ロック活況が続くUKでは、何が起こっているのか? 最前線でシーンを牽引するレーベル、ラフ・トレード、ニンジャ・チューンそしてワープが語る、UKロックの現在地【インタビュー全文掲載】

rockin'on 6月号

UKロックに異変が起こっている。

その異変は一言で言えば「復活」なのだが、単なるリバイバルではなく、ロックに対する全く新しい意識と価値観を持つ新世代アーティストによる実験場と化しているのが何よりスリリングだ。ウルフ・アリスフォンテインズD.C.を筆頭に、近年UKで大成功を収めているバンドの多くがインディ・レーベル所属の純然たるインディ・バンドであるのも特筆すべきだろう。

そう、UKロックの復活とは、UKインディの逆襲でもあるのだ。

近年のUKインディの活況を伝える最たる場がサウス・ロンドンのバンド・シーンであるのは言うまでもない。今回取り上げるバンドの多くも同シーンから登場しており、ブリクストンのベニュー、ウィンドミルを中心に育まれたポジティブな競争心と互助精神からなるそのコミュニティは、ストリーミング時代のバンド・シーンのもうひとつの顔、リアルな繋がりの普遍の価値を伝えるものだ。

また、現UKロックの最重要プロデューサー、ダン・キャリーの主宰する「スピーディー・ワンダーグラウンド」の存在も大きい。同レーベルはUKインディの最前線のさらに切っ先で、ブラック・ミディブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下、BCNR)、スクイッドらは皆ここから巣立っていったバンドたちだ。

サウス・ロンドンや「スピーディー・ワンダーグラウンド」のバンドたちのポスト・パンク、エクスペリメンタル、マス・ロック云々と形容されるサウンドに共通するのは、純音楽主義とでも呼ぶべきものだ。中には音楽の専門教育やジャズの薫陶を受けたバンドも多く、テクニックとセンスを競い合いながら未知の興奮を追い求めるフロンティアが、彼らの前には広がっている。

革新性を問う場が完全にロック以外のジャンルに移っているUSシーンと比較すると、ロックにイノベイティブな可能性を見出す機運が近年むしろ高まっているUKシーンは、幸福なガラパゴス状態にあると言えるかもしれない。

そして今年、そんなUK新世代の革新性を象徴する2組のバンド、BCNRとサウス・ロンドンの新星で4ADと契約したドライ・クリーニングのデビュー・アルバムが揃って全英4位を記録し、気難しい評論家からの絶賛と商業的成功を両立させるという快挙を達成してしまった。


彼らの成功にはギター・ミュージックへの脊髄反射的なネガティブ論と、盲目的なポジティブ論で分断されていた時代の終わりをつくづく感じるし、一周回って「面白いロック」と「退屈なロック」という至極シンプルなジャッジにアーティストとリスナーが共に立ち返った健全さがそこにはあるのだ。

次のページからは、シーンの最前線に立つインディ・レーベルの担当者たちへのインタビューをお届けする。ラフ・トレードからは創設者のジェフ・トラヴィスとジャネット・リーが登場。オリジナル・パンクの時代からUKインディを牽引してきたレジェンドであり、現在はブラック・ミディやゴート・ガールを見出した彼らが大きなサイクルの中で2020年代のUKシーンを語る意味は大きい。

また、BCNRを見事にヒットさせたニンジャ・チューン、待望のデビュー・アルバム『ブライト・グリーン・フィールド』をついにリリースするスクイッドと契約したワープの担当者にも話を聞いた。クラブ・カルチャーと深く結びついたニンジャ・チューンやワープがギター・ロックの震源地になっている現状もまた昨今のUKロックの特異点を象徴しているし、今起こっている異変とは、まさに新時代の地殻変動なのだということが、彼らの証言からは浮かび上がってくるはずだ。(テキスト&インタビュー、粉川しの)




rockin'on 6月号


ROUGH TRADE
(Geoff Travis & Jeannette Lee)


●おふたりは70年代から現在に至るまで、UKロック・シーン、特にインディ・ロックの浮き沈みを見て来られたわけですが、現在はどのような状況にあると考えていますか?

