祝・新作リリース! フジも楽しみなチャーチズの最新ロング・インタビュー。日本でのショットもたっぷり公開

pic by Aoi Nameraishi
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結成から7年を数えるシンセポップ・トリオ=チャーチズが、5月25日に新作『ラヴ・イズ・デッド』をリリースする。これまでの2作をセルフ・プロデュースでリリースしてきた彼らだが、今作で初めて外部のプロデューサーを起用。迎え入れたのは、飛ぶ鳥を落とす勢いのグレッグ・カースティン(アデルリアム・ギャラガー)だ。カースティンのプロデュース力も相まってか、彼らの持ち味であるポップ且つダークなサウンドがより一層華やかな進化を遂げることとなった。

現在発売中の『ロッキング・オン』6月号ではプロモ来日インタビューを掲載しているが、ここではアザー・ストーリーも含めた完全版をお届けする。

結成7年を迎え「5年前に比べると、年を重ねるにつれてどんどん親しくなっている」というチャーチズ。「たまに見かける『お互いに嫌い合ってるバンド』が本当に不思議」という3人が、その仲の良さの秘訣や新作で挑んだコラボレーションについて、そしてドレイクの楽曲とタイトルが被った収録曲“ゴッズ・プラン”について、タイトルを変えようとも思ったという秘話まで明かしてくれた。そんな彼らの仲良し具合が伝わる写真と共に、お楽しみください。

インタビュー:滑石蒼
通訳:伴野由里子

pic by Aoi Nameraishi

●収録曲“ゴッズ・プラン(神の計画)”とのタイトルが、ドレイクの新曲と被ってショックだったと語っていたのを目にしましたが。

イアン「めちゃくちゃショックだよ(笑)」
マーティン「いや、それに関しては、こちらの出方を変えてみたらどうだろう?……あれは偶然ではなく、意図したものであると(笑)。」
イアン「言うねえ(笑)!」
マーティン「ストリーミングのシステムを逆手を取ってね(笑)」

●ストリーミング時代に突入しリリース頻度が上がる中、こういった現象を気にしながら制作を行うこともありますか?

ローレン「曲を書いてるときは、完全に外の世界から隔離された状態というか、頭の中が自分達の世界でどっぷりになっちゃうから、それ以外のことに頭がまわらないんだよね。ただこの曲は不運が重なりすぎたというか、私達がレコード会社から契約を打ち切られた2日後にドレイクの曲がリリースされて、しかも大反響で……まあ、私達の曲がドレイクよりも再生リストの上に行くことだってもしかしてあるかもしれないし」
マーティン「そうそう、逆にドレイクの曲と勘違いしてチャートのトップに入るかもよ?みたいな(笑)」
イアン「それを言うか(笑)?」

マーティン「それで自分達の一番再生回数の多い曲になったりしたらどうする(笑)? それはそれで最悪だけど(笑)」
ローレン「曲を書いてるときにはできるだけ他の人の作品や音楽をシャットアウトするようにしてるの。それによって自分でも気づかないうちに影響を受けちゃうようなことがあったらイヤだから。自分達の感じていることを、何のフィルターも通さずにできるだけピュアな状態で表現したいし」
イアン「いや、あれはむしろラッキーな出来事なんだよ(笑)。滅多に起こる出来事じゃないからね」

●曲のタイトルを変えようと思ったりは?

イアン「実際、その話し合いもしたよね」
ローレン「その案もあったんだけど、シングルじゃなくて、あくまでもアルバムの中の1曲だったし、ライヴでもやるから、まあいっかっていう。もしこれがシングルとかだったらもっとややこしいことになってたんだろうけど。実際、歌詞の一部を変えてみるって案も出てたんだけど、それはそれでなんかちょっと違うような気がして。あの曲はあの形のまますでに完結してるわけだから」
マーティン「ヒット映画のタイトルをそのままリード・シングルの曲名にするとかになると、もはや確信犯的だけど(笑)」
イアン「それってどうなんだろう(笑)」

ローレン「ただ、あの曲に関しては本当にただの偶然なの」
マーティン「曲のアイディアが被っちゃう件に関しても、曲のタイトルとかいうレベルではもはや避けられないような気がするけど」
ローレン「そうね、“God’s Plan(神の計画)って言葉自体が世の中に出回ってるフレーズだし、そうした発想自体が既に世の中でコンセプトとして存在してるというか。地球上にどれだけの言葉が存在してるのかわからないし、色んな言葉の組み合わせが考えられるけど、ある特定のフレーズを使うと、どうしても表現が被っちゃうのは避けられない気がする」
イアン「あの曲の中では神を信じることがいかに不毛かっていう文脈の中で、“神の計画”という言葉を使ってるわけで、ドレイクも同じ意味で“神の計画”って言葉を使ってるとは思えないし(笑)」

pic by Aoi Nameraishi


●今作の中でも少しダークな雰囲気が印象的な“マイ・エネミー”ではマット・バーニンガー(ザ・ナショナル)とコラボしていますが、このコラボを考えていたのは曲を書く前後どちらですか?

