膵臓がんと思われていた症状の進行が良化し、2014年に大手術を経て回復に向かい、その後フジロックへの出演や昨年の単独公演も実現させているウィルコ・ジョンソン。今回はついに新作『ブロウ・ユア・マインド』を引っ提げてという完全復活を謳う来日になったわけだが、内容はその通りのものとなり、ロックを生きることの喜びをその音と身体で体感させてくれる素晴らしいライブとなった。
バンドはベースにノーマン・ワット・ロイ、ドラムにディラン・ハウといういつものスリー・ピースで、オープナーは新作からの“I Love The Way You Do”。ゴリゴリのブルース・リフを刻んでいくウィルコ節全開の曲だが、これの歌詞がまたすごい。やんちゃをしまくってもやっぱりお前が好き、という内容で、この愛の部分が絶妙に泣かせるのだ。今は亡き愛妻アイリーンへの気持ちを歌ったものなのかどうかはわからないが、この無骨ながらも繊細な情感をいまだかつてなくたたえたところが今度の新作の真骨頂で、これは間違いなくウィルコの新境地のひとつなのだろうと思う。
続いて80年代のブルース・ナンバー“If You Want Me, You've Got Me”のあとはやはり新作からの“Take It Easy”。ゆったりしたタメの利いたブルース・リフを聴かせながら、孤独を知り尽くし達観した恋愛観が語られる、心に染みるナンバーだ。それから自業自得で女性に捨てられながらもずっと相手の帰りを待つ心境を歌った“Going Back Home”となったが、ドクター・フィールグッド時代の名曲にして2014年にウィルコがロジャー・ダルトリーと一緒にセルフ・カバーした曲でもある。そのどこまでもエッジーなギターとやるせない情感が歌い上げられる、素晴らしい演奏でもって序盤を盛り上げることになった。
中盤はウィルコのゴリゴリのギターならではの味わいをかもすレゲエを聴かせる“Dr Dupree”から、ゴツいグルーヴ感をどこまでも気持ちよく聴かせる新作からの"Marijuana"へ。この曲は死をいったん覚悟した心境を歌ったもので、特にやり場のない気持ちの宙ぶらりんな心情と、カタルシス溢れる演奏とがあいまっていくという素晴らしいものになっていた。まさにウィルコ的ロック魂の一曲で、新境地ここにありというものだ。
それに続いた新作からのタイトなロックンロールとなった“That’s The Way I Love You”、そして自身のソロ曲でこれもロジャー・ダルトリーと14年にカバーしたド渋のR&B曲“Keep On Loving You”の展開も素晴らしかった。
終盤はドクター・フィールグッド時代の持ち歌をたたみかけていく展開となり、“Roxette”、“Everybody’s Carrying A Gun”、“Back In The Night”、“She Does It Right”を軒並み披露していくという怒濤の内容で、ヴォルテージが最高潮のうちに本編終了となった。
アンコールは最近のお約束となっているチャック・ベリーの“Bye Bye Johnny”を演奏し、もちろん途中いろんなアドリブを入れて思いっきり引っ張ってくれるというファン・サービスも披露してくれた。しばらくロバート・ジョンソンの“Love In Vain”的なアドリブを続けた後、本曲に戻ってフィナーレとなった。素晴らしい内容だったし、きちんと最新作『ブロウ・ユア・マインド』でもってパフォーマンスがアップデートされているところがとても頼もしかった。確実にまた一歩先に進んでいることをわからせてくれる、感銘を受けるライブだった。(高見展)