星野 源 @ ZEPP TOKYO

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星野 源 @ ZEPP TOKYO
『星野 源 ワンマンの秋~ZEPP東京編~』

大阪と東京、2本のワンマンの2本目。歌とギター星野 源、ベース伊賀航、ドラム伊藤大地の3人で登場、“ばらばら”でライヴがスタート。この間放送されたNHK Eテレの『佐野元春のザ・ソングライターズ』の星野 源の出演回、あれ、すっごくいい番組で、星野 源も佐野元春も本当によい話をしていて、僕も星野 源にインタヴューしたことがあるけど、これまで彼の口からきいたことのないような話も出まくっていたりして、「さすが佐野元春」というか「これはかなわん」というか「でもいくら相手が佐野元春でもやっぱり悔しい」というか、そんな気持ちが頭の中をグルグル回る状態で夢中で観たが、その中で、この曲の歌詞についても語られていたのを思い出した。次は“くせのうた”、続いて“湯気”。「3人だけ」「テンポゆっくり」「音数少ない」「コード弾きよりも単音弾き」みたいな、いわば「『鳴った瞬間』と同じくらい『鳴っていない瞬間』を大事にするプレイ」に浸りながら、これ、相当な実力のミュージシャンが揃ってないとできないアレンジだよなあ、勢いで押し切るのと対極にある音だもんなあ、一音一音、一声一声がこんなにクリアにきこえるってことはその分ごまかしきかないってことだもんなあ、などと、改めて思う。もう、いきなり、すばらしい。

星野 源 @ ZEPP TOKYO
星野 源 @ ZEPP TOKYO
その3曲を終えて、「こんばんは、星野 源です! おっす! おっす!」とあいさつ。「今の3曲目までがうまくいったら成功だ」と自分の中では思っていて、うまくいったからもう今日は成功です! というMCをしたところ、絶妙のタイミングで「成功―!」と叫んだお客がいて、星野くん「えっ性交?」って返したりして、このあと、MCのたびに「成功―!」の声が飛び交うことになりました。
続いて“ひらめき”“彼方”“グー”のあと、ペダルスチールで高田漣が加わる。具合が悪くて倒れた人がスタッフに救助されるのを待ったり、その人にあだ名をつけたり(このあとももう1人倒れました。本人も言っていたが、星野 源のライヴ、毎回倒れるお客さんがいる。確かに、性別・年齢を問わず「朝礼で倒れたことありそうな人」の率が高い気がします。「倒れた人にあだ名をつける」については、ジャパン編集部ブログ(http://ro69.jp/blog/japan/74989)とCut編集部ブログ(http://ro69.jp/blog/cut/)もご覧ください。この日は、ひとりめは「凡ちゃん」、ふたりめは「トキタさん」と名づけられました。なお、「ライヴ観れなくなっちゃうから、ちょっとでも得してもらわないと、と思ってあだ名をつけることにしている」というご本人曰く、「あだ名は得じゃない、という声は受け付けません!」だそうです)したあとに、「ここから2曲、身体が動く曲です」と、“乱視”と“穴を掘る”をプレイ。そして「ファーストの時、細野(晴臣)さんと作った曲です」と“ただいま”を、「サラリーマンにあこがれてたけど無理だった」というひとことに続いて“営業”を歌う。

ここでバンドの3人がはけ、“バイト”を歌い(“営業”の次が“バイト”っていい流れだなあと思う)、「佐野元春のザ・ソングライターズ」の話をして、その番組の中で歌詞をじっくり解説していた“ストーブ”へ。続いて、「まずCDで聴いてほしいからやりません!」と言ったあと、「えー」の声を受けて「じゃあ一番だけやるか!」と、11月28日リリースのニューシングル“知らない”を披露。客席、すんごい集中力で聴き入る。