マーティン「曲を作ってからだね。最初のデモは自分がマイクに向かって、即興で曲の大まかな枠組みを作ることが多い。でまあ、ローレンが歌詞を完成させた後に、これを2人の人物の視点に分けて歌ってみたら面白いんじゃないかって話になってね。それでああいう対話形式の曲が生まれたんだ。マットは本当に才能のあるアーティストだし、昔から大ファンだったからね」

●今作は今までになくオープン・マインドに制作を行ったとのことですが、そのきっかけは何だったんでしょうか。

マーティン「やり方を変えてみるのにちょうどいい時機のような気がしてね。3人ともある程度成長した実感があったし。これまでにもコラボの話はあったけど、今回やっとそのタイミングが来たんじゃないかって、実現したのがこの作品なんだ」

●実際に、デイヴ・スチュワート(ユーリズミックス)やグレッグ・カースティンとのコラボはどうでしたか? 新しい世界が開けたかと思うのですが。

マーティン「それはもう、初めてプロデューサーと一緒に作品を作ったわけだから、何もかもが新しい経験なわけで。気づいたら世界が広がってたって感じだね。一番最初にコラボした相手がデイヴだったっけ」
ローレン「そうね、デイヴが最初ね」
マーティン「彼からはかなり影響を受けてる。ただ残念ながら、1年がかりで制作していくうちにデイヴとの曲とはまったく別方向に着地してしまって。収録は叶わなかったよ」



●最近の「The FADER」のインタビューでは、デビュー時に「『デュオがシンガーを雇った』というふうに見えないように気をつけていた」と語っていましたよね。シンガーを主役にするほうが一般うけしそうなイメージですが、平等な関係性にこだわる理由が気になります。

ローレン「単純にその方がやりやすいのね。私達の音が少し変わってるのも、3人の趣味や考え方が重なり合った上で今のスタイルになってるから。メディアでの女性の扱われ方にも昔から違和感があったし。もし男性3人組だったら、『ボーカルとプロデューサー2人組のバンドですか?』なんて質問も出ないわけでしょ。今となっては、最初から私達の姿勢をはっきり主張して正解だったわ。やりやすい環境で、ありのままでいられるようにね」

pic by Takako Inoue

●皆さんグラスゴー出身ですがNYを拠点にしていますよね。今作にも政治的なメッセージは含まれていますが、移住によって世の中の見え方や曲作りへの姿勢に変化はありましたか?

ローレン「アメリカとは関係なしに、慣れ親しんだ環境を離れること自体、曲を書く上ですごく役に立つような気がする。実際、色んな経験をしたほうが歌詞作りに役立つわけじゃない? でもだからと言って、今回の作品が特にアメリカから影響を受けてるとは思わないわね」

●他の2人はどう?

マーティン「同じ意見だね。実際、いかにもアメリカって感じのサウンドにはしたくなかった。ありがちなパターンには陥りたくなかったというか。イギリス出身のバンドがアメリカに渡り、LAとNYを行き来しながら作品を作ってるうちにルーツを完全に忘れちゃう、みたいなね。3人から生まれるエネルギーに集中したかったし、余計なノイズを排除したかったんだ」


pic by Aoi Nameraishi

●このシーンの中での立ち位置を確立するための強みとしているところ、もしくは今回の作品を作る上でその強みが変化した部分はありますか?

ローレン「私達って、そもそもイメージとかマーケティング戦略みたいなものとは一切関係ないところでやってることだからな……ただ、結果的にはそれが良かったんだと思う。1つのジャンルには収まらないというか、ポップの感性を持ちつつオルタナ的な、インディ的なバックボーンに支えられてるという……そういう独自の路線を行ってるから、他のバンドと競わなくていい、みたいなね」

マーティン「うん、それぞれ違った個性を持つ3人が集まって、バンド的なメンタリティで協力しつつ音楽をやってるっていう、それは強みだよね。難しい状況に直面したときにも、お互いの関係性で乗り越えてる部分もあるし……これまで困難にも遭遇してきたけど、3人とも同じ気持ちで向き合ってたし。その意味では今のほうがずっとやりやすいよ。

ローレン「(5年前にも)私も2人のことを知ってはいたけど、2人の付き合いの長さからいったら、そこまでじゃなかったし、それがこうして3人で一緒に音楽を作ることになって、それがこうしてうまくいってすごくラッキーだったと思うの。
これまで3人で一緒にバンドをやっていく上で、色んな変化もあったし重要な決断を下さなくちゃいけない場面もあったけど、今は昔よりもだいぶラクっていうか、お互いのことを昔に比べてよく知ってるからね。
要するにコミュニケーションってことが大事なのよ。3人とも、物事に対する基本的な見方とか姿勢とか趣味ですごく似てる部分が多いし、それでだいぶ助かってる部分もあるんだけど、その上でお互いにどうやって正直に自分の意見を伝えて、相手の意見を受け止めるかってことなのね」


●年を重ねるにつれてどんどん仲良くなってるってことなんですか?