ジャネット・リー(以下、J)「今、音楽界はとても活気に満ちているように感じます。ミュージシャンシップが非常に重視されています」

ジェフ・トラヴィス(以下、G)「若い人たちが多くの時間を割いて楽器の演奏を学んでいるのはなぜだと思う?」

J「ひとつには、ブリット・スクールなどの出現があると思う。イギリスには、私たちが子供の頃には存在しなかった音楽カレッジがたくさんあります。大学に進学する際に、芸術志向であればブリット・スクールのようなところに行くという選択肢がある」

G「ブリット・スクールはすごく好きだよ。ブラック・ミディをはじめ、面白い人たちがたくさん出てきてる。何の費用もかからないしね。授業料もない。中流階級向けではないんだ。才能さえあれば入れてもらえる。それはとても贅沢なことだよ」


J「当初は音楽大学やブリット・スクールに少し懐疑的だったけど、若い音楽家にとって非常に素晴らしい環境だということがわかって、すっかり転向したわ」

G「60年代はアート・スクールがミュージシャンにとって重要な場所だったんだ。たとえばピート・タウンゼントとか。ジョン・レノンはアート・スクールには行ってないけど、その周辺にたむろしてた。我々が若い頃は、簡単に失業手当がもらえたんだ。ミュージシャンとして失業手当を受けていたことがギグ・エコノミー誕生の一因となったんだよ」

J「昔イギリスでは、ミュージシャンは失業手当を申請して、それで彼らはうろつきながら将来について考えたり、計画を立てたり、楽器を練習したりする時間をたっぷり確保していたのよ。今ではそれが取り上げられてしまったように見える。

以前とは違って、成長する時間がないから、即効性のある新しいプロジェクトを考える。以前はモノになるまでの時間的余裕があったけど、それがほとんどなくなってしまったと思う」

G「別の側面としては、宅録技術の登場で、人々は新しい能力を手に入れて、非常にレコーディングに長けているということ。自分の音楽を録音するのが、とても簡単にできる。

昔はスタジオに行かなければならなかったのが、今は自分の部屋にスタジオがあったり、完全にリリース可能なものを自分で作ることができる。以前とは考え方がまったく違う。若いミュージシャンたちは以前よりもテクノロジーに精通していて、それが違いを生んでいる。もちろん、それが必ずしも良い音楽を生み出すとは限らないし、あくまでもひとつの側面だけどね。

イギリスはこれまで常に素晴らしい音楽を生み出してきた。音楽と言えばイギリスが世界的に知られているもののひとつで、政府の支援をほとんど受けていないにもかかわらず、とてもいい音楽を作ってきた。音楽は、この国を前進させる素晴らしい産業だよ。

“インディ・ミュージック”の現状については、社会学的あるいはムーブメントという観点で何が起こっているのかということについて、我々が実感するのは難しい。

というのも、我々は言ってみればハリケーンのど真ん中にいるわけだ。ただしコロナのせいで、ハリケーンというよりは穏やかな風のようになってるけどね。通常であれば、常に新しいものを見に行ったり、人に会いに行ったり、探ったりしているんだ。今は、オンライン以外ではそれができなくなっていて、これまでとは違う種類の探索をしているよ。

何が起こっているのかという大きなパターンはあまり意識していないな。もちろんたくさんのパターンや大きな動きはある。

多くの場合はドラッグが関係していて、人々がその時どんなドラッグをやっているかだと思う。1964年から1966年にかけてのサンフランシスコでは、音楽好きに限らず多くの人々が大量にアシッドをやっていたんだ。

彼らはゴールデンゲート・パークに行き、グレイトフル・デッドジェファーソン・エアプレインを聴いて、多くの人が同じドラッグを使っているというある種の共同体験をしていた。そして、言ってみればそれがひとつの音楽シーンを生み出したわけ」

J「もうひとつは、私たちは音楽をインディとそうでないものというふうには考えていないということ。いい音楽か、そうではないかを考えるだけ。

インディ・ミュージックというのは、メジャー・レーベルと契約していないとか、メインストリーム・ポップではないというだけのことだから。

『あれはインディ・バンドだ』という言い方はしないしね。きっとザ・ストロークスもインディ・バンドだと自称してはいなかったはず。私たちにとって、良い音楽は良い音楽。『メインストリームすぎるからうちのレーベルには合わない』とカテゴライズすることもない。聴いている音楽に何か感じるものがあれば一緒に仕事をしたいと思うわ。

イギリスの音楽にはたくさんの転機があった。たくさんの転機、新しいムード。そして確かに、今まさにそういった瞬間を迎えていると思う。普通のパンク・バンドで演奏するよりも、よりミュージシャンシップが必要とされるジャズの流行があって、今はおそらく以前よりかなり技術的な面に注目が集まっている時期だと思う。

イギリスのジャズ・シーンについて言うと、高度のミュージシャンシップがあるということ。イギリスの若いジャズ・シーンにこれほどの熱気があるなんて、本当に久しぶり。70年代以来ね。演奏の名手が注目されているっていう。今の時代はみんな優秀で、技術的な側面に興味が持たれているのよ」

G「思い浮かぶのはジョーディ・グリープ(ブラック・ミディ、Vo/G)で、彼は本当に驚異的なギタリストだね。我々はパンクとの結びつきが強いし、ギタリストの技巧について語るなんて、パンク時代にはありえなかったことだよ。

キース・レヴィンがYESのローディを務めていたことは今では知られているけれど、当時は公表されていなかった。他の人たちが嫌がっていたからね!

