【大解説】嵐が見せた「Happy」の最高地点! 『Are You Happy?』ツアー映像作品を観た


『ARASHI LIVE TOUR 2016-2017 Are You Happy?』は、アルバム『Are You Happy?』(2016)を引っさげてのドームツアー、その東京ドーム公演(2016年12月)を収録した嵐の最新ライブ映像作品だ。映像集としては『ARASHI LIVE TOUR 2015 Japonism』(2016)に続く作品であり、『Are You Happy?』と『Japonism』(2015)がアルバムとして好対照な作品であったのと同様に、ライブ映像集としてもかなり対照的な作品に仕上がっていると言えるんじゃないだろうか。

『Are You Happy?』ツアーのオープニングは、楽屋やリハーサル場にいる嵐の映像で幕を開ける。そう、これから始まるエンターテインメントの裏側をいきなり見せるという、非現実的な空間であるはずのアイドルのコンサートに意図的に現実を含ませてから始まるのが今回のツアーの面白さだ。花鳥風月的な映像と共にコンセプチュアルな総合アートとして幕を開けた『Japonism』のコンサートとは、出発点からしてこれだけのギャップがあるのだ。同じようなコンセプトのツアーはふたつと作らない嵐だけれど、中でもこの2015年と2016年のツアーの際立ったコントラストは、こうやって映像作品として見比べるとかなりビビッドに感じることができる。嵐が作り上げた完璧コンセプチュアルなエンターテインメントを「見せる」&「魅せる」のが『Japonism』ツアーだったとしたら、嵐が今まさにこの場で「作りあげていく」エンターテインメントにオーディエンスを巻き込んでいったのが、この『Are You Happy?』のツアーだったのかもしれない。そんなことを観ながら思った本編のオープニングだ。

また、こうして映像化されて気づいたのは、今回はコンサートでは5人のソロパートがセットリスト上の句点ではなく、読点としてスムーズに流れを作る役割を果たしているということだった。とりわけその印象が強かったのが前半の櫻井と大野のソロだ。場が温まり始めたコンサート前半に相応しいさわやかな朝の風景をバックに、チアフルでウォーミーなラップを弾ませる櫻井の“Sunshine”は、そんな彼のラップが嵐のリリシズムの根底にあることを証明する“To my homies”へと橋渡しされ、シュールな顔芸と超絶シャープな身体能力を発揮したダンスのギャップが凄いことになっている大野智の“Bad boy”は、前半のダンスナンバーのキモである“TWO TO TANGO”へと、その躍動と興奮を途切れることなく渡していく。
それにしても“TWO TO TANGO”のダンスと演出は、観れば観るほど唸るしかない精巧な作りだ。特にシャドーを効果的に使って立体感を生んでいく照明は、こうやって映像化される際のカット割りまで計算していたんじゃないかと思うほどスタイリッシュ。そんな“TWO TO TANGO”からグロッシーな夜景の映像が映える“復活LOVE”へと続く流れはシティポップセクションとでも呼ぶべきもので、『Japonism』ツアーの非現実としてのジャパネスク世界とはこれまたやはり対照的な、今・此処と地続きのリアリティを生んでいる。

嵐の初の東京ドーム単独公演は2007年だから、彼らがドームを言わば「ホーム」として10年近くが経つ。その間には国立競技場というさらに巨大なステージもあり、嵐はあらゆる演出、装置、技巧を凝らしてそのスケール感と対峙し、距離や広さをハンデとしないステージをいくつも作り上げてきた。そんな彼らの歴史において、『Are You Happy?』ツアーは距離や広さを埋めるベクトルではなく、むしろ余白を活かすベクトルで構成されたユニークなツアーだったんじゃないかと、今回の映像を観て改めて思った。ゴージャスな舞台装置をさりげなく使う贅沢さといい、要所要所は締めつつも、フリースタイルの余裕、風通しの良さを残した演出の数々といい、ドーム公演の匠の域に達しつつある嵐だからこその、大胆なタッチが随所で光っている。

そしてそれは、5人の個人パワー、エンターテイナーとしての嵐の実力を担保して初めて実現するものでもある。余計な演出は排除し、流れるような5人のフォーメーションと完璧なシンクロでほれぼれさせる“I seek”や“WONDER-LOVE”のダンスはまさにその最良の例だろうし、5人がそれぞれに高層フロートの上に立ち、ダンスすら封印して歌だけの力で5万5千人を引き込む“Miles away”は圧巻の一言だ。ソロ、コーラス、輪唱、ユニゾンと、何度も拡散と集合を繰り返す5人の声をそっと束ね、ドームの宙高く導いていく大野(この曲の監修者でもある)は、改めて嵐らしい嵐のリーダーだと思う。
その一方で、オールディーズなアメ車風の移動カーに5人でぎゅうぎゅう乗り込み、ハンディカメラで互いを接写し合ったブレブレの映像が醸し出す無敵のチーム男子感、カジュアルな楽屋ノリもたまらない。 “Step and Go”で5人の手が重なる円陣の接写もぐっとくる。引きと寄り、洗練とカジュアル、その緩急のバランスが抜群だと感じる映像なのだ。

