至高のライブがまたもや証明してくれた!スピリチュアライズドが唯一無二のバンドである理由

至高のライブがまたもや証明してくれた!スピリチュアライズドが唯一無二のバンドである理由 - pic by Daisuke Miyashitapic by Daisuke Miyashita

2015年のサマソニ「HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER」以来3年ぶりとなったスピリチュアライズドの来日公演だったが、やっぱりスピリチュアライズドは単独公演が最高にして最強!を実感させられる新木場スタジオコーストだった。スピリチュアライズドのライブとは、2時間の長尺(かつては2時間半が当たり前の時代もありました)を隅から隅まで使い切ってこそ、いや、むしろ余白と反復の余地をたっぷり持っているからこそのクライマックスの陶酔であり、唯一無二の体験だからだ。

そんなスピリチュアライズドのライブを観ている時、私は常に深呼吸を繰り返している。同じ旋律、同じフレーズを何十回と繰り返しながら高まり、会場を満たしていく彼らのパフォーマンスを余すことなく体内に取り込むために、この魂を揺さぶるスペクタクルとなんとか一体化するために、深く深く何度も息を吸ってしまう。そうするといつしか、エンドルフィンとアドレナリンが自分の中で無限に増幅されていく境地に達しているのだ。今回はとりわけ、エンドルフィンがガンガン活性化される高揚と多幸に満ちたライブだったと思う。

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ジェイソン・ピアースが上手の端っこで椅子に座って演奏するスタイルは今回も変わらず。中央がぽっかり空いている半円形の布陣、客席に向かってまるでパラボラアンテナのようにたわんだフォルムを持つスピリチュアライズドのステージは、まさに反響、増幅の装置でもある。

『アメイジング・グレイス』収録の“Hold On”で幕開けたこの日のステージで特筆すべきは、やはりニュー・アルバム『アンド・ナッシング・ハート』の全曲を完全再現してくれたことだろう。『アンド・ナッシング・ハート』はオーケストラ・パートの細部に至るまでジェイソンがたった一人で、しかもそのほぼ全てをラップトップで作ったという、「頭のおかしい変態的作業」(本人談)の果てにようやく完成した大労作にして大傑作だ。今回のライブは、そんな新作にやっとライブの、バンド・サウンドの命を吹き込むことができた喜びに満ちたパフォーマンスで、実際これほどギミックの少ない生のスピリチュアライズドをダイレクトに感じたライブも久しぶりだった。


“Come Together”や“Shine A Light”のような、かつてはノイズの彼方で滅私に追い込まれていったタイプのナンバーも、今回はゴスペル的高揚に転じていた。そう、今回のスピリチュアライズドのライブはまさにゴスペルと呼ぶべき境地に達していて、“So Long You Pretty Thing”と“Oh Happy Day”という、彼らのライブ・レパートリーの中でもとりわけ「God」、「Jesus」、「Lord」、「Heaven」といった聖的なモチーフが散りばめられたナンバーでアンコールが締めくくられたのにも、それは象徴的だった。


ドラッギーなサイケデリックをやっていた初期、途方も無いスペース・シンフォニーの構築に没頭した中期、『宇宙遊泳』〜『レット・イット・カム・ダウン』期にはその過剰を極めたスピリチュアライズドは近年、どんどんシンプルになりつつある。それは軽量化ではなく、純化と呼ぶべきものだ。


スピリチュアライズドを聴き続けてきたファンならば、彼らがアルバムを重ねる中で何度も同じ旋律を、同じ主題を、時を超えて繰り返していることに気づいているだろう。今回のライブでもつくづく感じたのだが、例えば『アンド・ナッシング・ハート』の新曲“A Perfect Miracle”は“Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space”を受け継いだナンバーだし、“Damaged”はスペースメン3の“Lord Can You Hear Me”の続編の続編の続編みたいなナンバーだ。

この点については『ロッキング・オン』本誌での最新インタビューでもジェイソンに訊いた。普通、インタビュアーに「あなたは同じことを繰り返していますよね」なんて言われたら、ポピュラー・ミュージックのアーティストならムッとしたり、怒ったりして然るべきだと思うのだけど、スピリチュアライズドは違う。ジェイソンは、「それは絶対にある」と厳かに断言するのだ。

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では何故、ジェイソン・ピアースは何度も何度も同じ旋律を繰り返し、その旋律の中に一音でも新たな美しい瞬間を追い求め続けるのか。それはロックンロールの原初の姿、その本質の探求こそが彼の命題だからだろう。スピリチュアライズドのやっていることは「ポスト云々」でも「再構築」でもないのだ。そういう意味でも彼らはモダン・ロック、オルタナティブとは一線を画す唯一無二の存在だし、今回のまたひとつ究極に近づいたゴスペル・ライブは、それを鮮やかに証明していたと思う。

ちなみに「今作がラスト・アルバムになる」とも報じられていたスピリチュアライズドだが、それは『アンド・ナッシング・ハート』の作業があまりにも狂っていて過酷だったため、「もう最後にしたい」と一瞬思ってしまったからだと言っていたジェイソン。「またどうせ、もっとああしたい、こうしたいとなるし、音楽は絶対作り続ける。それにライブはつらいスタジオ作業の後に待っているご褒美みたいなもの」だそうなので、ご安心を。再びの至高体験を、首を長くして待つことにしましょう。

そんなスピリチュアライズドのコースト公演のセットリストはこちらのプレイリストから。(粉川しの)





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