何を聴くことが許されるかというカルチャー戦争は解消されたみたいだね。だけど音楽には常に部族的なところがある。ヌビア・ガルシアなんかも本当に優秀な若いサックス奏者だ。意外な人がそういった音楽を聴いていて、例えばジャイルス・ピーターソン(BBC Radio 6のDJ)なんかも、ブラック・ミディをかけつつ彼女も、という感じで、それは興味深かった。そのふたつがクロスオーバーするとは夢にも思わないけど、名演奏があるからこそなのかもしれない。現在イギリスにはエキサイティングな新しいバンドがいくつかいるけど、これまでも常にそうだったと思うんだよね。

ミュージシャンたちが常に同じエリアに集まるとは限らず、今はサウス・ロンドンに多くの答えがあり、それがキャッチフレーズになっているね」

J「思うに、音楽ファンは人生のある時期になると、音楽に興味を持つことを止めてしまって、それ以降のものは昔自分が大好きだったものほどは良くないと思ってしまう。でも不思議なことに私たちはそうならず、常に探し続けているし、常に新しいものをたくさん見つけているわ」

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●ラフ・トレードのお膝元でもあるロンドンからは、ブラック・ミディやゴート・ガールを筆頭に次々と有望な若手バンドが登場し、活況が続いていますよね。実際、現在のロンドン・シーンでは一体何が起こっているんでしょう?

G「シーンを牽引するもののひとつに、非常に聡明で冒険的なブッキング・ポリシーを持つライブハウスやクラブ、施設があります。例えば、ブリクストンにあるウィンドミルの、正しい方法でクラブにアプローチして人として善良であれば、誰でも演奏することができるという方針は素晴らしい。

ウィンドミルはとりわけブラック・ミディにとって大きかった。彼らはいろいろなところにギグをやりたいと申し込んだけど、誰も答えてくれず、ウィンドミルだけが彼らにギグをオファーしたんだ。そしてウィンドミルは彼らの第二の我が家のようになった。

彼らは、もし可能なら明日にだってウィンドミルで演奏する。ロイヤル・フェスティバル・ホールを満員にすることだってできるけど、繋がるために、楽しむために、ウィンドミルで演奏するんだよ。それは重要なことだ。

ファット・ホワイト・ファミリーがサウス・ロンドンで演奏していたようなものだね。彼らが影響を与えたんだ。そして、反逆者。当時はあまり注目されていなかった人たちがトップに浮上して、次世代のミュージシャンたちにインスピレーションを与えたりするものだよね」

J「ロンドンは音楽的に見ても面白いところよ。シーンが地理的に移動して、新たな地区に移動するたびにそこに新しいシーンが伴うという。

昔はよくウェスト・ロンドンのハーレスデンあたりのクラブにバンドを見に行っていたけどね。今はもう違う。それからすべてがイーストに移った。ウェスト・ロンドンの前はチェルシーだったかな。だからチェルシー、ウェスト・ロンドン、イースト・ロンドン、ブリクストン、ペッカムと移ってきた。そして場所が移動するたびに新たなシーンが生まれてきた。50年代後半はソーホーがすべてだった。そして今は間違いなくサウス・ロンドンね」

G「よくパブの楽屋で事件が起こるんだよ。月曜日の夜は何もないので、入場料の半分をあげるからここを貸してくれませんか、という。そうするとバーの売り上げが増えるし、店主も喜んで、音楽を聴いてくれる全く新しいお客さんも増える。これはとても重要なことで、イギリスの文化において常に重要だったんだ。日本でも同じことが起こっているかどうか分からないけどね。

そういった場所はどんなギグを観るにしても最高だよ。まともなPAがあるパブの混雑したバックルームというのがね。音楽的な体験として、これに勝るものはない。ウェンブリーでやれたってこれには勝てないよ」

●例えばオリジナル・パンクの震源地であり、2000年代初頭にザ・リバティーンズ周辺のデラシネなコミュニティが生まれたりと、過去にも何度もUKインディ・ミュージックの重要な役割を果たしてきたロンドンですが、そんな過去と比較して現在の同シーンの強みは何だと思いますか?

