【コラム】西野カナはもうとっくに10代の恋する女子にだけ刺さる歌じゃない

【コラム】西野カナはもうとっくに10代の恋する女子にだけ刺さる歌じゃない

西野カナのことはずっと注目していた。可愛いし、曲もいいし、何より民謡を習っていただけあって歌がうまい。音楽番組に出ているとつい見入ってしまう。しかし友人や周りの人に「西野カナが好き」というと、ロック好きな自分とそんなにギャップがあるのか、たまに「ギャルだったっけ?」とか「震えるほど会いたくなることある?」と返されることがあった。

その理由は何だろう? と考えた時に、そういえば一昔前に「スイーツ(笑)」というネットスラングが流行ったなということを思いだした。スイーツ(笑)の意味を調べてみるとWikiにはこう書いてある。――――「ケーキやお菓子といえばいいのに、あえてオシャレな感じを装ってそれらを『スイーツ』とよぶ女性たちを皮肉の意味を込めて呼ぶ言葉」―――― 私は女なのであえて言うが、別に「お菓子」でもいいのだけど、正直言ってたまには「スイーツ」と呼びたい気分のときもある。女同士で「ねえ、甘いスイーツ食べにいこうよ」というのと「ちょっとそこでお茶しようぜ」というのではテンションの上がり方が断然違う。

西野カナと言えば恋愛の曲が多く、誰もが共感しやすい歌詞が特徴だ。例えば、この世のすべて、とくに10代の女子が恋愛で感じる様々な感情を、ひとつの「ざる」に入れてふるいにかけたら、ざるの中には西野カナの言葉が残るだろう。そんな研ぎ澄まされた 最大公約数的な言葉選びが多くの共感を呼ぶ理由だけれど、わかりやすさゆえに批判されたり、ツッコまれたりする。でも、少女マンガのストーリーがたとえいつもひとつの結論に向かっていくものだとしても、やっぱり少女マンガは面白いし、西野カナの曲にも、そんな共感の装置があるような気がする。“もしも運命の人がいるのなら”なんて女性だけではなく男性だって考えたことある人は少なくなさそうだ。

7月13日に発売された最新作『Just LOVE』はそんな最大公約数的な歌詞に変化の兆しが見えている。具体的に言うと、たとえば“トリセツ”では《定期的に褒めると長持ちします。/爪がキレイとか小さな変化にも気づいてあげましょう。/ちゃんと見ていて。/でも太ったとか余計なことは気付かなくていいからね。》だったり、“あなたの好きなところ”の《トマトが嫌いなとこ/たまにバカなとこ/人の心配ばかりするけど/おせっかいだけど/今日も忘れ物したんでしょ/傘も無くしたんでしょ》など、最大公約数的な言葉選びとは対極の、親密で具体的で、どこか生活の匂いがする言葉が使われているのだ。それによってサウンドもアコースティックギターやウクレレ、ピアノを取り入れた生っぽいサウンドで仕立てられている。今までは打ち込み系の音とR&B調の楽曲が多かったが、年齢を重ね、大人の女性として落ち着いてきた西野カナの等身大の言葉にはこのようなオーガニックなサウンドも合うのだ。

今までの共感を得やすい楽曲に加えて、サウンド、歌詞共に新しいアプローチが出来るようになった西野カナの曲はもうとっくに「ケータイ世代」や「10代の女の子」だけに刺さる歌じゃない。それは今作『Just LOVE』を聴けば一目瞭然だ。

多くの共感を得ることができるものは、それこそつっこまれるくらいに「素直」なものである気がする。それでも私たちは今日も少女マンガを読んでしまうし、たまには甘いものをスイーツと呼んでウキウキした気分で1日を過ごしたいと願っている。色眼鏡を外して西野カナを聴いてみると、また新たな表現方法を身につけた一人の女性アーティストとしての彼女の魅力に気づくことだろう。(渡辺満理奈)
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