昨年総計3キロに及ぶがん組織の腫瘍を11時間かけて除去するという大手術を行ったウィルコ・ジョンソンは3月6日から手術後初となるイギリス・ツアーに乗り出しているが、ジュリアン・テンプル監督がウィルコの闘病を扱ったドキュメンタリー映画を近く公開する。
映画は『The Ecstasy of Wilko Johnson』といって、今月開催されるサウス・バイ・サウスウェスト・フェスティヴァルでプレミア上映されるが、もともとテンプル監督はウィルコが活躍したドクター・フィールグッドの2009年のドキュメンタリー作品『ドクター・フィールグッド -オイル・シティ・コンフィデンシャル-』を製作した際にウィルコの人柄に魅せられてしまったという。しかし、ウィルコは2013年1月に膵臓がんに冒されていることと抗がん剤使用をせずに医師から宣告された余命10か月の間はライヴ活動に専念すると発表。この報せに打ちのめされたテンプル監督は「しばらくしてから、ウィルコに自分の経験していることを語ってみたくはないかと訊いてみたら、語ってみたいと答えてくれたんだよ」と語っている。
「ウィルコはすごく不思議な形で18世紀の詩人のウィリアム・ブレイクを思わせるんだよね。ブレイクはすごいロンドンっ子として知られてて、ブレイクの語りはウィルコにそそっくりだと言う人もいるんだけど、それはともかくとして、ブレイクは自分の取り囲む世界や生きるとういことについてすごく時代を先取りした考えを持っていたんだよ。同じようにウィルコもまた、とても予言的な形であらゆるものが見えると説明することができたんだよね。この映画を『The Ecstasy of Wilko Johnson(ウィルコ・ジョンソンの恍惚)』と名付けたのはそのためなんだよ。神の存在や普遍性を悟った時の中世の聖者のようなものなんだけど、そもそもウィルコには信心がないからまるで違ったものなんだよ」
実際、映画のテーマそのものも製作に乗り出した時には死と向き合うものだったのが生と向き合うものに変わっていったことにテンプル監督は驚いたと振り返っていて、特に生死を分けた大手術の前にコメントを取りに行った時にはウィルコの気分が落ち着くまで、10時間待たされることになったという。
「でも、病院に行ってしまう前にあのインタヴューを録ることはすごく重要だったんだ。場合によっては最後の言葉になったかもしれないからなんだよ」
その後、大手術を経て「骨と皮だけになって、15歳は老けた」ウィルコと再会した時、テンプル監督は深い感動に襲われたというが、ウィルコがまた弾けるかどうか確かめるためにギターを手にしてみた時にも同じような感動を覚えたという。
「もし、抗がん剤を使っていたなら、あの大手術は持たなかったはずなんだよ。本当に不思議な形でだけど、ウィルコのこの病気への最初の判断が生き延びることを導いたんだよね」
さらに今回の体験を通して本人もテンプル自身も変わらざるを得なかったと次のように語っている。
「ウィルコは確実に変わったよ。今回の経験を通して生きるということについて学んだことを残りの生き方に反映させようと強く思っているようだよ。ウィルコもぼくも、今のこの一瞬一瞬を最大限までに生きなければいけないんだと学んだんだと思うよ」
『The Ecstasy of Wilko Johnson』の予告編はこちらから。
https://vimeo.com/121490482