Thurston Moore All pics by KAZUMICHI KOKEI ハードコアまで見渡すUSオルタナ・ギター・ロック勢の5組によって繰り広げられた初日(レポートはこちら→
http://ro69.jp/live/detail/74633)に続いて、インディー・ポップ/ロックの祭典「Hostess Club Weekender」2日目の模様をレポートしたい。この2日目は初日と打って変わり、Hostess Club Weekenderらしく世界中の(5組中3組はUS勢だけど)アクトが招かれるカラフルで華やかなインディー・ポップの1日となった。
今春、Moshi Moshi Recordsから『ウェイズ・トゥ・フォーゲット』でアルバム・デビュー(日本盤は8月にリリース)を果たしたロンドン出身の4人組=クロック・オペラ。まさに名は体を表すといった印象の、クロックワークのようなリズム感覚にナイーヴな歌を乗せ、沸々と盛り上がるドラマティックなダンス・ポップを構築してくれる。メンバー全員でスティックを振るってパーカッションを打ち鳴らす場面では生々しい躍動感がもたらされるし、ベース・フレーズが独特の絡み方を見せる美曲“Belongings”も素晴らしい。Moshi Moshiのダンス・ポップ感覚は今日でも進化しつつ信頼感を深めている。
2組目は、カリフォルニアはバークレー出身のザ・モーニング・ベンダーズ改めポップ・エトセトラ。単にバンド名が変わっただけではなくて、メンバーの音楽的指向がもの凄い勢いで成長/拡大していることが伝わる大変化のステージだった。クリス(Vo.)の伸びやかかつソウルフルな歌唱力を最大限に活かすソング・ライティングがあり、それに加えてファルセットにオートチューンを噛ませるという、甘く人懐っこいR&Bチューンが連発される。オーディエンスのシンガロングを誘う“C-O-M-M-U-N-I-C-A-T-E”の求心力も半端ではなかった。もしかすると彼らは、とんでもない人気者になってしまうのではないか。表現スタイルはともかく、カーラズ・フラワーズ→マルーン5現象までをも思い起こしてしまった。
続いては、北欧デンマークにて結成、4ADからのリリースを続けるエフタークラング。新作『ピラミダ』の日本盤リリースを12月に控えてのパフォーマンスだ。ジェントルかつフレンドリーな姿勢で演奏に向かうのだが、キャスパー(Vo.)と女性コーラスによる鳥肌が立つほど美しいハーモニーと、神聖さを有したバンドのサウンドスケープに圧倒される。ストリングスやホーン・セクションを配したライヴも見せるそうだけれど、今回はシンセ音の波形がたなびく、むしろ音数が少ないというぐらいの演奏で『ピラミダ』の収録曲を披露する。しかし、その少ない音数が喚起する情景がとんでもない。キャスパーは穏やかな語り口で「北極点に近い……13年ぐらい前?に閉鎖された炭坑町でフィールド・レコーディングした音を持ち帰って、音楽を作ったんだ。これがそうだよ」と話す。人間の生活と大自然とのギリギリのせめぎあいを見つめる、雄大な風景と畏怖と儚さを描き出すようなステージだった。2日目のマイ・ベスト・アクト。
そして4番手としてステージに登場したのは、LA出身のローカル・ネイティヴス。テイラー(Vo./G./etc.)が「来年にリリース予定の新作(『ハミングバード』)を携えての、米国外で初のショウだよ」と話していたとおり、セット・リストのおよそ半分は新曲。DIYなオリジナリティに満ち溢れたギター・ポップ・サウンドの構築と、バンド全員による豊穣なコーラスのハーモニー、そこから立ち上がって来る知的な祭典グルーヴが強固な世界観を打ち出していた。前作に収録されていたトーキング・ヘッズのカヴァー“Warning Sign”は、彼らの美しいハーモニーに彩られて高揚感と同時にふわふわとした浮遊感をもたらしてくれる。後半にかけては“Airplanes”や“Sun Hands”といったナンバーでオーディエンスのハンド・クラップを巻きながらクライマックスを迎える。アーティストとしての成長が伺えるステージであった。
さあ、今回のHostess Club Weekenderの2日間を締め括るのは、サーストン・ムーアだ。ソニック・ユースは事実上の活動停止(でもキムとの共同作業は続いているようで、ヨーコ・オノ、キムとの共作『Yokokimthurston』を発表している)。ベックがプロデュースした昨年のフォーキーなアルバム『デモリッシュド・ソウツ』の楽曲が披露されるステージになるのかと思いきや、サーストンは新バンド=チェルシー・ライト・ムーヴィングも結成していると。つまり、出演者随一のベテランなのに、何をやるのか予想出来ないというおもしろさがあったわけだ。
白シャツにジーンズで登場したサーストンは、さっそくキース・ウッド(G.)、ジョン・モロニー(Dr.)、サマラ・ルベルスキー(B./Vio.)とバンド・メンバーを紹介する。この顔ぶれが件のチェルシー・ライト・ムーヴィングか。鋭利なパンク・サウンドが独特のコード進行でリフを形成し、“Groovy & Linda”、“Burroughs”とオリジナル曲を放ってゆくロック・バンドだ。やった、かっこいい。クールなNYパンク・スタイルや不穏なアンサンブルから急激にバースト・アウトしてゆくディストーションがヤバい。楽曲によってサマラがベースをヴァイオリンに持ち替え、ユニークなベースレス編成(後半はほぼこの形)で13th・フロア・エレヴェーターズのロッキー・エリクソンに“Empires Of Time”を捧げたほか、ファースト・ソロ・アルバム『サイキック・ハーツ』収録曲もこのバンドで披露される。
本編終盤、サーストンが前線のオーディエンスにギターを触らせつつ自らも背面ダイヴを敢行するという狂騒は凄かったけれど、ジョンがサーストンの代わりに「ギターのストラップ、返してくれよ」と呼び掛けてからのアンコールが最高だった。まるでその長い足で、ロックンロールと前衛音楽を一またぎにしてしまうようなサーストンである。何より、今日のステージは「これからのサーストン・ムーア」を強く受け止めさせるショウになっていたことが良かった。というわけで、米オルタナティヴの大物たちが見事なヘッドライナーぶりを見せてくれた第3回目の「Hostess Club Weekender」。次回は2013年2月2日・3日、既にヴァンパイア・ウィークエンドやナイジェル・ゴドリッチのウルトライスタ、ラ・ラ・ライオットらの出演が決定しているので、引き続き乞うご期待。(小池宏和)