)らトップDJ達が名を連ねる。後には不穏で詩的なエレクトロ世界を描き出したTHE LOWBROWSの出演もあったのだが、26:30を回った頃、いよいよcapsuleがステージに迎え入れられた。

まずは中田ヤスタカによるDJプレイからスタートである。今回のショウはDJとライブ・パフォーマンスがミックスされたショウ。近年(特にテクノ方面のアクト)ではDJといってもラップトップ上のプレイリストをミックスしてゆくスタイルが主流になっているので、DJとライブ・パフォーマンスの境界が曖昧になっている部分もあるのだが、テクノロジーの利便性をフルに活用した柔軟なステージになっている。華々しいトラックを連打していたTakuの時間帯から一転、中田は自身が手掛けたリミックス・ナンバーを押さえながら、じわじわとフロアを炙るようにストイックで強靭ななエレクトロを放ってゆく。

そしてけたたましいギター・リフのようにノイジーなシンセ・フレーズが耳をつんざき、“JUMPER”のスタートとともにシルバーの艶やかなドレスを身に纏ったこしじまとしこが、割れんばかりの歓声に包まれて登場だ。ここで場内の温度が少しばかり上昇した感があった。跳ね、煽り立てる身振りを交えつつキュートな歌声を届けてくれるこしじま。やはりこの2人の、それぞれの役割と信頼から成り立つcapsuleの求心力は素晴らしい。ケミストリーというものを、実際に肌で感じる温度が証明している。

エクスタシー・タイムの開始を告げるかのような、サイレンのように響き渡る“FLASH BACK”からの高揚感は本当にとんでもなかった。ちょっとこういうことを書くのはロックずれしたライター丸出しで恥ずかしいのだが、思ってしまったものは仕方がないので書く。中田ヤスタカが繰り出すブリーピー・フレーズというのは、つまりローリング・ストーンズ“ジャンピン・ジャック・フラッシュ”とかRCサクセション“雨上がりの夜空に”とかニルヴァーナ“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”などのロック史に燦然と輝くギター・リフと同じで、つまり「エクスタシーを永遠に約束してしまう」必殺フレーズである。踊り続けることで得られる快楽に重きを置く従来のダンス・ミュージックとは根本的に設計思想が異なる、即効性が高いロックのフレーズなのである。

『WORLD OF FANTASY』というアルバムは、全曲のBPMがほぼ統一され、ストーリー性のある歌詞よりもリフレインとして響くボーカルが数多く配置された、capsule史上最もフロア向けの作品だった。だから最もダンス・ミュージック寄りな作品なのかと言えば、実は中田ヤスタカならではのフレーズ作りがとことん研ぎ澄まされた作品でもあって、つまり極めてロックな作品でもある。今回のステージではそれがより明らかになっていた。工場のノイズのようなビートとエモーショナルなシンセ・フレーズが織り成す“I WILL”、中田自身もサングラスを外してダンサー達を煽り立て、リボンキャノンまでがぶっ放された表題曲“WORLD OF FANTASY”、偏執的なまでに細かいチョップが施された“STRIKER”と、起承転結どころか「起!起!起!起!」みたいなステージになってしまっている。

capsuleぐらい大きな成功を収めているグループならば、深夜のクラブよりもっとファンがアクセスしやすい環境でパフォーマンスを行うことは可能なはずだし、そうするべきという声があるかも知れない。しかし彼らはダンスの現場にこだわる(そのためか、中田は都内で『TAKENOKO!!!』という未成年も入場可能なレギュラー・パーティを開催している)。彼らは即効性の高い楽曲で多くの人々を魅了し、ぜひダンスの現場に足を運んでみて欲しいと考えている。そこには例えば、日々の戦いの辛さに見合うだけの喜びが、或いは大人になるということのひとつの希望が、待っているはずだからだ。

DJプレイではもちろん、中田が手掛けたヒット・ナンバーの数々や、それを更に他の名曲とマッシュ・アップするという楽しみも交えてゆく。“WHAT iS LOVE”を披露しようとするとき、中田がプレイをトチったところをこしじまが「間違えた~!間違えた~!」と囃し立てて、気恥ずかしかったのか中田は浴びるように酒をあおるという微笑ましい一幕もあった。彼ら自身も実に楽しそうだ。そして終盤は、“Starry Sky”や“Stay with You”といった往年の名曲群を立て続けに放ち、新作で封印気味だった名メロディメイカー&名シンガーの面目躍如といったふうに、多幸感を振りまきつつ見せつけてくれる。最後にリミックス・ナンバーを披露して、1時間半というやや短めながらも大満足のステージを終了した。酸素が薄い。

すべての人々にとってダンス・フロアの入場ゲートたらんとするcapsule。次のステージは7/15(金)仙台RIPPLEだ。なお、彼らは8/6(土)に、ROCK IN JAPAN FES.2011でSOUND OF FORESTのトリを務めてくれる。こちらもぜひお楽しみに。(小池宏和)
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