バンド・メンバーにはスティーヴ・ガッド(Dr.)、ウィリー・ウィークス(B.)、クリス・ステイトン(Key.)、そして女性コーラス隊が2人という編成。開演時にはクラプトンが中央やや上手寄り、ウィンウッドが下手寄りというポジションでそれぞれにギターを携え、ウィンウッドによる「グッド・イヴニング!」の挨拶から、彼の歌唱でブラインド・フェイスのアルバムの冒頭を飾る“Had to Cry Today(泣きたい気持ち)”をスタートする。一方、まずは小手調べとばかりに軽快なギター・リフを鳴らすクラプトンである。ジャパン・ツアー初日となった札幌公演のセット・リストは既にインターネット上で公開されているし、そもそもこの2人によるジョイント・ライヴの大半はこのナンバーで幕を開けているのではないかと思われるが、それでもファンにはたまらないものとなったはずだ。この曲を終えるとクラプトンは「ドーモアリガトウ!」と声を弾ませる。何かとても楽しそうな印象だ。
ツイン・ヴォーカルで軽快にカントリー・ブルースを転がす“ロウ・ダウン”を経て、ウィンウッドはステージ下手に設置されたハモンド・オルガンへと向かう。待ってました。マルチ・プレイヤーとして多彩な魅力を見せてくれる彼だけれど、個人的にはやはりこの人のオルガン・プレイをとても楽しみにしていた。2人はバンドと共にタイトなグルーヴを鳴らし始める。クラシックな楽曲群だけれど、素晴らしく同時代的なグルーヴが生まれ来ては響く。それは決して若ぶっているというのとも違って、2人の現役感が世界中のオーディエンスとの交感の中で育んできたというような、とても風通しの良いグルーヴなのだ。この序盤に、早くも珠玉のソウル・ナンバー“プレゼンス・オブ・ザ・ロード”を持ってくる。ウィンウッドからクラプトンへと、リード・ヴォーカルのバトンが繋げられる。クラプトンも渋く、しかし張りのある歌声を聴かせて喉は絶好調のようだ。彼のギターは次第次第にブルージーな熱を帯び、2人の才人の力が高いレヴェルで交錯するさまがはっきりと伝わってくる。
ウィンウッドは時折エレピにスイッチしたりしつつ、女性コーラス隊がハンド・クラップを煽り立てて披露されるのはユーモラスな曲調とアレンジ解釈が光る“We’ll All Right(オールライト)”だ。そしてクラプトンが熱く歌い上げ、ギターを鳴らす定番ブルース“フーチー・クーチー・メン”。もう、この人は生涯でどれだけこの曲をプレイしてきたのだろう。一転して疾走感に満ちたダイナミックなバンド・サウンドで届けられる“ホワイル・ユー・シー・ア・チャンス”、くたびれた感じのブルースの中でエモーショナルなフレーズがせめぎあう“キー・トゥ・ザ・ハイウェイ”とヴァラエティに富んだ選曲が楽しい。“Georgia on My Mind(我が心のジョージア/愛しのジョージア)”は、切々としたウィンウッドのヴォーカルに、ここぞとばかりに繰り出されるクラプトンの泣きのギターという、もうそれしかない、それ最強、という組み合わせの名演だった。
クラプトンが椅子に腰掛けてギターをスイッチし(ちょうどヘッドがこちらを向いてしまう形でうまく見えなかったのだが、セミアコだろうか)、スロウなR&Bナンバー“ドリフティン”で味わい深いオルガンのインプロも加えられる。そしてウィンウッドもアコギを手にとり、2人の歌声とアコースティックなギター・サウンドを活かした濃密な時間が練り上げられてゆく。タイトなバンド・サウンドに始まって、徐々にその深みに引き込まれるような展開である。両者のアルペジオが絡み合うイントロで喝采を誘うのは、ブラインド・フェイスの“Can't Find My Way Home(マイ・ウェイ・ホーム)”だ。“オールライト”のときも感じたけれど、とにかく深みのあるアレンジの凄さを、今になって思い知らされる。そして、なんだかんだ言ってウィンウッドのギターも、クラプトンに見劣りせずプレイされるのだから最高である。行間から大きなスケール感が立ち上ってくるようなパフォーマンスであった。
札幌公演で披露されたという“いとしのレイラ”は横浜アリーナには響かなかったけれど、大した問題ではなかった。そんなことないか。ウィンウッドがどう絡むのか聴いてみたかったか。でも、「そういえばレイラやらなかったな」と思ったぐらいで、それ以外にも無数に見所が存在するステージだったのだ。「セット・リスト公表して、2公演目でレイラはずしちゃうけど余裕」みたいな意図すら感じられる。今後の公演に参加予定の方は、そういうつもりで臨んで頂ければと思う。それぞれ単独でもビッグ・ネームだからという意味ではなくて、やっぱり凄いのだ。エリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドの共演というのは。(小池宏和)
01. Had to Cry Today (Blind Faith)
02. Low Down (J.J. Cale)
03. After Midnight (J.J. Cale)
04. Presence of the Lord (Blind Faith)
05. Glad (Traffic)
06. Well All Right (Buddy Holly)
07. Hoochie Coochie Man (Muddy Waters)
08. While You See a Chance (Steve Winwood)
09. Key to the Highway (Big Bill Broonzy)
10. Pearly Queen (Traffic)
11. Crossroads (Robert Johnson)
12. Georgia on My Mind (Hoagy Carmichael)
- 以下 Acoustic set -
13. Driftin' (Johnny Moore's Three Blazers)
14. That's No Way to Get Along (Robert Wilkins)
15. Wonderful Tonight (Eric Clapton)
16. Can't Find My Way Home (Blind Faith)
- 以上 Acoustic set -
17. Gimme Some Lovin' (The Spencer Davis Group)
18. Voodoo Chile (Jimi Hendrix)
19. Cocaine (J.J. Cale)
encore
20. Dear Mr.Fantasy (Traffic)