エミネム、リック・ルービンと共に“Walk on Water”を語る。2パックを研究し尽くし辿り着いた境地とは


約2年ぶりとなるシングル“Walk on Water”をリリースしたばかりのエミネムがポッドキャスト番組に出演し、プロデューサーのリック・ルービンと共に同楽曲の成り立ちを明らかにしている。

同ポッドキャスト番組「Broken Record」はリック・ルービンがジャーナリストのマルコム・グラッドウェルと共に新たに開始したもので、エミネムはその第一回目の放送回に出演した。



“Walk on Water”は近いうちにリリースされると噂されている4年ぶりのニュー・アルバムのリード・シングルとされているが、リックは番組内で同楽曲でのエミネムとのコラボレーションの様子を語った他、エミネムは歌詞の中でも述べている「周囲からの期待」について触れつつ自身の音楽論を語っている。

“Walk on Water”はかつて一世を風靡したエミネムに対する周囲の期待の高さ、その一方で評価がかつてほど追いついてこない現実など、自身が抱えるアーティストとしての軋轢などを具体的な言葉を交えつつ歌詞化したものになっているが、その心境についてエミネムは次のように説明する。

つまり、こういうことなんだよ。自分のキャリアに初めて乗り出し始める時、手元にあるのは真っ白なキャンバスなんだ。どこになにを描いてもいいんだよ、まだなにも描いてないんだからね。それから2ndアルバムを出して、少しずつ少しずつ絵を描き足していくわだけど、7、8枚アルバムを出したくらいになると、もうキャンバスには絵を描きまくった状態になってて(笑)、ほかに描くところなんてなくなってるんだよ。

そこからどこへ行けばいいんだっていう話で、しかも、みんながいつもなにか違ったものを自分に期待してる。これこれこういうことをライムにしてほしい、ああいうことをライムにしてほしい、ただライムに集中してほしい、ライムばっかりやってるのはやめてほしい、くそラップばっかりやってやがる、自己憐憫ラップをやりすぎだからやめろ、やたらと言葉数だけ増やして空っぽなこと言ってんじゃねーぞとか、色々言われるうちに、なんかさもう、自分がこれまでやってない、新しく行ける領域なんて限られてくるんだよ。俺はそんな気分なんだよ。いつもね。


Eminem - Walk On Water (Audio) ft. Beyoncé

“Walk on Water”のトラックそのものは、エミネムの最大のヒット曲のひとつである“Love the Way You Lie”を書いたスカイラー・グレイによるフックをベースにしたものだという。リックによると、同楽曲はスカイラーとのコラボレーションを意図的に再現したという類のものではなく、たまたまエミネムがこの音源を耳にして実現したものなのだとか。

(スカイラーの書いた)音源を特にエミネムに聴かせたくて流したわけじゃなかったんだよ。たまたまぼくがこの音源を聴いている時にエミネムがスタジオのコントロール・ルームに入ってきたっていう話なんだ。

それで、「これはなに? 」って聞いてきたんだよ。それで「スカイラーが書いたフックだよ」って説明すると、エミネムはそこに座って「ふーん」って聴き始めたんだ。




この後でエミネムは、いわゆるマンブル・ラップと呼ばれる、発語があまりはっきりしない最近のラップ・スタイルへの違和感についてひとしきりリックにぶちまけている。しかしリックはその違和感がこの曲を駆り立てる勢いにもなったのだと次のように振り返っている。

エミネムにとってはある意味でカルチャー・ショックでもあったわけで、それは彼とはまったく違う新しいヒップホップのやり方が勃興してたからなんだ。

そのことをエミネムはぼくに話してくれたんだよ。そのことですごくフラストレーションを溜めているのがよくわかったよ。


また、エミネムはサウンドやトラックのきわめて細部にまでこだわってリリックを書くのだという。リックは以下のように話している。

エミネムにはほとんど狂信的なこだわりがあって、ディテールへのこだわりがほかの誰にも見たことのないレベルのものなんだ。音についてはあらゆる細部についてまで完璧な記憶力を誇っていて、その音に飛び込んで、そのトラックの強味や弱味に応じてライムを書いていくんだよ。

というのも、エミネムは自分の言葉が常にビートに対してある特定の撥ね方をするようにいつも工夫してるからね。


2Pac - Dear Mama

エミネム自身によると、こうしたアプローチは2パックを見習ってのものなのだという。

俺はずっとヒップホップから学んできただけの輩だし、ラップについてはずっと研究を続けてきてる。そういう意味で2パックについて思うのは、どうしていつもいつもあるコードに対してあんなドンピシャな言葉を持ってこられるんだろうってことなんだ。

たとえば、2パックは「My broken down TV show cartoons in my living room (俺の壊れたテレビがリビングでアニメを流してる)」ってくだりを“Unconditional Love”っていう曲で披露してるんだけど、「すげえ、これをもうちょっと前に、1小節前に繰り出してたらこんなに響かなかったぜ」って驚いたんだよね。

だけど、あえてここにこのリリックを持ってくるっていうね、ちょうどコードの響きが悲しく鳴り始めたとこに持ってきてるわけだよ。俺は2パックを研究し過ぎて、こういうことができるってことがどんなに天才的なことなのかがわかった。

2パックの場合には実際、コードを外したライムを繰り出したことがまるでない。“Dear Mama”がまさにそういうもんだよね。すべての要素が、すべての思いが、すべての言葉が、小節ごとにすべてが一番最良の形で収まってるんだ。

それはビートについて理解し過ぎてるくらい理解してたから可能だったわけで、2パックはだからこそいつも「自分の表現を“感じて”ほしい」と言ってたんだ。それはつまり、ただ聴いてるんじゃダメだってこと。感じようとしないとわからないんだよ。


そして最後に、“Walk on Water”のテーマについて次のように語る。

これは限界について歌った曲なんだ。限界があるということを認め、スーパーマンにはなれないというもので、毎回毎回自分にとっての最高傑作が書けないとしたらどうすればいいんだっていうね。