G「インターネットであらゆる音楽にごく簡単にアクセスできるようになったおかげで、我々が出会う若いミュージシャンの知識が格段に幅広くなっている。

例えば僕らがザ・リバティーンズに会った時、彼らが受けた最も重要な影響のひとつはザ・スミスのアルバム『ハットフル・オブ・ホロウ』のカセットだった。それがものすごく大きかったんだ。ピーターはそれを何度も繰り返し聴いていた。

今、ブラック・ミディやゴート・ガールと話すと、知識の深さに驚かされる。そこが違うね。例えば最近ジョーディ・グリープがマーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』を一番好きなアルバムにあげていたんだ。とても20歳やそこらとは思えない。それはもう過去のものになったと思っていたけどね。

つまり音楽史のすべてが、これまでにない方法で入手できるようになったわけだ。昔は、チャート入りしていない音楽が欲しければ、手紙を書いて通販でアルバムを買わなければならなかった。

そういう意味では、世界はひっくり返ってしまったし、今ミュージシャンたちがやっていることにもそれが反映されているんだよ」

●ブラック・ミディ、ゴート・ガールとそれぞれ契約を結ぶに至った決め手を教えてください。彼ら、彼女たちの音楽のどこに可能性を感じましたか?

G「ブラック・ミディは、一言で言えば、卓越性。彼らはただもう素晴らしいミュージシャンだ。これまで誰もやらなかったことをやっていて、とてもエキサイティング。中毒性がある。本当に新しくて新鮮な何かを見つけたら、情熱を傾けるのは簡単なことだよ。そういうことをするのが一番好きなんだ。何かを見て、それがとても刺激的で、何らかの境界線を突き破るように感じられる。それは素晴らしい感覚だ。彼らのライブを見たとき、紛れもなくスリリングだったし、それに勝るものはない。


ゴート・ガールも同様。ふたつのバンドは全然違うけど、両方卓越している。全員女性であるという嬉しいおまけを除けば、やはり彼女たちもとても音楽的だ。彼女たちのソングライティングが素晴らしかった。狂ったようにではなく、おおらかな自信に満ちた演奏をしているのが特に気に入った。彼女たちは勇気を持って時間をかけ、重層的で面白くておおらかな音楽を作っていたんだ。

ゴート・ガールは独自の道を歩んでいて、それが彼女たちをオリジナルな存在にしている。それに(1stの)“The Man”や“Country Sleaze”といった曲は初めて聴いた時から好きだった。“The Man”を初めて聴いたのは、ウォータールー駅のアーチ下でリハーサルをしていた時で、ジーザス&メリー・チェインが最初のシングルをレコーディングした場所のすぐ近くで、その時ピンときた。

我々はバンドと契約する前にライブを観ることにしていて、それがルールのひとつとしてあるんだけど、最近そのルールを破ったかもしれない」

●ジェフさんはポスト・パンクと俗に形容されるスタイルを定義した方と言っても過言ではないと思います。ブラック・ミディからフォンテインズD.C.、アイドルズまで、近年UKで成功したギター・バンドの多くもポスト・パンクといわれるバンドたちです。ただし、ポスト・パンクは「サウンド」としてはかなり曖昧というか、広範囲に適用されますよね。そんな中でジェフさんがポスト・パンクを定義する「アティチュード」とはどういうものなのでしょう。

J「パンク・ロックは、誰もが好きなことをしていい、適合する必要はないという気持ちに火をつけた。ポストパンクはそれを握りしめて前進し、決して後ろを振り返らなかったのよ」

G「よくザ・ストロークスとザ・リバティーンズが再びポスト・パンクを面白くしたと言われているよね。我々は幸運なことに両バンドと一緒に仕事することができた。ただそれはある種の歴史の偶然だよ。リバティーンズは間違いなくストロークスに刺激を受けて、おそらく自分たちのサウンドを変えてストロークスがやっていたことを取り入れたんだ」

J「一度ピート・ドハーティに『自分の作品に真に影響を与えた最初のバンドは?』と訊いたらザ・ストロークスだと言ったのよ。私にしてみればザ・ストロークスはまだ5分くらいしか存在してないような感じだったから本当にびっくりしたわ。だから彼らを観たことはピートにとってめちゃくちゃ大きかったし、ストロークスと一緒のツアーを組んだらピートが問題を起こしまくって……。

ポスト・パンクは、一定のルールに縛られる必要がないことに気づいたのよ。ルールを破ってもいい。コードが3つ以上あってもいい」

G「僕がポスト・パンクを定義したわけではないよ。パンクから生まれたものを定義したのは、音楽を作ったミュージシャンたちだ。僕を過大評価しすぎだな!