マーティン「本当にそうだよ。音楽を作ってるとき以外にも一緒にいる時間が多いし。まあ、年に何度かお互いから離れて充電期間みたいなものを設けることもあるけど、本当にすごく仲が良いからね。バンドを続けていく中で、バンドとしても友人としてもどんどん絆が深まっていくのを感じるし」
イアン「というか、仲良くないのにどうやって一緒にバンドをやっていけるんだろうって不思議に思うけど。売れてるバンドとかでも、お互いに嫌い合ってるバンドとかたまに見かけるけど」
マーティン「それって精神的に相当キツくない?」
ローレン「毎日が憂鬱そう(笑)」

イアン「でも、バンドとしてはそれなりに成功してるんだよ? 嫌いな者同士でどうやって一緒にバンドをやってるのか不思議でたまらなくてさ。今、自分達がこれだけ長い時間一緒に過ごしてることを考えると、これが嫌いな人間と一緒だったらと思ったら相当しんどいだろうなって」
ローレン「私なんて、たとえ10分でもイヤな気持ちになったら、そのあとしばらくずっとイヤな気持ちを引きずっちゃうのに、一緒にいてイヤな人達に四六時中囲まれてるって、本当にどうなっちゃうんだろう(笑)?」

●絶対仲が良い方が仕事はしやすいですよね(笑)

マーティン「仲が良いのもそうだし、お互いがハッピーでリラックスできる関係っていうのも大事だと思う。リラックスしてるときのほうが、自分がうまく表現できるものだし、お互いに自由に自分の思ってることを言えるしね」

●でも、仲が悪くなってくるバンドをたくさん見たんですけど(笑)

3人「(笑)」

●このバンドの場合は反対なんですね。その秘訣はなんですかね。

イアン「いや、正直、何が秘訣とか訊かれてもわからないんだけど、ただ、このバンドの場合はなぜかうまくいってるんだよね。まあ、3人の性格もあるだろうし、お互いに尊重したり譲り合う気持ちがあるからね」
マーティン「要はコミュニケーションってことだよね」
イアン「そう、パートナーとして、友達として、どうやってお互いに尊重し合いながら協力していくのか、経験を通して学んでるというか……そりゃまあ、たしかに難しいこともたくさんあるけど、できるだけポジティヴな方向に持っていきたいし、お互いにそういう気持ちで行動してるから」

pic by Takako Inoue
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●制作に対して行き違いとか考え方の違いが生まれたときににはどう解決しますか?

マーティン「意見が食い違ったときの、決まった対処法とかルールがあるわけじゃないけど……」
イアン「お互いに納得いくまで、とことん話し合うしかないよね」

マーティン「そう、ただひたすら対話やコミュニケーションを繰り返していくしかないんじゃないかな。僕達は何も自分達のエゴでこのバンドをやってるわけじゃないんで……エゴとか一切入り込まないように3人で協力しながらやってるわけで……誰か1人が強い主張をしたとしても、それがエゴから発してる意見じゃないってことがわかるから、そこで対話が途切れてしまうことがないんだよね。

もしメンバーのうちの誰か1人が、あるアイディアなり行動なりに強い思いを抱いていて、それに対して責任を負う覚悟があるなら、残りのメンバーもそれをサポートするか、もし納得いかなかったら、さらに議論を続けていくまでだし……もし誰か1人の意見に対して他のメンバーがまったく正反対の意見を持ってるとしたら、本格的に議論しなくちゃならないだろうけど、この3人の中でそこまで意見が割れることは、今さらないような気がしてね……とくにスタジオの中ではね」

ローレン「ただ、これまでの経験から、誰か1人が強く反対意見を言うときには、意固地になってるからとか相手を困らせようとかそういう理由からじゃないってことが、お互いにわかってるから。自分のやりたいことに無理矢理つき合わせるよりは、はっきりイヤって言ってもらうほうが、むしろスッキリするし。他のメンバーに無理強いして自分のやりたいことにつき合わせたって、そこから良い結果が生まれるとは思わないしね」


●『ラヴ・イズ・デッド』というタイトルはこれまでの作品と比べてアグレッシブだと感じたのですが、これは現代社会に対する問いかけだと捉えて間違いないでしょうか? だとすれば、皆さんの中には答えが出ているのでしょうか。

マーティン「ハハハハハハ」
ローレン「そう、そこが狙いなの。思わず考えさせられてしまうような、大きなお題を投げかけるっていうね……今回は多くの曲で、色んな問いを投げかけてる。自分はなぜこんなふうに感じてるのか、なぜこんなに混乱してるのか、どうやって立ち上がればいいのか……」
マーティン「自分でもまだ答えは出せてないんだよね」
ローレン「そう、自分でもわからない」

●では、《ラヴ・イズ・デッド?》という疑問を投げかけなければならない現代において、どういう存在でありたいですか?

ローレン「ただ、今まさにそういう時代に生きてるってことよね。愛っていう絶対的な価値観が揺らいでいる中、どういう存在でありたいか、どういう世界に生きていたいか、どういう価値観を自分の核にして生きていきたいのか、一人一人が問われている時代だと思う。そこを突き詰めないまま、今よりも先に進むのは難しいような気がするの。今の自分自身を知らずして、その先に進むことはできないのよ」

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チャーチズの3rdアルバム『ラヴ・イズ・デッド』の詳細は以下。