【コラム】マーシー、「うもれうた」にザ・ブルーハーツ“脳天気”を選ぶ――ましまろの『The Covers』を見て


いやあ、最高。10月5日夜にBSプレミアムで放送された、『The Covers』ましまろゲスト出演の回。真島昌利/真城めぐみ/中森泰弘がましまろ“ガランとしてる”のみならずバディ・ホリー“HEARTBEAT”やピンキーとキラーズ“恋の季節”のカヴァーを披露する豊潤な歌声には胸が躍ったし、おすすめの昭和の名曲としてマーシー=ちあきなおみ“喝采”/真城=アン・ルイス“甘い予感”/中森=尾崎亜美“マイ・ピュア・レディ”を挙げるという、それぞれ歌心を押さえまくった選曲もよかった。

そして――この日のオンエアに特別な意味を与えていたのは、番組内の「うもれうた」のコーナーだろう。「世の中にあまり取り上げられない曲を発掘する」という趣旨のもと、ゲストあるいは司会:リリー・フランキーの選曲によって隠れた名曲を紹介するこのコーナーで、マーシー自ら紹介した楽曲は、ザ・ブルーハーツの“脳天気”だった。

カラッと渇いたアンサンブルが風のように吹き抜ける、マーシー作詞作曲の“脳天気”。その制作背景を、マーシーは「いきなり売れてしまって、歯の磨き方もわからなくなっていた」「『これからどうなるんだろう?』と考えて落ち込んでいた時期の曲」と包み隠さず明かしていた。当時の過熱的な状況から察するに、そんなメンバーの心境は想像に難くなかったが、まさかこのタイミングでマーシー自身が語ってくれるとは思っていなかった。そんな驚きと感激が、《いい天気だ いい天気だ いい天気だ ノーテンキだ》のフレーズと相俟って胸に迫ってきた。

6月に放送された『ヨルタモリ』で「僕は長い間、世間の過大評価に悩まされてきてるんです」と言いつつ、ブルースハープでタモリと“リンダリンダ”セッションを繰り広げたヒロト。ブルーハーツを取り巻く狂騒が生んだ“脳天気”を、自らの言葉で衒いなく回想していたマーシー。リアルタイムでの熱烈な現象やその後のシーンへの影響まで含めて、ブルーハーツという自身のキャリアを自然体で総括できるまでに、20年という時間を要したということなのだろう。そしてもちろん、過去を振り返るふたりの姿が新鮮な感動を生んでいるのは取りも直さず、今まさに彼らがザ・クロマニヨンズとしてロックンロールのその先へ疾駆し続けていることの何よりの証明であることは言うまでもない。(高橋智樹)