アミル・アンド・ザ・スニッファーズ(オーストラリアの素晴らしいバンド)は、間違いなくパンクの影響を受けていると言える。今でも世界中でパンク・シーンは盛んで、決してなくなったわけではないよ」

●ゴート・ガールやウルフ・アリス、ペール・ウェーヴス、ドリーム・ワイフ等、近年のUKではフィーメール・バンド、女性フロントマンのバンドの活躍も目覚しいですよね。インディ・ギターの「ボーイズ・クラブ」ノリからの意識変化があったということでしょうか。

J「間違いなくまだバランスは取れてないけど、音楽に限らず、世界的に意識が変わってきていると思う。女性がこれまでよりも少しずつ平等を獲得していて、それが波及して当然ながら音楽にも影響を与えているのよ」

G「ラフ・トレードにはザ・レインコーツやクリネックスなど、最初から女性たちがいたんだ。昨今ではフェスティバルに女性の出演者数が少ないことが指摘されて話題になっているけど、ラフ・トレードは常に性別や人種を問わず、差別をせず、音楽の質にこだわってきたと思う」

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●イギリスに行くときは必ずラフトレード・ショップに伺います。他方で多くのレコード・ショップは急速に失われており、例えばLAのアメーバ(・ミュージック)やNYのアザー・ミュージックのようなアイコニックなインディ・ショップもなくなってしまいました。

このサブスク・ストリーミングの時代にレコードショップの果たすべき役割をどう考えていますか? 例えばブリック・レーンのラフトレなどはショップのみならず、インディペンデントなミュージックカルチャーの発信地及び集積地としても機能しているように思いますが。

G「嬉しいことに、アメーバは閉まっていなくて移転したんだ。非常に重要なレコードショップだよね。他の良い店は閉まってしまったけどね。アザー・ミュージック閉店は本当に大きな喪失だ。昔はNYを訪れるたびに行っていたよ。

この新型コロナが収束した時に何をしたいか訊かれると、人々は、図書館に行ったり、本屋さんに行ったり、レコード屋に行ったりするのが待ち遠しいと言う。そのくらい重要なものなんだ。我々の人生において、レコード・ショップは本当に重要な存在だ。1977年にレコード・ショップを開いたんだ。

閉店してしまうのは本当に残念でならない。14th ストリートの地下鉄のコンコースに、最高のヒップホップ・レコードや最高のダンス・レコードを揃えたレコード・ショップがあった。僕にとってすごく魅力的な観光スポットだったけど、今は閉店してしまった。

レコード・ショップは、誰かに会ったり、友達を作ったり、新しい曲を聴いたりするのにとても重要だ。音楽を愛する人たちにとっての、ひとつのコミュニティなんだ。1日24時間パソコン前に居続けることはできない。時々は世界に出ていく必要がある。そこで働いている人や音楽に詳しい人と話をして、『この前はこれだったから、これも好きかもね』と言ってもらえる。それは非常に貴重な交流だよ。

ラフ・トレードの店舗が繁盛するのは、ライブやイベントがあるからだね。自分のヒーローやヒロインの演奏を聴けたり、会えたり、質問したりできるのは最高だ。レコード・ショップが復活するといいよね。そうなりそうな気がしてるよ」

●一方で、近年のUKでのアナログ・セールスの顕著な上昇は、インディ・ロック・バンドにとって見逃せない動きだとも思いますが、おふたりはアナログ・レコードのニーズ、そこに秘められた可能性についてどう考えていますか?

G「レコードの買い方が劇的に変ったよね。僕も以前は週に10枚くらいレコードを買っていたけれど、最近はほとんどネットで済ませていて、あまりレコードを買わなくなった。ちょうどスペースが足りなくなってきたところだからいいんだけど。

CDを買う人は減り続けていて、レコードを買う人は増え続けている。昨年の当社のレコードの売り上げが50%アップして、これはかなり驚異的。今までになかったような買われ方で、とても健全だ。レコード・プレーヤーの売り上げも伸びているしね。

ここ数年、エレキギターの売り上げが異常に伸びているから、次の10年はギター・バンドのルネサンスが起こるかもしれないね。

これは、人々がいまだに物理的に物を所有したがっていることを示していると思う。芸術的、心情的な価値を持つ物に対しての一種のフェティッシュであり、それは理解できるものだよね。そこに参加したい、あるいはその一部が欲しいという気持ち。それは人間のニーズとして、消えることはないように思える。スリーブを読んだり、写真を見たりすることも、経験を高めるんだ。

我々の悩みの種がひとつあって、もしデジタルのサービスで音楽を聴くだけだと、どのレーベルが出しているか全然分からないこと。

果てしなくスクロールダウンすれば書いてあるけど、誰もそんなことしない。だから我々が育ってきた、スタックス・レコードやアイランド・レコードを愛する文化、そのレコードを聴くのはラフ・トレードのレコードだからだ、というような文化は、ある意味デジタル・サービスによって侵食されているんだ。

デジタル・サービスは、あなたが聴いているものは全部自分たちが所有しているのだと思わせたいんだよ。自分たちが音楽プロデューサーであり、その所有権を奪いたい。これは、現代文化における有害なデジタルの影響だよ」

●アメリカではバンド・ミュージックがパワーを失いつつあります(昨年のビルボード・チャートで1位を獲得したロック・アルバムはマシン・ガン・ケリーの新作のみでした)。その状況と比較すると、イギリスではバンド・ミュージックがまだ持ちこたえているようにも思います。そこにはイギリスの市場ならではな理由があるのでしょうか?

