エレカシ『紅白』初出場! “今宵の月のように”が改めて物語る、宮本浩次の「解放」への道程

エレカシ『紅白』初出場! “今宵の月のように”が改めて物語る、宮本浩次の「解放」への道程
エレファントカシマシ、デビュー30周年にして『紅白』初出場。宮本浩次がひと言ひと言大切に歌い上げた“今宵の月のように”――シングル発売から20年、この国民的音楽番組の舞台で鳴り渡る瞬間までもがひとつの必然であったかのように、その熱唱は強く優しく響いた。2017年ロック史を語る上でも欠かすことのできない、最高の名場面だった。

番組の開幕を飾ったHey! Say! JUMPLittle Glee Monsterをはじめ、SHISHAMO竹原ピストル/丘みどり/TWICE三浦大知WANIMAトータス松本といった初出場の出演者の存在感も光っていた『第68回NHK紅白歌合戦』。
そして――番組も終盤に差し掛かった頃、初出場勢10組の中では最後のアクトとして登場したエレカシ。「曲が決まった時、『この曲なんだ!』ってのが嬉しくてさ」とエレカシと同世代の総合司会:内村光良が感激を語っていた言葉は、時代を超えたリアルさと普遍性を備えた“今宵の月のように”の魅力を何より明快に象徴していたと思う。

「エブリバディ!」と呼びかけながら凛とした歌を響かせていた宮本の姿は、「苦闘の歴史を経て、デビュー30周年の今ついにこの大舞台へ」といったバンド内のストーリー性よりも、バンド自身だけでなく日本中の誰もが認める珠玉の名曲を、できる限り高らかに伸びやかに鳴り渡らせようとする音楽家としての闘争心を強く感じさせるものだった。
強いて言えば、「自分がまっすぐ音楽に/楽曲に向かうことが、エレカシを何よりの王道へと導く」というモードに到達し得たことが、デビュー以降30年間の最大の「成果」なのかもしれない。

エレファントカシマシにとって、というか宮本浩次にとっての最大の命題は「自分自身をポップに解放する」ことだった――という内容は、『風に吹かれて』、『俺たちの明日』といった単行本に収録された宮本のインタビューでも幾度も語られてきた。
時に打ち込みを多用してエクストリームなミクスチャーサウンドを構築したり、若い世代のアレンジャーとタッグを組んだり……といった音楽的変遷を経てきたのも、すべてはその「自分自身をいかに解放するか」という葛藤と思索の果てに編み出された方法論だった。
しかし。今回の『紅白』での宮本の歌は、どこまでも真摯かつ切実でありながら、どこまでも開放的だった。一心不乱にロックを研ぎ澄ませてきた道程と、日本全国に訴求するポップの包容力とが今、微塵も矛盾することなく存在していることが、その演奏からも確かに伝わってきて、胸が熱くなった。

演奏の前、白組司会の嵐・二宮和也に「30年間第一線で走り続けてきた原動力は?」と問われた宮本が「『好きこそものの上手なれ』じゃないですけど、歌が好きなんですよね」とこれ以上ないくらい核心的な言葉を返していたのも印象的だった。
3月には二度目のさいたまスーパーアリーナ公演も控えているエレカシ。2018年のさらなる前進を確かに予感させる、至上のひとときだった。(高橋智樹)
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