後半の3人のソロも緩急の連続だ。ゴージャスな生オケを従えて軽妙に乗りこなす華やかなスター性と、パーソナルな思い出が詰まった映像の数々にナイーブで温かな彼のもうひとつの顔を垣間見せる松本の“Baby blue”。アイドルのライブ映像としては異例の引きショットの連続で捉えられた幾何学的で伶俐なダンスに、どんな表情で踊っているのか想像が掻き立てられる二宮の“また今日と同じ明日が来る”。Tシャツ+デニムのラフすぎる出で立ちにも拘らず、長い手足が際立つダイナミックなダンスと弾ける笑顔でスーパーアイドルっぷりを証明する相葉の“Amore”と、まさに三者三様。「失恋リハビリ道場」なる謎コンセプトの“青春ブギ”も最高! 昭和レトロな歌謡曲を全力のパロディで歌い演じる嵐、学ラン+白ハチマキで太鼓を叩くジュニアの演出まで含めて、ジャニーズのエンターテインメントの理屈を越えた楽しさを思いっきり体感できる一曲だ。

嵐のコンサートにおける定番ナンバーを「Happy Medley」と題してコンパクトにまとめたのも、今回のツアーのテンポの良さに一役買っている。 “A・RA・SHI”がワンコーラスのみだったりする贅沢なメドレーなのだが、ツアーテーマの「Happy」に相応しい曲として“Happiness”や“きっと大丈夫”が引き立っているのもさりげなく、そして誠実な構成だと思う。

こうしてコンサートを余すことなく追体験できる『ARASHI LIVE TOUR 2016-2017 Are You Happy?』なのだが、ひとつ悩ましい問題がある。嵐の作品で複数のバージョンがある場合、一種のみ手に入れるとしたら初回限定盤を選ぶのがたいていは正解なのだけれど、今回は非常に迷うところなのだ。ちなみに初回限定盤の特典は、9年ぶりのアリーナツアーとなった「ARASHI "Japonism Show" in ARENA」の横浜アリーナ公演の映像。『Japonism』をアリーナ規模で追体験できる本作はもちろん必携なのだが、問題は通常盤の特典も素晴らしすぎるという点なのだ。

「Documentary Film〜アユハピ〜」と題されたこの通常盤の特典映像は、『Are You Happy?』ツアーの企画立ち上げ段階から最終公演まで密着した、ツアーの制作舞台裏のドキュメンタリー映像だ。日本を代表するトップアイドル嵐が日本最大規模のエンターテインメントショウを作り上げていく過程、その地道にしてドラマティックな日々が、余すことなく捉えられている。限られた時間、ハードワークの合間を縫って行われるリハーサル、二転三転する構成、ずれ込む予定、疲弊と焦り、それでもたえない笑いとユーモア、そして究極にシビアなプロの世界に生きる5人の、揺るぎない信頼と友情。そうして夢の世界を裏側でコツコツ積み上げている彼らは、適当なジャージ姿だったり無精ヒゲだったりとまさに素をさらしているのだが、そんな彼らが意外なほどファンタジックに、アイコニックな存在に見えるのがこのドキュメンタリーの面白さだ。何故ならそれは、最高の夢のステージに臨むために格闘する素の嵐、その裏側まで含めた全景色こそが、嵐が見せたかったエンターテインメントであり、ファンと共有したかった「Happy」だったからではないか。コンサート本編の冒頭が、まさにこの裏側の映像から始まったことにもそれは象徴的だろう。『Are You Happy?』ツアーのコンサート映像は、嵐が生んだエンターテインメントの記録であると同時に、エンターテインメントの当事者である嵐自身の記録でもある。そういう意味でもステージの裏側のドキュメンタリーは、本作の本質を味わう上で欠かせない要素だと言えるだろう。

本編を観てからこのドキュメンタリーを観るという王道パターンに加え、本作にかぎってはドキュメンタリーを観てから本編を観るというトリッキーな順序もアリかもしれないと思った。なぜなら彼らが「Are You Happy?」と語りかけるこのステージは、嵐、そして私たちファンにとってはすでに「そこ」から始まっている物語だからだ。(粉川しの)
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