J「今バンド・ミュージックがRadio 1のプレイリストに入るのはかなり難しいから、私たちはそういうふうに感じてないわね。

ここ数年は、ギター・バンドの曲をラジオでかけてもらうのが難しかった。フォンテインズD.C.やシェイムはブレイクしたけど、それまではRadio 1で曲がかかるようなバンドは長い間いなかったの。だから少しは良い方向に変わってきたけど、大きな変化ではない。今が好転の始まりであることを願うわ。

アメリカにはギター・ミュージックが盛んなサブカルチャーがあるし、みんな依然としてそういうものを聴きに行きたがっている。例えば、フー・ファイターズクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジといったバンドはかなり人気だよね。

これはまったく意図的ではないけど、我々は常にメインストリームのポピュラー・カルチャーの外にいるんだ。たまたまメインストリームになるのは嬉しいけど、その一味に加わるために自分たちの活動をデザインすることはないよ」

●2020年代に成功できるバンド、必要とされる重要な要素は何だと考えていますか?

J「いつも同じことを言ってるけど、私にとっては常にオリジナリティが大事。個人的にはそれが一番エキサイティングだから。新人バンドの中には、かなりローファイで、すごいミュージシャンではないかもしれないけど、ある種の未知の要素、何か特別なものを持っているバンドがいて、だから惹かれるのよ。それこそ私たちが何よりも求めているものだと思う」

G「我々の心を揺さぶるものでなければならない。ある意味、知的な反応ではなくて、気持ち的なもの。自分では制御もコントロールもできない。そういうものが好きなんだ。自分の世界に留まろうと思っていても、否応なく新しい場所へと連れ出してくれるようなね」

J「さっき昨今の素晴らしいミュージシャンシップの話をしたけど、私たちは、それほど技術がなくても何か魅力的なものを持っている人たちにも同じように興奮するのよ。アイデアやイマジネーション、そして彼らが生み出すものに引き込まれる。技術的にすごい必要はなくて、他の人が持っていないもの、オリジナルなものであればいい。

ストロークスとリバティーンズがその良い例。一方のグループは絶対的に素晴らしいミュージシャンシップを持ち、ひたすらリハーサル、リハーサル、リハーサルで、これは少しアメリカ的なのかもしれない。もう一方のグループ、つまりリバティーンズは、インスピレーションに満ちていて、非常にクリエイティブで、でたらめで、今にも崩れそうで、ライブではかなりの間がないと次の曲に移れなかった。どちらのバンドも完璧に素晴らしくて、でも全く違っていた。私たちはどちらも大好きだったし、どちらとも仕事をして、とてもうまくいったけど、彼らはまさにチョークとチーズ(※見た目は似てるけど全く違うもの)の良い例ね」

●新型コロナ・ウィルスのパンデミックを経験したことは、これからのインディペンデント・ミュージック(ジャンル問わず)、インディペンデント・レーベルにどんな影響をもたらすと考えていますか。

J「必要性は発明の母だから。人々は長い間閉じ込められていて、クリエイティブになったと思う。この時代だからこその、面白くて新しいものが出てきても全然不思議じゃない。

例えば、人々は新しい方法でコラボレーションする方法を見つけていると思う。ロックダウン期間中に何か新しいシーンが生まれてたとしても不思議じゃない。何かを始めようとしていた人たちは、違うやり方を考えるしかなかったんだから。クリエイティブな意味で何かいいことが生まれる気がするわ」

G「一緒にライブができるということに対して、新たなエネルギーや感謝の気持ちが芽生えるかもしれない。5月末にボストン・アームズ(ロンドンのパブ)で行われるゴート・ガールのライブが、我々にとってロックダウン後にソーシャル・ディスタンスを取って行う最初のライブになるかもね」

●今注目している未契約のバンド、ロック・アーティストがいたら教えてください。その理由も。

G「我々が夢中になっている契約前のバンドが1つだけある。ニューオーリンズ在住の4ピース。ドラマーはいない。スペシャル・インタレストというバンドだよ」


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NINJA TUNE
(A&R、Clemmie Woodhouse)


●ブラック・カントリー・ニュー・ロードが登場したサウス・ロンドンのDIYなインディ・コミュニティの動向も含め、現在のインディ・シーンに対する認識を教えてください。

