なぜ西野カナは30cmも髪を切り、今「Girls」というテーマを歌うのか?

『Girls』通常盤
西野カナ、7月26日に新曲『Girls』をリリース。髪を30cm以上カットした『切りっぱなしボブ』の新ビジュアル公開」
このニュースを聞いた瞬間、正直内心でニヤッとした。彼女がここ最近築き上げてきた数々のランドマークを見れば、「女の子」の意をタイトルに冠した楽曲をリリースすることも、ヘアスタイルを「切りっぱなしボブ」にチェンジしたことも、今このタイミングで行われて然るべきすぎる出来事だからだ。

彼女にとって31枚目のシングルとなる『Girls』は、「ガールズ応援歌」として打ち出された楽曲である。レイトン教授の娘が謎解きに挑むゲーム『レイトン ミステリージャーニー カトリーエイルと大富豪の陰謀』のテーマ曲に選ばれているほか、同曲のリリース記念として、次世代を担う10代の女性アスリートを応援するプロジェクト(その名も「女の子は、強い。」)も施行されており、その名の通り女子としての強さ・女子である喜びに寄り添った作品になっている。
ここでさらに『Girls』について言及する前に、同曲が「いま」リリースされることのヤバさを証明するため、今作に至るまでの彼女の作品群――とりわけ昨年リリースされたアルバム『Just LOVE』で彼女が歌い表したことについて触れておきたい。

初期の西野カナの楽曲といえば、“会いたくて 会いたくて”や“さよなら”、“Where are you?”、“WRONG”などに示されているように、決別した恋人に執着したり、逆に忘れようと強がってみせたりする楽曲がシングル曲・アルバム曲問わず立ち並んでいる印象を受ける。そしてこの時期に彼女の知名度は急上昇したことから、これらの楽曲のイメージ=彼女のイメージという方程式が未だ成り立っているリスナーも少なくはないはずだ。

しかし昨年、その悲哀の色を思いっきり断ち切り、彼女に秘められたポジティブ性が一気に開花したアルバムが誕生した。それが、『Just LOVE』である。
このアルバムは、恋や仕事や日常のささやかな幸せだけではなく、失恋や意のままにならない人生の出来事さえも、愛らしいメロディや健気な言葉でキャンディの包装紙のように包み込み、リスナーの暮らしを彩るポップスとして昇華したような作品である。たとえば彼氏と別れた直後を描いているのに、アコースティックギターの軽快なリズムに合わせ《サヨナラ 今日からひとり/サヨナラ 晴れて自由の身》と歌う“Thank you very much”という楽曲があったり、過去の恋を引きずる唯一初期らしい失恋ソング“Set me free”からの、陽気なサウンドに乗せ《最後に笑えば/Life Is Good Life Is So Good》と歌う“Life Is Good”と続く流れが見られたりするのだ。かつて《会いたくて 会いたくて 震える》と救いようのない恋愛物語を切々と歌い上げていたことが逆に信じられなくなってくるくらい、昨今の彼女は楽観に振り切れ、女性ならではの逞しさを発揮している。

前置きがかなり長くなってしまったが、以上を踏まえて新シングル『Girls』に改めて目を向けてみる。“会いたくて 会いたくて”や“Best Friend”にも携わった作曲家・GIORGIO CANCEMIが手掛けるサウンドは、まずBPM85程度のビートが一歩一歩着実に地面を踏みしめていく足音のように重く打ち込まれているのが印象的だ。そこに乗る西野のボーカルは、ミディアムテンポだからこそ自前のしなやかさと溌剌さがいつも以上に引き立てられ、Aメロから有り余るエネルギーを匂わせる。そしてその歌声はサビで一気に花開くブラスやストリングスの煌びやかな音像と重なり、とんでもないボリュームのバイタリティを開放していく。聴き手の胸を大いに揺さぶる、壮大なアンサンブルがここでは繰り広げられているのだ。

そして西野のリリック。個人的に最もグッときたのは、《悲しいことは忘れるの/甘い甘い夢を見て/それでもやる時はやるの/それが私たちでしょ》という箇所だ。《それが私たちでしょ》――なんともハッとさせられるフレーズである。ステージ上やテレビ画面の向こう側やイヤホンの奥で歌っている西野カナも、自分と同じ時代を生き、同じ地面の上で、同じ女性として生活を送っている。シンガーとして活躍する彼女しか知らないからこそ、聴き手としてはそんな当然の事実すら見落としてしまいがちだが、それを西野は自ら拾い上げて提示し、リスナーとともにこの世界で闘っていく姿勢を見せているわけだ。そこにたまらなく胸が打たれたし、『Just LOVE』よりもさらに女子という生き物の核心に踏み込んだ、目ざましいポップスが結実したと確信した。

そしてもう一つ言及しなければならないのが、西野が髪を30cm以上カットした新ビジュアルになったこと。彼女が従来のゆるふわロングヘアから卒業し「切りっぱなしボブ」になったのは、このパワフルな歌詞をより高い説得力をもって歌うためなのだろうが、それだけではないような気もしてくる。
「女性が髪を切るのは失恋したとき」というセオリーがあるように、西野カナは髪をバッサリ切ることで、恋に破れた後に現れるような女性のタフさ――自分をフッた相手を見返そうと/振り向かせようとして、何かしらの努力をし出すような、悲しみをバネにできる屈強さ――を歌いたいという意思を表しているのではないだろうか。つまり、「これからは思い通りにならない恋愛を嘆く女性像を歌うのではなく、逆境を逆手にとって自らの血肉に変えられる女子たちの強かさを歌い上げていく」という宣誓を、今、はっきりと自身のビジュアルで示したのではないかと思うのである。それが本当かどうかは定かでないが、どちらにしろこれだけは声を大にして言わせていただきたい――最新シングル『Girls』は間違いなく、西野カナのモードが大きく転換する主点になる、と。

カップリング曲2曲を含め、シングル『Girls』は現在先行配信中である。CDとしてのリリースは7月26日(水)となるが、どういう形態であれこの作品は本当に心して聴いてほしい。これまでのモードに別れを告げ、健気さと歌を歌うことへの新たな意義を得た姿――すなわち同作のジャケット写真のように凛と立つ、彼女の姿が自然と目に浮かんでくるはずだから。
(笠原瑛里)