【徹底予習】祝・6年ぶりの来日決定! マムフォード&サンズのライブを絶対に見逃せない理由をとことん掘り下げる


マムフォード&サンズが、傑作アルバム=『デルタ』(2018)を引っさげて日本に帰ってくる! 彼らの6年ぶりとなる来日公演が決定し、「ついに!」と歓喜したファンも多いはず。

2013年、前回の来日公演当時、グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーを務めたことで大きな話題になったが、欧米での圧倒的人気はとどまるところを知らず、「Delta Tour」では60公演でのべ80万人以上を動員。エレクトリックというパンドラの箱を開け、アコースティックと両立させるという進化を遂げた彼らの演奏を観られるこの超貴重なライブ、見逃すわけにはいかないだろう。

今回のコラムでは、来る来日公演を200%楽しむべく、ジャンルを越境した最強のロック・バンド、マムフォード&サンズの結成からアルバムごとの変化、そしてライブの進化もおさらいしながら、彼らの魅力を今一度掘り下げてみたい。


文=新谷洋子

ロンドンのフォーク・ムーブメントから衝撃のデビュー


それは2011年2月の第53回グラミー賞授賞式でのこと。マムフォード&サンズの4人のメンバーは、“Maggie's Farm”を歌うボブ・ディランのバックバンドを務めるという大役を果たした。この年の新人賞候補に挙がり、快進撃中だった彼らにとって、敬愛するヒーローとの共演は大きなマイルストーンだったと言えよう。当時リリースから1年半が経過し、セールスは100万枚を突破していた1stアルバム『サイ・ノー・モア』は、授賞式の翌週に全米チャートでの最高位となる2位に上昇。英国人でありながらアメリカのルーツ・ミュージックをこよなく愛する4人が、カントリーやフォーク、ゴスペル、ブルーグラスを消化して作ったアルバムだっただけに、アメリカで成功することは音楽的ホームカミングとでも呼ぶべき快挙だった。


そんな異色バンドを生んだのは、ウィンストン・マーシャルが主宰するクラブ・イベントから発信されたロンドンのフォーク・ムーブメント。ノア・アンド・ザ・ホエール、ローラ・マーリング、ジョニー・フリンといった面々が関わるシーンで07年末に活動を始めた彼らは、鍵盤(時折アコーディオンも弾くベン・ロヴェット)、ダブル・ベース(テッド・ドウェイン)、バンジョー(ウィンストン・マーシャル)、アコギとボーカルとキックドラム(マーカス・マムフォード)というユニークな編成のアコースティックなアンサンブル、素朴な声のハーモニー、そしてマーカスが綴るひたむきな言葉を、キャッチーなアメリカーナ・ポップに落とし込んで、独自のスタイルを見出すのだ。

pic by Joseph Llanes

デビュー作の大ヒットから3rdでのサウンドの刷新、その背景とは?


最終的に『サイ・ノー・モア』はアメリカだけで300万枚(世界で800万枚)の売上を達成し、その延長にある2ndアルバム『バベル』(12年/英米チャート最高1位)も同様に大ヒットして第55回グラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞。休みなく続けたツアーと、スピリチャルかつコミューナルなセレブレーションに観客を誘うライブの魅力で、4人は地元以上に厚いファン層をアメリカで築く。初来日が実現したのはまさに、彼らの人気と評価が一旦ピークに達した頃で、13年夏の「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演したのち、東京で単独公演も敢行。確かにそれは、驚くべきライブ・パフォーマンスだった。“Little Lion Man”や“The Cave”といったアップテンポなヒット・シングルの数々は、平均的ロック・ファンにバンジョーの破壊力を知らしめ、“I Will Wait”でフィナーレを迎える頃には、アコースティックなトラッドの手法を貫きながら、プラグを入れたロック・バンドを軽く凌ぐハイとカタルシスをもたらす。ステージにドラムセットが無かったことに、ほとんど誰も気付いていなかったに違いない。


ところが、ポップ・ミュージックとしてのトラッドの有効性を証明するという偉業を達成した4人は、ここにきて壁に直面していた。最初の2作品で確立した路線を踏襲するだけでは前進できないと悟った彼らは、3rd『ワイルダー・マインド』(15年/英米最高1位)で潔くサウンドを刷新。エレキに持ち替えてフルにドラムを導入すると、プラグを入れたロックンロール・バンドに生まれ変わったのである。

最新作『デルタ』でみせたバンドの大胆なギアチェンジ、ライブはここまで進化している!


こうして旺盛な実験欲を見せつけた4人は、続いて16年に発表したEP『Johannesburg』でアフリカ各地のアーティストとコラボを行ない、最新作『デルタ』(18年/全英最高2位、全米最高1位)ではポール・エプワースをプロデューサーに起用。アコースティック楽器を新たなアプローチで取り入れて復活させると共に、エレクトロニカやR&Bに食指を動かし、コラージュ的手法も用いて曲を構築したという。シングル曲“Guiding Light”などは言わば、マムフォード&サンズの最初の10年余りの音楽的軌跡を凝縮したかのような1曲だ。そして30代に突入したメンバーが人生のリアリティと向き合う姿を曲に投影し、いつになくメランコリックなアルバムを完成。またもや大胆なギアチェンジで我々を驚かせた。


だが、それでも変わらなかったのはツアーに注ぐ熱意だ。『デルタ』に伴うツアーは昨年11月に始まり、日本公演が開催される頃には100公演近くをこなす勘定になる。何しろ来日は6年ぶり、この間に、アコースティックであれだけのエネルギーを生むことができた4人は、エレクトリックというパンドラの箱を開け、でも目を眩まされることなく、究極的にはふたつの表現を両立させる術を身に付けるに至った。そんな進化を思うと、いい意味で、前回とは異なるバンドと対面する心づもりでいたほうがいいのかもしれない。