「明確に言えるのはこれらのバンドが、ライブによってファンを増やしているということ。パンデミック前には、サウス・ロンドンのブリクストンにあるウィンドミルを中心に、大きなシーンが生まれていた。

そういったスペースが提供しているのは、バンドが成長するための文化的ハブであり、そこで彼らは才能を育み、コラボレーションを促すコミュニティを作り出しているんだ」

●ニンジャ・チューンは90年代から今日のザ・シネマティック・オーケストラやボノボのようなアーティストまで、エレクトロニック・ミュージックやヒップホップに強いレーベルというイメージですが、そんなニンジャ・チューンがBCNRと契約を結んだのは新局面だと感じました。彼らとの契約で決め手となったものは?

「BCNRは本当に素晴らしく、A&Rにとっては最初からそれが決め手でした。 最終的には、自分たちが好きなアクトと契約するということに尽きます。

ニンジャ・チューンのサウンドに対する世間の認識が実際とは異なっていることは感じています。この31年間、我々はさまざまなスタイルのアーティストと契約してきましたし、エレクトロニックやヒップホップもあれば、ロック、シンガー・ソングライターもいる。

特にBCNRの音楽は複数のジャンルにまたがっているので、バンドのDNAと、エレクトロニック・レーベルとしての私たちに対する人々の認識の間にも、間違いなく音的な重なりがあります」

●BCNRのデビュー・アルバム『フォー・ザ・ファースト・タイム』が全英チャートで4位を記録したのは快挙だったと思います。

「私たちと契約する前から、彼らはかなり話題になっていて、素晴らしいライブによってすでにファンベースを築いており、たった2曲しかリリースしていなかったにもかかわらず、ロンドンのヴィレッジ・アンダーグラウンドのような大きな会場を完売させました。

我々の経験では、良いレコードと良い宣伝があれば成功する可能性は高いです。このアルバムは本当に素晴らしいので! 彼らはライブ活動によってすでに素晴らしい基盤を築いて支持を得ていたので、当然プロモーション戦略としてもライブという側面に目を向けるつもりでした。しかしパンデミックの影響でツアーが延期されたため、別の戦略を立てなければなりませんでした。

そんな中でもバンドは、素晴らしいストリーミング・ライブを成し遂げてアルバムをリリースしました。それ以外では、D2C(自主流通)に重点的に取り組みました。今作はアナログ盤がよく売れることが分かっていましたし、物理的なセールスはとても重要でした。全体として私たちの主な目的は、アンダーグラウンドかつ草の根レベルの話題をメインストリームの認知度に変換することであり、ラジオやマスコミなどを通じてそれを実行しました」


●BCNRの成功は、ニンジャ・チューンの今後の契約レパートリーに影響を与えそうですか?

「我々は今後も自分たちが大好きな音楽をリリースし、できる限りの努力をしていきます。今回人々が思う我々の基準とは少し異なるアルバムを制作し、それがここまでの成功を収めることができたのは、本当にエキサイティングなことです。今後もバンド音楽にこだわらず、さまざまなジャンルをリリースしていくつもりです」

●サブスク・ストリーミングがリスニング環境のデフォルトになっていく流れは、ギター・ロック、バンド・ミュージックにとって逆風であるという説も言われていますが。

「サブスク・プラットフォームはとても協力的ですし、非常に多く再生されている現代のギター・アクトがたくさんいると思うので、このリスニング環境がギター・ロックやバンド・ミュージックにとって逆風であるとは感じません。BCNRはフィジカル・セールスも絶好調なので、消費形態はストリーミングだけではなくふたつの混合です」

●アメリカではバンド・ミュージックがパワーを失いつつあります(昨年のビルボード・チャートで1位を獲得したロック・アルバムはマシン・ガン・ケリーの新作1枚きりでした)。その状況と比較すると、イギリスではバンド・ミュージックがまだ持ちこたえているようにも思います。そこにはイギリスの市場ならではの理由があるのでしょうか?

「ギター・ミュージックは長年にわたってイギリスの文化に織り込まれており、それはこの国特有のものです。しかし、BCNRの場合、彼らの成功は英国内に限られたものではなく、海外にも多くのファンがいます」

●2020年代に成功できるバンド、求められるバンドにとって必須要素とは何だと考えていますか?

