残響祭 9th ANNIVERSARY @ Shibuya O-EAST & duo MUSIC EXCHANGE

台風の影響が心配される中、雨脚が去り、ギラギラの日差しさえ顔を出した午後。金王八幡宮例大祭で神輿が行き交う道玄坂を上り、Shibuya O-EASTとduo MUSIC EXCHANGEに入れば残響祭! そんな、渋谷をお祭りに染める(!!)重要なイベントへと出演したのは18組。O-EASTのメインステージとサブステージ、そしてduoのステージで、残響レコードからリリースしているバンドのみなららず、縁のあるアクトが次々と熱演を繰り広げた。

残響ショップの店長がドラマーを務めるAARHNNDが、「みんなキョトンとしてないよね!?」と呼び掛けるほどに、しょっはなから強烈なオープニングアクトを敢行。そして河野社長の挨拶では、「恩返しをしたい」という理由と共に、ライヴ中の写真撮影がOKということが語られた。

本編のトップを飾ったのは、11月に1stミニアルバム『since』をリリースする、残響レコード期待のニューカマー、chouchou merged syrups。白いワンピースが似合う紅一点ヴォーカル川戸千明の折り目正しい挨拶から、打って変わり轟音に雪崩れ込む。最初はあまりのギャップに、緊張しているのかな?と思ったのだが、どんな曲でも悠然とブレない歌声を聴いてるうちに、生真面目なバンドなのだと納得した。それ以外にも、ぶっとくメロディアスな鳥石遼太のベースなど、初見のオーディエンスも、惹き付けられずにはいられない要素がたくさんあったと思う。残響レコードらしい意表を突く展開も多かったが、“かくれんぼ”のように、伸びやかな歌声を生かした明快な楽曲もあり、様々な趣向のリスナーにアプローチ出来そう。その幻想的な世界観が、より具現化していくのが楽しみだ。

続いては、cinema staffの三島と辻、そして元the cabsの中村によって結成されたpeelingwards。三島が歌い叫び、音塊をぶつけ合う……これは、めちゃくちゃカッコいい! しかも、コアに向かうかと思いきや、やはりこの3人だからか、激しくも絶妙にキャッチーなのだ。三島がファルセットからスクリームまで自在に声を変えていく様子に、何だかまだまだいろんなものを持っているんじゃないの?と思わせられた。しかも、3人ともめちゃめちゃ楽しそう。音楽が好きで、バンドが好きで、やりたいことが溢れ出てくる3人だから、なんだろうな。三島は「中村くんは久々のステージなので、温かく見守ってくれれば」と呼び掛けていた。叩いている姿を見ながら、中村の現場への帰還は、本当にめでたいことだと思った。ラストはチョッ速に興奮を煽って終了。残響レコードに投げ込まれた刺激物みたいなバンド。まだまだ見てみたい!

サンプラーを操り、一人でフロアを軽やかに踊らせたAnchorsong、ラインナップの中でも突き抜けて陽性ながら、一人何役もこなし流石の盛り上がりを見せたCzecho No Republicに続いて、O-EASTのサブステージに登場したのは岡北有由。残響レコードからリリースしている、ロンドンを拠点に活動するNedryのヴォーカリストでもあるが、個人的にはシンガーソングライターとして活躍していた頃以来、10年ぶりくらいに生歌を聴いた。あの頃の心地好さの中に芽生えた、野に咲く花のような強さ。Radioheadの“Paranoid Android”のカヴァーもハマっていた。

さらに、残響レコード所属バンドの熱演は続く。「来年はハイスイノナサの年にします!」という宣言も逞しかったハイスイノナサは、peelingwardsでステージに立ったばかりの中村と共に演奏する場面も。ラストの“平熱の街”ではピシッとハンドクラップも揃い、清潔で壮大な音で埋め尽くした。そして8月に残響レコードからアルバムをリリースしたばかりのUKの刺客、Rolo Tomassi。何よりも紅一点のEvaが、可愛いビジュアルでスクリームし暴れ踊る衝撃ったら! 天使の声と悪魔の声を交互に繰り出し、フロアに暴れる人とじっと見入る人の二極化を生み出していた。音像そのものも、ハードコアな土台に、哀愁や毒を交えていくようなシンセが効いていて、とても興味深い構造になっていた。Evaが象徴的だったけれど、今年の残響祭は、女性の出演者が多く、ガールズ・パワーを強く感じられた。

緩急を付けた丁寧な歌声や、オーディエンスに手拍子を求める度胸も含めて、場数を踏んできた逞しさを感じさせた片平里菜に続いては、現在はササキゲンのソロプロジェクトとなっているKUDANZ。「5日前くらいに、俺フォークシンガーだって気付いた」という言葉が頷けるような、上手いだけじゃない、染み入る歌。飄々としたユーモアを交えて敷居を下げつつ、Ryu Matsuyamaの美しい鍵盤とコーラスに支えられて、ずっしりとした存在感を示した。

