これまでインディーズからミニアルバム『逃した魚』(09)、フルアルバム『あとのまつり』(10)を、メジャーからは『スーパースター』(11)、『blues』(12)、『ラブストーリー』(14)、『シャンデリア』(15)と4枚のフルアルバムをリリース。この2016年は5月に『僕の名前を』、8月に『黒い猫の歌』(配信)、11月に『ハッピーエンド』をシングルリリース。コンスタントに名曲を放ちながら、国民的バンドとしての認知度を上げ続けている清水依与吏(Vo・G)、小島和也(B・Cho)、栗原寿(Dr)の3人からなるバンド・back numberが本日12月28日に初のベストアルバム『アンコール』をリリースする。
RO69では、現在発売中の『CUT』1月号に掲載されているインタビュー「back number、恋の20曲」でソングライターの清水依与吏が語った言葉から、back numberの楽曲がなぜここまで多くの人の心を揺さぶるのか、そのソングライティングの秘密に迫りたいと思う。このインタビューでは、ベストアルバム『アンコール』に収録されている/いないに拘らず、back numberの全楽曲の中から「恋の始まり」「恋の最中」「恋の陰り」「恋の終わり」の4つのカテゴリーに当てはまる楽曲をそれぞれ5曲ずつセレクト。各カテゴリーの楽曲を清水依与吏がどのように書いているのかを解説してもらうことで、back numberの楽曲と清水依与吏の恋愛の密接な関係が浮き彫りになっている。
「恋の始まり」の5曲は、不安でいっぱい“ハイスクールガール”(『あとのまつり』)
“花束”(『スーパースター』)
“手の鳴る方へ”(『blues』)
“世田谷ラブストーリー”(『ラブストーリー』)
“僕の名前を”
「インディーズの“ハイスクールガール”のときとかは、今よりも反射神経でやっていたんですよね。サビのメロを作って、そこになんとなくくっついてた鳴りのいい言葉からヒントをえて――それは今でもやるんですけど、言葉が言葉を呼んでみたいなことしかもうできなかったので。たとえば《明日になったら》っていうフレーズがあったら、『明日になったら……ああ、君が彼女になってたらいいなあ』みたいな。で、『君がいなかったらたぶん死んじゃうよね』みたいに言葉が出てきて。今ではそういう浅はかさって素敵だなと思うけど、その時はそれをたぶん必死に書いてるんですよね。今よりも恋愛というか、人に対しての情念がよりわかりやすかったと思うんで。当時は、自分から『好き』って言うのをあんまりかっこいいとも思ってないみたいな、こじらせ方があったと思いますね(笑)。いかに好きって言葉を使わずに好きっていう気持ちが伝わるか。結局、この時ってまだ自分を知らないし、back numberがどんなバンドかも知らないし、なんか手元に資料がないんですよね。たぶん当時の僕はすごく必死に、自分がどういう人間で、back numberがどういうバンドかを探してるけど、恋愛の曲が多いとか、人生の歌を歌おうとか、そんなこと1個も思ってなかった(笑)。反射神経でやるとああいう『好きっていう言葉を使わずに好きっていう気持ちを伝える』ようなものになるというか」
「正直な話、恋してるときっていうのは、いっつも不安なんですよ。『絶対にあなたの手を放しませんよ』って言ってくれる女の人が横にいたとしても、それはそれで別の不安が出てくるというか(笑)。要は角度を変えて不安が、もう手を替え品を替えずーっと自分の中にいるんで。あともう1個の理由としては、ストレートに『幸せだぁ!』っていう歌を聴きたいと自分があんまり思わないから。だから相手に幸せな自分の話をする時は、絶対オチをつけるとか、自分がカッコ悪く見えるように話す。そうじゃないと受け取ってもらえないっていう感覚があるんです。“世田谷ラブストーリー”は、そういう意味でちょっとたどり着いた感はありました。back numberのダサい主人公の真骨頂みたいな。あの曲が入ってるメジャー3枚目の『ラブストーリー』で『back numberってこういうバンドなんだなあ』っていうのが1個わかった感じもあるし、この曲は特に出てると思いますね」
