【コラム】マイノリティの逆襲――ヤバイTシャツ屋さんは世界の何を逆転させるのか?

【コラム】マイノリティの逆襲――ヤバイTシャツ屋さんは世界の何を逆転させるのか?

ロックはいつの時代だってマイノリティだったはずだ。大衆音楽と言われたってクラスにロック好きな友達はせいぜい1、2人だったし、それより遡るとビートルズを聴いている人は不良だと言われた時代だってあった。実際、自分も学生の頃は軽音楽部に所属していたが「クラスの中ではちょっと浮いている人」が多かった印象がある。

しかし、ロック好き=マイノリティという図式は、昨今の世の中の流れには適合していない。ついでに言うといつの間にか「サブカル」と「メインカルチャー」の境界も曖昧になっているように感じる。

そんな時代だからこそ、3ピースバンド・ヤバイTシャツ屋さんは頭角を現した。彼らは2016年11月2日(水)発売予定の1st フルアルバム『We love Tank-top』でメジャーデビューをする。ヤバTといえば“ウェイウェイ大学生”という楽曲の中で《鳥貴(族)でサワーで乾杯したあと/スポッチャでオールナイト/大切なものは単位より遊びと睡眠》と歌っていたり、“あつまれ!パーティーピーポー”では《レッドブルでウォッカ割って飲んで吐いた女持ち帰って/朝まで楽しむ PARTY PEOPLE》など、「こんな人いるよね」という意味で共感する「あるあるネタ」を歌詞に取り入れていることが多い。

ヤバTのインディーズ1stシングルに収録されている“DQNの車のミラーのところによくぶら下がっている大麻の形したやつ”という曲があるが、確かに自分もどこかで何度か見かけて「あれはなんだろう?」と思ったことがある。どうしても誰かと共有したかったことでもないが、やっぱり同調してしまうし、思っていたけれど口に出すまでもなかったことをロックに昇華して、声高らかにツッコんでくれたヤバTの出現は痛快だった。

少し前だったらそんなヤバTのメジャーデビューはそれだけでエポックメイキングな出来事だったかもしれないが、今日の音楽シーンには岡崎体育がいて、キュウソネコカミがいる。これらのアーティストには、大衆に対する皮肉めいた視線が歌詞に含まれているという共通点がある。

一概には言えないが先述の“ウェイウェイ大学生”のイメージを感じさせる大学生は実際にいたし、その数は少なくなかったと思う。逆に、それに対し言葉にして皮肉っていたのは少数派だったはずだが、若い世代を中心にインターネットやTwitterなどのSNSが普及し、どんどん生活に密着していったことによって変わっていった。ロック好きが自分の周りのコミュニティにいなくてもネットの海に出れば大勢いたように、マイノリティだったはずの大衆に対する皮肉めいた視線は、彼らの作り出す「あるあるソング」に乗って日本中のマイノリティの間でバズった。バズっていけばいくほど、また新たな層にも共感を生み、その数はどんどん増え、そうしてむしろ少数側の主張が大衆的な総意になってきているように感じるのだ。

今後、メジャーへいくことによってヤバTの名と音楽はますます広がっていくだろう。自分の中にあった世の中に対するマイノリティな視線を、ロックというツールをつかって大衆側にひっくり返す可能性を持っているヤバTの出現は「マイノリティの逆襲」と言えるのかもしれない。(渡辺満理奈)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on