ライブハウス=ZeppのPAシステムをフル活用して大音響で映像作品を体感する「ライヴ絶響上映」シリーズに、デヴィッド・ギルモアの最新ライブ作品『ライヴ・アット・ポンペイ』が登場!
ヴェスヴィオ火山の噴火によって18世紀の発掘まで埋もれていた古代ローマ時代の遺跡:ポンペイ円形闘技場。その昔グラディエーターが死闘を繰り広げたその場所で、ピンク・フロイド時代以来実に45年ぶりにギルモアが演奏――しかも映画撮影のための無観客ライブだった前回とは異なり、この闘技場に史上初めて観客を迎え入れてのライブとなった2016年7月のギルモアのステージを映像作品化したのが、今回リリースされる『ライヴ・アット・ポンペイ』。
フロイド人気の根強い日本で、9月25日一夜限りの東阪上映(9月29日に名古屋・札幌・福岡での上映も追加決定)、しかも東京会場:Zepp DiverCityには音楽評論家・伊藤政則氏がトークゲストとして登壇!ということで、言うまでもなくソールドアウトとなった会場は、上映前から静かな熱気と一種異様な圧の期待感に満ちていた。
そしてギルモアの研ぎ澄まされたギターサウンドとアンサンブルが、歳を重ねて深みを増した歌声が、あたかも目の前で生演奏が展開されているかのような艶かしい大音量で広がっていく――。
ブルースギターをこれだけ美しく、哀しく、しかも壮大な波動そのものの如きスケール感をもって響かせることのできるギタリストは、デヴィッド・ギルモアをおいて他にない――ということが、“ラトル・ザット・ロック~自由への飛翔~”などソロ曲はもちろんのこと、“What Do You Want From Me”、“Shine On You Crazy Diamond”、“Run Like Hell”などピンク・フロイドの楽曲も交えながら(というか、大部分をピンク・フロイドの楽曲で構成したセットリスト越しに)揺るぎなく提示され証明されていくような、至福の音楽体験だった。
上映前、伊藤政則氏はこのライブを指して「日本で言う御神楽とか能の舞だとか、神々への奉納の儀式のようだ」と話していたが、“あなたがここにいてほしい”に巻き起こったオーディエンス2600人の観客のシンガロングや、ラストの“Comfortably Numb”で凄絶なまでに放射されるレーザー光線をも貫いて響くギルモアのギターサウンドはまさしく、「個」のエゴを極限まで漂白した祈りのような、神秘的なまでの高揚感に満ちている。
実はこの絶響上映に先駆けて、9月30日発売『ロッキング・オン』誌の記事作成のために映像を見せていただいていたし、最高のプレイの内容もひとしきり堪能していたのだが、夜空にむせび泣くギターソロが、アコギのストロークが、タムの1ショットが、ライブハウスの音響越しに頭も体も震わせる環境の中で体験する『ライヴ・アット・ポンペイ』のダイナミズムは、まったく異次元の感動を与えてくれるものだった。
伊藤氏はさらにこうも語っていた。
「9月11日、同時多発テロから16年目に、NYでロジャー・ウォーターズを観てきたんですけども。ギルモアのポンペイのライブとは対極のライブで……非常にとんがった主張が次々に、ステージ上から我々の胸に突き刺さってくるようなライブでした」
「興味深いのは――2015年にロイヤル・アルバート・ホールでギルモアを3夜連続で観させていただいたんですけども。ロジャーにしてもギルモアにしても、最後は“Comfortably Numb”で終わるんですけども、全然表現してる中身が違うなあと」
この時代に生きる個人としての思想の高ぶりを音楽に託して発信するウォーターズ。対して、楽曲と歌とプレイを職人的に磨き抜くことによって、人知すら越えた音楽の訴求力へと日々近づきつつあるギルモア。
真逆の道を歩んでいるようにも思えるふたりだが、今年初頭から「US+THEM」と題して『狂気』メインの北米ツアーを回っているウォーターズと同様に、最新アルバム『永遠/TOWA』を最後にバンドの活動終了を宣言したはずのギルモアもまたピンク・フロイドという磁場の中にいることを、この映像は確かに物語っている。
ソロ公演で披露するのは極めてレアな“虚空のスキャット”。45年前のライブでも披露されていた“吹けよ風、呼べよ嵐”……といった歴史的名演の記録としても、純粋に珠玉のロックアクトの映像としても必見の『ライヴ・アット・ポンペイ』。2CD・2DVD・BD・4LP(輸入盤のみ)・デジタル配信のほか、5000セット完全生産限定盤(2CD+2BD仕様)の各フォーマットで10月11日にリリースされるのでぜひ。
David Gilmour - One Of These Days/吹けよ風、呼べよ嵐
また、今回の限定上映の後、東京・立川シネマシティでは10/7~10/12の6日間、5.1サラウンドシステムを駆使した極上音響上映が実施されるそうなので、興味のある方はそちらもぜひ。僕も観たい。(高橋智樹)