「今年の5月に出したシングルの“僕の名前を”とかで、やっと『恋の始まり、楽しいぜ、ベイベー!』みたいなのもバカなふりして歌えるようになってきて。“ハッピーエンド”という一番新しいシングルのカップリングの“君の恋人になったら”っていう曲で、ふざけた感じで《アイラビュー》とか言ってみたり、やっとそういうことができるようになったんです。長いこと『恋の始まり』には不安がなきゃいけないっていう美学って言ったらかっこよすぎますけど、概念があって。光を描く時にはやっぱり影を描くというか。この5曲を見ると全部不安というか、影が強いですよね。“僕の名前を”を出した時は、映画(『オオカミ少女と黒王子』)も10代向けの映画で、その中のなるべくまっすぐなラブソングを書こうと思って、たぶん今までにないくらいポジティブなものだと思ったんですけど、聴いた人たちからは『なんて悲しいんだ』とすごく言われて『ああ~』って思ったんですよ(笑)。自分では全然切なくないなあと思ったんですけど」
「恋の最中」の5曲は、キラキラと生々しさのせめぎ合い
“march”(『あとのまつり』)
“いつか忘れてしまっても”(『あとのまつり』)
“わたがし”(『blues』)
“日曜日”(『blues』)
“光の街”(『ラブストーリー』)
「“わたがし”とかは結構、上の世代の方に褒めていただくことが多いですね。親父の友達とか(笑)。あと槇原敬之さんに褒めていただいたのがすごくデカいです。『あのAメロの《わたがしになりたい》っていうくだりはもう書けない』みたいな感じで言ってもらって『いやいやいや』っていう。本当に日本一の歌詞を書かれると思っている方のひとりですから、そういう方に褒めていただけるというのは、実際にどこまで到達しているかは置いといて、自分なりの山をちゃんと登れてるんだなと思って、すごく嬉しかったですね。でもこの4つの中では、一番苦手だと思ってるジャンルなんです。人様にお聴かせする時に、自分でイラッとしたくないなと思うし。『めんどくせえな』とか『気持ちわりいな』っていうのはいいんですよ。それが愛おしさに繋がるんで。だけど自分でイラッとしちゃったら、もう二度と聴けないんで。そこは歌の主人公を描く上で細心の注意を払いますね」
「生々しくないと嫌なんですよね。『恋の最中』って何を見てもキラキラしてるから、情景描写で十分心の話ができちゃうんですよね。だけど、ちゃんと心のほうの話をしてコントラストが出ないと歌った気になんないんだと思うんですよね。“クリスマスソング”とかはほんとに迷いながら作りましたし、すごくつらかったです。作っていく中で『ほんとにこれ、俺なのかなあ』っていうふうに思った時もあったし。だけど今、聴いてみると、もうこれは完全に俺でしかないので。嬉しいような悲しいようなというか。じゃあ、カッコつけちゃいけないのかって思うこともあるし、カッコつけさせてくれよって思うところもある」
「恋の陰り」の5曲は、ワクワクが止まらない“KNOCK”(『逃した魚』)
“リッツパーティー”(『スーパースター』)
“繋いだ手から”(『ラブストーリー』)
“こわいはなし”(『ラブストーリー』)
“アップルパイ”(『シャンデリア』)
「どちらかというと後半に入ってくると、こっちのフィールドだなっていう感じがしますね(笑)。恋が終わってから何ヶ月か経ってみたいな時期のことがホームグラウンドなので、『恋の陰り』になってくるとホームグラウンドにだんだん近づいていきます。共通してるのは、曲調がミドル以上ですね。“リッツパーティー”もそうだし、“こわいはなし”も“アップルパイ”もそう。歌詞は、演奏の逆をいきたいっていうか、こんな楽しい跳ねたリズムとかで楽しいこと歌ったらもうアウトでしょっていうか、嫌なんですよね。『明るい明るい明るい、どうぞ、明るい!』みたいなのは正直、『うーん』ていう感じ。だから『恋の陰り』というのは、まあ音楽的には正直な話、ワクワクが止まらない時期ですよね(笑)。音楽をやる理由が、このあたりからはっきりするんですよ。歌わなきゃやってられないんで。『恋の最中』とか『恋の始まり』は、ある程度、無理やり歌にしないといけない。『恋の始まり』はまだいいんですけど、『恋の最中』はもうほんとに歌ってる場合じゃないんで(笑)。本来なら別に歌にしなくてもいいんで。だから後日書いてることが多いですね。落ち着いてやれるから、たぶんストレートに書けたりもするし。でも『恋の陰り』に関してはもうワクワクが止まらないのがリズムに出ちゃってるんですよね。もう先行っちゃうよみたいな。別れてないけど別れた曲書いちゃうよみたいな(笑)。『ごめんね、たぶんこの感じだとこういうふうになってこうだよね。ちょっといったん曲にして書いといていい?』みたいな。で、また別のことになったらそっちも書くからみたいな。昔から言ってるのが、音楽ができるのって結局ストレスからのひらめきなんすよね。だから適度なストレス、時には適度以上なストレスが重要なんだろうなって。やっぱり曲を作る理由を見つけるためのシンプルなエネルギーなんだろうなって思います。まあ終わってますね、シンプルに言うと。なんかちょっと変態だなあと、間違ってるなあと改めて思いましたね(笑)」
