My Hair is Bad、本当の入門テキスト――歌詞、ライブ、椎木知仁という人のすべてを完全解説
2016.12.16 12:10
最近「My Hair is Badのライブのチケットが全く取れない!」という、歓喜と嘆きの入り混じった声を多く聞くようになった。35ヶ所にわたる怒涛の全国ツアーの後、間髪入れずアンコールツアーの発表……しかも本数は増えて全43ヶ所、さらにそのほぼ全公演が完売。世代やジャンルを超えた大御所ともいうべきバンドやアーティストとも次々と対バンを果たし、多方面から楽曲やライブへの賞賛が絶えないのが現状だ。
今、なぜこんなにもマイヘアの音楽が求められているのか? 日本のロックシーンに新風を吹かす彼らは一体どんなバンドなのか?――以下、その疑問や魅力を紐解いていく。
⑴My Hair is Badとは?
①新潟県上越市出身の3ピースロックバンド
My Hair is Bad(通称:マイヘア)は、
・椎木 知仁(Gt・Vo)
・山本 大樹(バヤ)(Ba・Cho)
・山田 淳(やまじゅん)(Dr)
による新潟県上越市在住の3ピースロックバンド。2008年のバンド結成時から2016年にEMI Recordsよりメジャーデビューを果たした現在も、地元・上越を拠点に活動している。
②200/365?――驚愕のライブ本数
彼らの凄さのひとつは、異常なまでの「ライブ本数」にある。2015年は年間約170本、2016年は200本を目標に掲げている時点で2日に1回以上ライブをする計算。楽曲“フロムナウオン”冒頭の椎木の弾き語りでは、「なんか疲れた最近ライブ」というフレーズがお決まりのように飛び出すが、その気持ちも理解できてしまう程の数だ。しかしそんな絶対的現場主義バンドだからこそ、各地で活動するバンドやライブハウス、ファンとの繋がりや信頼は絶大。ライブ・フェス全盛期と言われる昨今、これほどの強みを持つバンドはそういないだろう。
⑵過去でも未来でもない、現在進行形の恋愛
①いつだって“最近のこと”を歌っている
My Hair is Bad - 最近のこと Music Video
《今僕がしたいのは/二人の話なんだ》――1stミニアルバム『昨日になりたくて』収録“最近のこと”のこのフレーズこそが、彼らの在り方そのもの。過去でも架空でもない、今目の前にいる恋人ないしは好きな人と自分のことしか歌わない、というよりそれを歌わなければ意味がない。その作り込みなしのリアルさが彼らの最大の魅力であり武器だ。ちなみにミュージックビデオの撮影地は、上越EARTHのある高田駅から徒歩15分程の場所にある「高田公園」。紅葉や桜の名所でもあるので、ライブハウスにお越しの際は是非。
②普通に思えたあれもこれも、思えば全部“ドラマみたいだ”
My Hair is Bad - ドラマみたいだ Music Video
《そしたらちょっと可笑しくなって/ドラマみたいだってなんか思った》――例えば恋人同士のふとした会話や、仲睦まじく手を繋いでいる姿。街中で当たり前のように見かけるその光景にも、「ありふれている」なんて言葉では片付けられないようなドラマがあるのではないか? マイヘアの楽曲たちは、そんな誰もが見ているであろう普通の風景を、主観と客観の隙間から切り取ってくれる。自身の恋心を透かして聴くも良し、ドラマを観るように客観視して楽しむも良し。聴き方ひとつで、違ったドラマが見えてくるだろう。
③一目惚れをした瞬間、君に“真赤”な首輪をかけられた
My Hair is Bad - 真赤 (Official Music Video)
《0.1秒で飽きる毎日が/突然、輝き出したんだ》――恋愛にまつわるあらゆるタイミングを歌ってきたマイヘアだが、「一目惚れ」という滅多にない境遇を実体験として歌った楽曲はこれが初。さらに、恋人関係の渦中でも元恋人を偲ぶ曲でもなく、片思い真っ只中の不安定な心情を歌っているのもこの曲が初めてという初物尽くしの楽曲。片思い、両想い、その後――恋愛における全シチュエーションをコンプリートしたマイヘアは、まさに死角なしといったところだ。
⑶感受性と表現力の賜物――瞬間を味方にするライブアクト
①セットリストからでは予測不可能なライブ
セットリスト(曲目)がライブの印象を大きく左右するのはもちろんだし、そのバンドのライブを何度も観に行っている人ならそれを見さえすれば大まかな検討がつくはずだ。しかし、マイヘアのライブに関してはそれが全く通用しない。それはマイヘアのライブが並べられた曲を「鳴らして歌う」ライブではなく、「鳴らして遺す」ライブに近いからだ。曲と曲の合間に発される一言やMCで語られる心境が毎度異なるのは、「100点ではなく、100%のライブをしなければ意味がない」という彼らの姿勢そのもの。毎回こちらの予測を超えてくれるから、いつも新鮮な気持ちでライブハウスに足を運べる。
②息を飲む間すら与えられない、赤裸々を越えた感情の暴露
マイヘアのライブスタイルに関して「鳴らして遺す」と先述したが、その真骨頂ともいえるのが椎木の「弾き語りパート」だ。どのタイミングで語られるかは定まっていないが、“フロムナウオン”では本来の歌詞をほぼ無視してメロディーにその時の感情をそのまま乗せるという、フリースタイルさながらのパフォーマンスを繰り出しフロアを黙らせる。そんな椎木の言葉数にも驚かされるが、そこに動揺や怯みを一切見せないバヤとやまじゅんの強靭なベースラインをしっかりと受け止めてほしい。
⑷ボーカル・椎木知仁という人間
①「椎木、何人いるんだろうなって」――本当の椎木知仁って誰?
<ライブしてる時の椎木と、曲作ってる時の椎木と、全部抜きにした俺と。みんなライブやってる時の椎木になりたいって思いながら、曲書いたり、詞書いてる椎木は仕事熱心に頑張ってるし。俺は、そのふたりの邪魔になんないように、彼女と別れたり。>(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年11月号インタビュー抜粋)
ステージに立つ椎木から女々しさを感じることはほとんどないが、歌詞カードを開くと言葉の裏側から「愛されたい! 大事にされたい!」という哀願が滲んでいる。通常「表裏」「外内」で表現されるその二面が常に「表表」の状態なのが「椎木知仁」そのものなのだと思う。
②「椎木は赤ちゃんだって言われる」――彼にとって恋愛とは?
そんな椎木はインタビュー内で、元彼女だけでなくほかの女性からも「椎木は赤ちゃんだ」と言われたと話していた。依存しがちな恋愛体質であることは“真赤”の中で《君は言う「あなた、犬みたいでいい」って》と歌われているが、現在の恋愛的本音としては<好きになるわけないけど、とりあえず経験値溜めとこうみたいな、最悪なこと思ってるその本質も絶対ある。すぐ曲にするし、本当に。このままじゃ幸せになれないって思う。だからバンドマンとして、書き手として、腐りたくないだけなんだと思う。今は、やっぱり自分のことが一番なんだろうな。>(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年11月号インタビュー抜粋)と語っている。その言葉からは女々しさや弱さは一切感じられなかった。
⑸再放送一切無し、新感覚ドキュメンタリーを見逃すな
これまで語ってきた通り、My Hair is Badというバンドは過去でも現在でも未来でもない「今、この瞬間」をがっちりと掴むバンドだ。同じライブは二度とない――それはどのアーティストのライブに関しても言えることだが、彼らと出会ってからはそのことを特に強く感じる。楽曲に関しても、普遍的な真理を説くことよりも瞬発的体験に関する歌詞が多いからこそ、曲に詰め込まれている情景や空気が格段に濃い。一曲、一回のライブ、絶対に聴き逃せないし、観逃せない。あなたの知らないところで、My Hair is Badは今日も更新し続けている。(峯岸利恵)
なお、RO69ではMy Hair is Badが登場した『ROCKIN'ON JAPAN』2016年10月号のインタビューを一部掲載しています。是非ご覧ください。
「椎木は赤ちゃんだ」とずっと言われてきたMy Hair is Bad・椎木知仁が明かす「本当の椎木」とは
http://ro69.jp/news/detail/150127