Mr.Children @ 東京ドーム

「どうもありがとう! Mr.Childrenです! すごいぞ、すごいぞ東京ドーム!」と序盤から桜井和寿が思わずシャウトしまくるくらいに超弩級のスケール感で炸裂する、ステージ上の桜井和寿・田原健一・中川敬輔・鈴木英哉&サポートKey:小林武史の放つサウンド、そしてそれと響き合う5万人のシンガロング&クラップ! 計42万人動員という規模で行われたスタジアム・ツアー『Mr.Children STADIUM TOUR 2011 SENSE -in the field-』から1年足らずで開催されるドーム・ツアー『MR.CHILDREN POPSAURUS TOUR 2012』。4月14日&15日:京セラドーム大阪から6月5日&6日:ナゴヤドームまで全国6会場・14公演の観客数は実にトータル55万人! 東京公演:東京ドーム3Days(5月23日・25日・26日)だけでも動員数15万人!……というデータ面での巨大さよりも、驚愕もののオブジェやヴィジョンを配しつつドーム横幅いっぱいに広がるステージの巨大さよりも何よりも、この場で鳴り響いている歌とサウンドから浮かび上がる歓喜と「音楽が表現できるもの」の巨大さに、終始目が眩むような感激で包まれた。そんな3時間だった。以下、一部曲目も交えながら、ここにその模様をレポートしていきたい。

 以前のベスト盤2作『Mr.Children 1992-1995』『~1996-2000』(いわゆる『肉』『骨』の2枚)のリリースおよびスタジアム・ツアー『POPSAURUS 2001』から11年、新たに発売されたベスト盤『Mr.Children 2001-2005 〈micro〉』『~2005-2010 〈macro〉』のリリースと並行する形で行われる今回の全国ツアー。まだツアー真っ最中のためセットリスト全掲載や演出に関しての記述は控えるが、「5月10日で、Mr.Childrenがデビューしてから20周年を迎えました! で、出し惜しみなく、数々の名曲を……自分で言っちゃうけど(笑)」と桜井自身もMCで話していた通り、まさにその5月10日当日にリリースされた『〈micro〉』『〈macro〉』からの“youthful days”“フェイク”“エソラ”“GIFT”“箒星”といった楽曲を中心としつつ、『Atomic Heart』のあの曲にシングルB面のあの曲に……といった久々に披露される曲、さらに新曲“祈り~涙の軌道”“End of the day”まで盛り込んで、デビュー以降20年の膨大なキャリアをアンコール含め全24曲に凝縮したような内容。「ベストの出る期間中のツアーということで、もうとにかくみなさんに喜んでもらえるような選曲にしようと。イントロが鳴ったら、みなさんが『この曲知ってる!』『あの時あの女と付き合ってたなあ』とか……いい思い出でも嫌な思い出でも全部思い出しつつ(笑)、楽しめるような選曲にしたつもりです」という桜井の言葉そのままの、イントロのフレーズが鳴った瞬間にその楽曲の時代の空気感まで解凍されてドームの空間に解き放たれていくような驚きと快感に満ちた時間だった。そして、それは取りも直さず、Mr.Childrenというバンドが常に時代と密接に絡み合いながら、90年代・00年代・そして2010年代というそれぞれの時代をリードしてきたということを証明するものでもあった。

 誰よりも真摯かつコンセプチュアルな世界を提示しながら、同時に誰よりもポップで朗らかで包容力にあふれた音楽……特に『〈micro〉』『〈macro〉』に封じ込められた00年代のMr.Childrenの世界は、その両極端の要素を、誰もが驚愕するほどの輝度と強度とスケールでもって展開するものだった。この日、桜井は「日本が大変な時期に」とか「震災後の僕らが強く生きていくために」とか、そういうことは一切言わなかった。ただただ全身全霊を傾けた絶唱でもって、己の楽曲を高らかに歌い上げていた。そして……それによって、彼らが楽曲に籠めてきた想いが「今、ここ」に圧巻のパワーをもって蘇り、聴く者すべての日常を前へ先へとドライブさせていく推進力を生んでいた。「一緒に歌ってほしい! Mr.Childrenの曲ですけど、みんなの歌でありたいと、そう思ってほしいと願ってます!」とドームに呼びかけつつ、“終わりなき旅”では《閉ざされたドアの向こうに 新しい何かが待っていて》のフレーズを観客の合唱に委ね、“蘇生”の《そう何度でも 何度でも 僕は生まれ変わって行ける》の歌詞を5万人にとっての「自分の言葉」に変えながら新しいヴァイブを与えてみせた桜井。楽曲という形で結晶させた己の想いが、聴き手の中で何倍にも大きく育って花開いていく……というポップ・ミュージックのマジックを、観ているだけで震えるほどの規模で、この日のMr.Childrenは体現してしまっていた。

 途方もなくゴージャスな凱歌として響き渡ったロック・ナンバー“fanfare”や、18年前の曲とはとても思えない鮮烈なリアリティをもって胸に迫る“innocent world”も最高だった。が、ハード・エッジなナンバーやエモーショナルなロック・バラードよりもむしろ、“365日”や“くるみ”“Sign”といった優しいハートウォームな楽曲の中にこそ、愛しさも愚かさも引っ括めた人間の根源と向き合うMr.Childrenという表現のラジカルさがより高純度に詰まっている……ということが、この日のアクトからはヴィヴィッドに浮かび上がってきて、なんだか無性に嬉しくなった。

 そして……セットの合間ごとに「あまりにもみんながすごくいい感じなんで、早くみんなの声に応えたくて、シャツを後ろ前に着てしまいました!」とお茶目な顔を見せたり「もっともっと、お近づきになりとうございます! すごい盛り上がってる感じがするのは何かって言うと、酸素が薄いっていうことです(笑)。もちろん、僕らもみなさんも、平常心よりちょっと心拍数が高いんで、いつもより多く酸素を必要としてるんだと思います。だから、このドーム内の酸素は、ちょっと薄うございます!」と熱気あふれる客席をさらに沸点越える勢いで煽り倒したり……といった具合に、ロックとポップの化身のように跳ね回り叫び歌い広大なステージを歩き回る桜井はこの日、いつだってとびっきりの笑顔でオーディエンスと対峙していた。それが彼の、Mr.Childrenの、何物にも屈することのないゼロ武装型の戦闘態勢であり、「音楽の意味」が問われる時代にあってより存在感を増す音楽の神秘そのものだった。《さようなら さようなら さようなら 夢に泥を塗りつける自分の醜さに》という“祈り~涙の軌道”のメロディと歌詞はそのまま、懐疑心と揶揄まみれのこの時代を生きるための揺るぎない指針として胸に響いてくる。

 「『〈micro〉』と『〈macro〉』のジャケット、何が写ってるかご存知ですか? 精子と卵子が写ってます。人間の中で、最も大きい細胞が卵子で、最もちっちゃい細胞が精子です。その卵子と精子がーー合わさってさ(笑)、新しい命が生まれてくれたらいいなあって。今日のライブとか、アルバムを聴いたりして、何か心の中で生まれてくれたらいいなと願ってます」……アンコールのMCで、桜井はそう語っていた。無垢な探究心と不屈のミュージシャンシップが融け合った、最高に朗らかで荘厳なステージだった。自らのキャリアを総動員した、この上なく多幸感に満ちた「ポップ・ミュージックの聖戦」とも言うべき巨大ツアーは、東京ドーム3Daysの残り2公演からナゴヤドーム2公演へとまだまだ続く!(高橋智樹)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする