ゆず @ 東京ドーム(1日目)

ゆず @ 東京ドーム(1日目)
全28曲、怒濤の3時間半。アンコールの終盤に北川悠仁は、「今日、来たかったけど来られなかった人も、たくさんいると思います。ゆずは、ほぼ、2人でドームをやりきったと、お伝えください(笑)。11年前にドームでやったときには、いろんなことが目紛しく変わっていく中で、もう自分のことだけで精一杯で、そのことがずっと引っ掛かっていました。だから、今回は、皆さんに目一杯楽しんで貰おうと思って、やりました」と語る。1997年のインディーズ・デビューから15周年(メジャー・デビューは翌98年)、大阪ドームでの2デイズをこなし、そして北川の言葉どおりに11年ぶりの東京ドーム・ワンマンとなった『YUZU 15th Anniversary Dome Live YUZU YOU 〜二人で、どうむありがとう〜』である。

公演タイトルのとおり、ドーム2デイズの初日は2人きりの弾き語りライヴ。ゆずの基本形であるとは言え、ドームを埋め尽くしたオーディエンスを掌握し続ける楽曲群の芯の強さと2人の表現力、凄まじいものだった。で、直近の6年間を振り返るベスト盤『YUZU YOU』のリリースに伴う公演であるにも関わらず、そこから披露された曲は僅か3曲。アンコールではシングルA面曲連打だったけれども、本編21曲のうちシングルA面曲は7曲(配信含む)に留まり、5/23にリリースされたニュー・シングル曲“with you”も、その前のシングル“翔”もなし。たった2人でドーム一杯のオーディエンスを盛り上げなければならないという条件下で、マゾヒスティックなまでにハードルが高く設定されたこの構成は、一体なんなのだろうか。

もちろん、パフォーマンスがゆずの楽曲と表現力に支えられていた部分はある。しかしそれに加えて、オーディエンスの集中力が凄い。もちろん手を打ち鳴らしたり一斉にシンガロングしたり、楽曲によっては飛び跳ねたり踊ったりするのだけれど、ドーム内の空気に、一瞬たりとも聴き逃すまいとするような、張りつめた集中力が立ち込めているのを感じるのだ。客席のすべてを見渡せるわけではないが、演奏中に隣の友人と会話をしているような人が見当たらない。つまりこの人数(49,076人と発表されていた)で、軽いノリでステージに向き合っている人がいない。今回のセット・リストの構成は、そんなファンへの信頼感によって生み出された部分もあるだろう。自信と押しつけだけでは、ポップ・ミュージックは成立しない。それは、15年のキャリアを誇るゆず自身が誰よりも分かっていることだ。その上で北川は、「皆さんに目一杯楽しんで貰おうと思ってやった」と告げたのだ。背筋に震えが走った。

お馴染み、満場のラジオ体操第一(場内の誘導スタッフもちゃんとやっている)に始まり、バックスクリーン方向の巨大なステージの幕を見据えていると、ゆずの2人がいきなり花道の床下から登場するのが笑える。大掛かりなフェイントだ。花道からせり出したアリーナ中央のステージでパフォーマンスが行われるのである。《下手くそな唄 いっしょに歌おうぜ》と強く呼び掛けながら半分は謙遜にしか聴こえない“嗚呼、青春の日々”から、11年前のドームでも披露された“ドームボンバイエ”を配置。北川の鍵盤ハーモニカが“炎のファイター〜INOKI BOM-BA-YE〜”の熱い旋律を響かせる。

今回の公演では事前にインターネット上で演奏曲のリクエストを募っており、それぞれ①シングル曲 ②カップリング曲 ③アルバム曲 ④未収録曲 というアンケートの項目ごとに楽曲が披露されていった(リクエストは「参考にしたり、ときに激しく無視したり(北川)」)。というわけで②のカップリング曲はレフト・スタンド方向を向きながら、岩沢厚治の歌声が強く伸びて風情を呼び込む“月影”、「これも元々は“夏色”のカップリングでした!」と“贈る詩”、「在庫整理」と称して北川が自動車の被り物を引っ張り出しては“運転技術の向上”などを披露する。2人だけなのに、ときにメロディの芯の強さとハーモニーの鮮やかさとで重厚感を受け止めさせるのが凄い。