星野 源 @ ZEPP TOKYO
ここからまたバンドに。某大物アーティストのモノマネで(すごく似てた。大笑いでした)バンドメンバー3人+ここから新たに加わるホーン4人(4人だからSPEEDという名前だそうです)を呼び込み、“パロディ”“茶碗”“夢の外へ”をプレイし、ベース伊賀航に“夢の外へ”のミュージックビデオのダンスをむちゃぶりしたりしつつ、遭難した人が数ヵ月後に日本から数百キロ離れた海で発見されて家族の元へ帰ったというニュースを新幹線の電光掲示板で見て、それでこの曲を書いた、という話もしつつ、“予想”を歌う。そして、本編ラストは、“くだらないの中に”と“フィルム”という「それでなくても名曲だらけなのにその中でもさらに名曲」2連発で、しめくくった。実は今日は体調が悪くて、「これはダメかもしれん」と思ったが、すごい楽しかったです」と、オーディエンスに感謝の意をのべておられました。
で、アンコール。出てくるなり客席から飛んだ「体調、大丈夫?」という声に、「いや、すごい元気なの。なんか、みんなに元気玉みたいなのをもらった気がする」と答えてから、グッズを紹介したり、そのグッズを全身にまとって現れたホーン隊に大笑いしたりしたあと、“日常”を、軽やかに、でもじっくりと歌い、すべてが終了しました。
自分はなんで歌うのか、なんのために歌うのか、ということを綴ったようなこの歌でライヴが終わるの、とてもいいなあと改めて思った。あと、聴けば聴くほど、ふっかい歌詞だなあとも思った。特に、「共感はいらない ひとつだけ大好きなものがあればそれだけで」というライン。このへんに関しても「ザ・ソングライターズ」でじっくり話しておられました。オンエアは11月15日(木)の1回(パート2の再放送)しか残っていないですが、ご本人も放送を観れなくてNHKオンデマンドで買って観たそうなので、未見の方はぜひ。

星野 源 @ ZEPP TOKYO
“予想”を歌う前のMCで、もともと死というものにすごく興味がある、それはたぶん死ぬのがすごくイヤだからだと思う、というような話をしていたが、そしてファンはみんなご存知だと思うが、確かに星野 源の歌には「死」が頻出する。いつか死ぬことだったり、いつか死なれることだったり、死ぬ瞬間のことだったり、死なれる瞬間のことだったり、死んだあとのことだったり、死なれたあとのことだったり。
ロックにおいて、いや、ロックじゃなくても表現というものにおいて、「死」がテーマになる、というのはそうめずらしいことではないが、そういう表現が描く死は、多くの場合、もっと観念的だったり抽象的だったりするものだと思う。でも、星野 源の描く死は、とても具体的で日常的な死だ。匂いや、触り心地や、味や、体温を伴った死だ。バイトや営業や喧嘩や、食事や睡眠と同列のものとして歌われる死だ。他のもっと観念的な死を歌う人の歌には、「死」の手前の状態である「老い」とか「衰え」とかはあんまり出てこないが、星野 源の歌にはあたりまえにいっぱい出てくるのも、そういうことだと思う。
そんな表現を生んでいるミュージシャンって、過去にも、現在にも、ほとんどいないんじゃないかと思う。そしてそれ、ものすごく大事だし、かつ、とても必要なことなのではないか、と思う。あと、星野 源は、もちろん死が好きなわけじゃないし、死ばかりを描きたいわけでもないんだけど、生をちゃんと描こうとすると、どうしても死も描かざるをなってしまう、ということなのではないか、とも思う。(兵庫慎司)


セットリスト

1 ばらばら
2 くせのうた
3 湯気
4 ひらめき
5 彼方
6 グー
7 乱視
8 穴を掘る
9 ただいま
10 営業
11 バイト
12 ストーブ
13 知らない
14 パロディ
15 茶碗
16 夢の外へ
17 予想
18 くだらないの中に
19 フィルム

アンコール
20 日常
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