「恋の終わり」の5曲は、音楽をやる理由そのもの“春を歌にして”(『逃した魚』)
“はなびら”(『スーパースター』)
“fish”(『ラブストーリー』)
“ミラーボールとシンデレラ”(『シャンデリア』)
“ハッピーエンド”
「書いたタイミングは、この中だと“fish”が早いんです。たぶん“fish” ができた時にスタジオで俺が歌って、(栗原)寿に叩いてもらってやってたら、(小島)和也が遅れて入ってきて『これ誰の曲?』『これ今、作ってる新曲。いいでしょ?』って言ったら『え、マジで? めっちゃいいじゃん』みたいな。そこから“春を歌にして”“重なり”とかできて、どんどん新しい扉を開いていった時期で面白くてしょうがなかったんですけど、私生活はボロボロでした(笑)。歌わなきゃやってらんなかったです、居場所がなくって。ずーっとスタジオの受付の横で体育座りして、スタジオのお姉さんに話聞いてもらって。で、曲書いて、仕事行ってみたいなことをやってました。体にも心にも良くないと思うんだけど、そういう時は、やっぱり音楽をやる理由がはっきりしてるんだと思います」
「今年の11月に出したシングルの“ハッピーエンド”は、すごく好きな曲なんですよね。ここまで歌ってて『ああ、気持ちいいな!』っていう感覚って正直、最近そんななかったんで。やっぱり今の自分の別れに対してというか、感情の吐き出し方がこういうものになっていて。自分で泣けるものを書いたんです。もちろんこの主人公の中には自分もいるし、歌の中の相手方のほうにも自分がいる気がするんですよ。だからまぎれもなく自分の歌だという感じなんですよね。自分の涙腺の話をしちゃってますね」
「恋の20曲」を語り終えて――2017年のback numberはどこへ
ここまで恋愛の4つの過程に分類してラブソングを語ってもらうことによって、清水依与吏がいかに私生活と音楽作りが一体化してしまった業の深いソングライターであるかが顕になった。そして、その検証の結果を振り返りつつ、彼は最新シングル『ハッピーエンド』にも顕著に現れている、これからback numberが挑むものについても語ってくれた。
「みんなどうやって音楽やってんのかな。みんな俺の何千倍も音楽が好きだなあって思いますけど、俺の場合は、もう音楽でしか無理というか。感じてることをこのまま普通に長文にしちゃったら愚痴とか八つ当たりになっちゃうんですよ。だからと言って小説として長く書く自信もないし、そんな長い時間、愚痴ってもしょうがないというか、すぐ気が済んじゃうんで。だからこういう音楽とかバンドっていう手段がなかったら、まともに人生やれてないと思います。ほんと、危なかったです。音楽がなかったら一流のストーカーになってたんじゃないかっていう説ありますからね(笑)。それっぽい歌ありますからね」
「最初は何もわからずにラブソングを書いてて。『ラブソングが多いね』って言われたら『それだけじゃねえし』って言って、人生の歌も書いてみたり、ひと通り自分の中で『あれも歌いたい、これも歌いたい』っていうのを絞り出した感が強かったですけど。でも“手紙”という曲を書いたことで、そういう旅も一段落して、もうこれからは好きなことやろうよっていう感じもあるんだけど。そこで今までのback numberが好きだって言ってくれてる人の首根っこも捕まえて連れていくパワーがないとダメだって思った時に、ちゃんとナチュラルボーンというか、最初からこういう人間がそこにいたかのような錯覚をするぐらいのクオリティが楽曲の主人公にないと見抜かれるし、それは新しいことやったことにはならないし、やる価値もないなと思って。それで歌いたいって思うことをかたっぱしからやってみたのが『ハッピーエンド』という最新シングルに入ってる3曲なんですよね。大まかに言えば、今までのback numberと変わってないんですけど、自分たちなりに振りきっているパワフルさを感じてるし、何よりも自分たちが聴きたいもの作れてるんで、すごくいいなと思ってますね」
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