残響レコード所属じゃないのに関わらず、でかい歓声を掻っ攫ったのはLOSTAGE。それもそのはず。楽器が体に吸い付いてるようで、音が体から出ているような進化を遂げているのだから。さらに次に見たポッグカウチナゲットも切なさが滲むいい楽曲を畳み掛けていた。そして、スウェーデン出身のAdam Evaldが、小さなシンセに向き合って、ほっこりと美声を響かせる。ぎっしりとフロアに詰まったオーディエンスに手を挙げさせて写真を撮るという茶目っ気も。何だかしみじみと、祭の終盤を感じさせられるような時間だった。

しかし! ここから、残響レコードが誇る猛者たちが、最後のトドメを刺しまくる! まずはcinema staff。今やシングル“great escape”が絶好調で、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らだが、この日のセットリストは3rdミニアルバム『Blue,under the imagination』の再現! 残響祭に相応しい、スペシャルな企画を用意してくれた。跳び、転がり、暴れる気満々の辻を筆頭に、いつも以上に振り切れた4人のパフォーマンス。煽られるように、フロアもぎゅーっと前へと詰まっていく。そんな中で、飯田の美声は伸び伸びと響き渡っていた。“ニトロ”でアッパーに盛り上げて、イントロで歓声を起こした“バイタルサイン”へ。昨年メジャー移籍をし、どんどん開かれた楽曲を生み出している彼らだけれど、蒼い時代の名曲の輝きは失せることはない。そんな嬉しい事実を噛み締めることが出来た。

そして、perfect piano lesson。半年以上ぶりのライヴということで「超楽しいっす!」と喜びを爆発させながら、ハンドクラップを起こし、盛り上げていく。ポストロックらしい見応え聴き応えを突き抜けて、楽しさが溢れ出していったようだった。

そういった楽しさは、続くPeople In The Boxからも感じられた。まず波多野はギターを置き、アンプに上がりご挨拶。そこから飛び降り、“ブリキの夜明け”を舞うように歌い出す。“親愛なるニュートン街の”では口笛も交えて。ハンドクラップが広がっていく。そして、10月にリリースされるニューアルバム『Weather Report』の中から新曲も。その優しく開放的な雰囲気に浸っていると……急に山口が「倍返しだ!」と叫んで立ち上がる(笑)。さらに、アルバムタイトルやツアータイトルを「リピートアフターミー」させるという展開に(笑)。待ち疲れしたと言っていたけれど、そんなの全くもって感じさせないパフォーマンス。最後は波多野が「踊れ踊れ!」と煽った“球体”で締め括られた。

duoのトリを飾ったのは、mudy on the 昨晩。エネルギーを溜めていたとばかりにいきなり爆発するメンバーとオーディエンス。ステージ狭しと四方八方に飛ぶパフォーマンスに、フロアからは拳があがる。オーディエンスに関しては、今日一番の暴れっぷりだったんじゃないだろうか? 

いよいよトリのte’。薄明かりの中から、幻想的な音像が浮かび上がる。精度の高いドラムに、自由にギターとベースが重なり、どんどん熱を帯びていく。やはり貫禄を感じずにはいられない。hiroが「まだ……元気ありますよね? 渋谷行くぞ!」と煽ると、ぎっしりフロアに残ったオーディエンスが、全部出し尽くすように暴れる。その様子に「まだまだ元気じゃない」とhiroも笑顔を見せていた。終いには「最後の曲です」とhiroが言っても、「えー!?」と大ブーイング。オーディエンスのスタミナにも驚かされたのでした。

アンコールでは河野社長が挨拶。「楽しめました?」と問い掛けると、大歓声。来年は10周年ということで、「なんかやれればいいと思います」と嬉しい宣言も。そしてhiroの「残響が始まった一曲をやりますか?」という言葉から、アンコールへ。「オイ!オイ!オイ!」と拳を振り上げる中、ステージにはずらっと出演者が勢揃い! Cinemaの久野や飯田など、te’のメンバーから楽器を奪い取るメンバーも出現し、Peopleの山口やKUDANZのササキは何かを配りまくり、Peopleの波多野は写真なのかムービーなのか撮影に没頭……か、カオス! まさに強烈な残響を焼き付けて、祭は幕を閉じた。

……いや、閉じてない! この後、大阪、名古屋、仙台と、祭は続くのだ。9周年なので9mmがいなくて寂しいなあとは思ったけれど、それでも残響レコードの魅力を余すことなく、いや、過剰なほどに感じられた祭だった。(高橋美穂)