ビートたけし、初の恋愛小説『アナログ』に宿るピュアな少年性の正体とは?

ビートたけしにとって初となる恋愛小説『アナログ』。9月22日に発売されたこの作品、読み終えた後、頭の中ではすぐにエンドロールに入って、不思議な静けさを持つピアノの音がポロン、ポロンと鳴った。

これはきっと映画化を踏まえて書かれているし、北野武監督の頭にはすべての画がもう出来上がっているのだろう、読んでいてそう思わずにはいられなかった。北野映画で、近年の作品にはそこまで顕著に表れていなかった「キタノブルー」と呼ばれるあのひんやりした感じが、所々に感じられるのだ。

この物語は、ある日喫茶店で出会った悟とみゆきが、デジタル化していく世界の中で、素性も連絡先も聞かないまま、アナログな関係を始めるといったストーリー。悟はこの本のタイトルのとおり、少し古風なところがある。本の語り口は全て悟目線で書かれているのだが、例えば「パソコン」を「コンピュータ」と言っていたり、仕事もパソコンを使わずアナログな手法をとっていたり、何かと例えが少し古かったり。でもそれがこの『アナログ』というストーリーならではの味を出していて、舞台は現代のはずなのにその世界観はセピア色っぽく、懐かしいような気持ちになる。そして結局のところハッピーエンドなのか、そうではないのか、複雑なところで終わるのだが、読後はどこかほのかな多幸感が漂う作品だった。

この作品の発売日に、ニコニコ生放送でビートたけしと又吉直樹の特別対談が放送されたのだが、この中でビートたけしは自身の恋愛観について「男女は会った瞬間が最高で、あとは妥協でしかない」と語っていた。出会って「好きだ」と感じたその時から、互いを知らないまでが恋愛の最高潮の時期で、あとは知っていくにつれて最初のときめきは次第に薄れていく。これには妙に納得するところがあって、『アナログ』に登場するみゆきの素性はなかなか明かされず、自分からもあまり話さない。そして北野武の映画『HANA-BI』や『アキレスと亀』に登場する主人公の妻役の女性も、共通してあまりべらべらと喋らない。あまり喋らないからこそどこか神聖で、男性に寄り添う優しい母性を放ちながら、作品の最後まで魅力的なまま映えているのである。

ちなみに、このニコニコ生放送でも明かされていたが、今までの作品はビートたけしが口述したものをライターが文字に起こす方法をとっていたが、今回は完全に「手書き」で書かれている。それもパソコンを使わずにノート4冊にまとめたとのことで、まさにアナログな方法で執筆されたという。

ビートたけし・北野武は数多くの書籍を発売しているが、エッセイが多く、小説となると数は限られる。『たけしくん、ハイ!』や『菊次郎とさき』といった自伝的な内容が多く、処女小説『あのひと』に至っては、たけし軍団のラッシャー板前の自伝ともいえる。その中でも3篇のショートストーリーが収載されている『少年』は、そういった要素は薄く、ビートたけしの中の「少年性」が3人の少年の人格を生んだ作品だ。これらの作品や今回の『アナログ』含め、ビートたけしの紡ぐ物語はどこまでもピュアである。本当の意味でのプラトニック、涙が出るほどの純粋さ。それはやはり、ビートたけしが放つ「少年性」に繋がるものなのだろう。

最後に、2002年に発売されたビートたけしの詩集『僕は馬鹿になった。』より、特別に好きな一遍を紹介したい。


このシャツ何回も変えてみたと、彼女に言おう
センスいいって言ってくれるかな
プレゼント何軒も探したって言おう
ご苦労さんって言ってくれるかな
レストラン皆に聞いたって言おう
美味しいって言ってくれるかな
いつまでたっても俺は
彼女に母親を求めている



語り口は確かにビートたけしだが、彼女にほめられたいと思っているのは、母親からまだ精神的に離れる前のたけし少年の姿だ。『アナログ』は、そんな男女の関係におけるピュアネスと、アナログな世界観と、北野映画の匂いがする作品だからこそ、懐古的な感動と共に心にすっと入り込んでくる。(渡邉満理奈)

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