④未発表曲のリクエストについては、「曲名を直接書き込む方式だったので、ちょくちょく間違っています」とおもしろ間違い例をフリップで紹介する。“カブトムシ”や“everyday、カチューシャ”辺りは、間違いというよりもカヴァーのリクエストではないだろうか。もともとゆずは、キャンディーズの“春一番”とかやっていたし。“眠れぬ夜”はありそうで無い例。“星くず”は、“くず星”があるという惜しい例。ここで北川、フリップの最後の“☆”というリクエストを先にめくってオチを台無しにてしまったが、まあそれもおもしろかったので結果オーライである。演奏された未発表曲(未音源化曲)は、路上時代からあるナンバーで、岩沢の辛辣な含みを持たせた熱演が光る“うすっぺら”(なんでこの曲が未発表なんだ)と、「リリース・タイミングを逃した」という北川の優しい歌が映える“おじや”である。どちらも素晴らしかった。

アルバム曲に至っては、「さすがにリクエストもバラバラなんで、僕たちのやりたい曲をやります(笑)」と正直申告。今度はライト・スタンド方向を向き、岩沢のバンジョーと北川のカズーが小気味好い“もうすぐ30歳”の一幕では、「いま35だから、四捨五入すれば40歳。なんだ、四捨五入って!?」と自分で言って勝手に怒っている北川である。カラフルな、笑顔を見せる花のイラストが描かれたアコギで披露される“ユーモラス”も名曲だ。北川の雄々しい節回しが炸裂する。セット・リストだけ眺めるとちょっと渋いように目に映るかも知れないが、これ、めちゃくちゃいいセット・リストである。

ゆず @ 東京ドーム(1日目)
シングル曲のリクエスト投票第1位に輝いたのは、北川自身も意外だったと言っていたけれど、昨年の配信シングル“LOVE&PEACH”だった。幸運なオーディエンスや振り付け担当のラッキィ池田、そしてイチロー(もちろん偽物。背番号は15周年にちなんだのか15番)らがステージに招かれ、「みんなが選んだんだから、ちゃんと参加してくださいね!」と、ドーム一杯にお尻をフリフリする楽しいダンスが広がる。こういうダンス曲の人気って、ゆずファンの集中力の裏返しではないかと思う。あと、アンコールの前にゆずマンが登場しファンからのメッセージの数々を紹介していたのだが、「(震災後の)あの辛い時期にこの曲を作ってくれたゆずの気持ちが嬉しい」といったものがあって、なるほど、と思い切り納得した。

リボンキャノンが放たれ盛大にプレイされる“夏色”のあと、バックスクリーン側の巨大ステージの幕が開いて、なんとそこにはフル・オーケストラが控えていた。大きなハープを奏でる人までいる。ここまでの2人きりの熱演が素晴らしかった上に、圧巻のフィナーレである。とりわけ“虹”の、あの少しずつ音が加わって沸々と盛り上がってゆくアレンジが荘厳なオーケストラの響きで再現されるさまはヤバかった。ちなみに最新シングル『with you』にも、こちらは中国国立交響楽団によるオーケストラ・ヴァージョンが収録されている。

さて、アンコールに至る合間には、バラエティ番組『ピカルの定理』からハライチの澤部佑と渡辺直美がステージに乱入。「すみませんすみません」と低い姿勢から渡辺がいきなりブチ切れたりして笑いを誘いつつ、番組のロケを行うというサプライズが。オーディエンスの協力を得て撮影されたはこの一幕は、6/13の放送(ゆずも出演)で使用される予定らしいので、楽しみにして頂きたい。

ゆずの2人がそれぞれ自転車を漕ぎ、バックネット側に設営された第3のステージに移動するサーヴィスも盛り込まれたアンコールは、ヒット・シングルの連打。暗転した場内に無数のペンライトが灯される“Hey和”の光景と、フル・オーケストラにもまったくひけを取らないスピリチュアルなメロディの響きは余りに美しかった。“シュビドゥバー”はゆずという表現スタイルを堂々象徴するようなナンバーだ。それにしても、このヴォリュームで、このスケールで、2日間のドーム公演がそれぞれまったく異なる内容というのは改めて凄い。2日目には何が待ち受けているのだろうか。(小池宏和)


セット・リスト
01: 嗚呼、青春の日々
02: ドームボンバイエ
03: 行こっか
04: ねこじゃらし
05: スミレ
06: 始発列車
07: 月影
08: 赤いキリン
09: 贈る詩
10: 運転技術の向上
11: うすっぺら
12: おじや
13: 月曜日の週末
14: もうすぐ30才
15: うまく言えない
16: ユーモラス
17: 飛べない鳥
18: LOVE&PEACH
19: 夏色
20: 栄光の架橋(オーケストラバージョン)
21: 虹(オーケストラバージョン)

アンコール
01: サヨナラバス
02: いつか
03: センチメンタル
04: Hey和
05: 蛍の光
06: シュビドゥバー
07: てっぺん
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