「結局は芸術性というところに尽きると思います。BCNRの場合、彼らの音楽は完全に本物であり、そのライブは人々を魅了します。彼らはこの点でアーティストとして際立っており、それが、毎日のように新たなアーティストたちによって膨大な数の曲がリリースされている現在にあって、リスナーに魅力的に映ったのです」

●新型コロナ・ウィルスのパンデミックを経験したことは、これからのインディペンデント・ミュージック、(ジャンル問わず)インディペンデント・レーベルにどんな影響をもたらすと考えていますか。

「パンデミックは業界全体、特にライブ業界に影響を与えているので、ライブが再開されることを楽しみにしています。しかしアーティストやレーベルは、この間、この状況に適応してきたように思います。我々もパンデミックの間にアーティストのキャンペーンに取り組む際には、既成概念にとらわれずに考えなければなりませんでした」

●今注目している未契約のバンド、ロック・アーティストがいたら教えてください。

「たくさんいます。ちょうど非常にエキサイティングなロック・アーティストにオファーしたところです。今このジャンルは間違いなく活気付いていると思います」

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WARP
(Creative Director、Stephen Christian)


●あなたの現在のインディ・シーンに対する認識を教えてください。スクイッドは個人的にも今最もデビュー・アルバムを楽しみにしているニューカマーです。このバンドのポスト・パンク云々の枠を超えたユニークなクロスオーバー・サウンドはとてもワープらしいと思いますが、彼らのどんなところに魅力を感じて契約したんですか?


「彼らは賢くて、面白くて、クリエイティブで、とてもエキサイティングな音楽を作っているので、特に難しい決断ではありませんでした。バンドと彼らのマネジメント、そしてワープの全員が、スクイッドがどのように進化していくか、それを強化して拡大していくためにどのように協力していくか、というビジョンを共有しています」

●スクイッドのプロモーション戦略であなたが重視したものは何ですか?

「重視しているのは、彼らがいかに素晴らしいバンドであるかです。彼らの素晴らしさを真に理解するにはライブを観るということが不可欠ですが、パンデミックの影響で人々がライブを体験できないため、クリエイティブな方法を見つける必要がありました。

同時に、アルバムに込められたコンセプト的なアイデアがかなり深いものだったので、バンドとその音楽を取り巻くビジュアル、テーマ、コミュニケーション面での“世界”を構築する手助けもしてきました。スクイッドは、集合体としての、およびメンバー1人1人の個性がすべてを特徴づけています。なので理想としては、我々はその邪魔をしないように、彼らの個性が発揮されるようにしたいと思っています」

●もともとテクノから出発し、エレクトロニック・ミュージックに強いワープや、同様にいわゆるギター・ミュージックのイメージがほとんどないニンジャ・チューンのようなレーベルが、いわゆるインディ・ギターに特化したレーベルに先んじてスクイッドやBCNRのような次世代を担うバンドを輩出している逆転現象が興味深いです。この動きをあなた自身はどう分析されますか。

「すべてが素晴らしい音楽であり、それを作るのにどんなツールが使われているかは重要ではありません。私たちは、ともすると制約されるジャンルの概念を覆そうとするような野心を持った音楽やアーティストに興味があるのです」

●エレクトロニック・ミュージック=新しい&革新的、ギター・ミュージック=古い&保守的という固定概念が、Z世代以降の若い人たちの間では意外と薄れてきているのではないか?というのを近年感じます。ジャンルで判断せずニュートラルに評価するリスナーが増えてきているというか。あなたのご意見、実感を伺えますか。

「革新的なのはアーティストであって、ジャンルが革新的なのではないので、あるジャンルが他のジャンルよりも“革新的”であるという考えは、ちょっと馬鹿げています。

ただ人々がそういった文脈を超えて音楽を体験していることは間違いなく事実で、それは完全に理にかなったことです。私たちは、自分の感情に、知性に、精神に、響く音楽を聴くのであって、最終的にはその音楽がどんなタグ付けをされているかは関係ありません」

●あなたが今、インディ・バンド・シーンの最新の動向を知る上で重視しているもの、チェックしている指標は何ですか?

「音楽を聴くことです。特に、NTSNoodsdublabmovementWorldwide FMThe LotLYLなど、世界中の素晴らしいオンラインのインディペンデント・ラジオを活用しています」

●2020年代に成功できるバンド、求められるバンドにとって必須要素とは何だと考えていますか?

「これまでと同じですね。オリジナルであること、自分が作っているものを盲信すること、そして音楽業界の仕組みの大部分に対して健全な懐疑的な態度を持ち続けること」

●新型コロナ・ウィルスのパンデミックを経験したことは、これからのインディペンデント・ミュージック(ジャンル問わず)、インディペンデント・レーベルにどんな影響をもたらすと考えていますか。

「私は希望を持っています。これによってファンが再び地元のシーンに目を向け、その重要な共同体を構成するアーティスト、DJ、ライブハウスなどが持つ価値に注目したり、世界全体としては、企業の無駄な脂肪がいくらか取り除かれることを期待しています。そのうちわかるでしょう」

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企画・制作:rockin'on 編集部