【トランプ政権誕生1年】アメリカの憂うべき「今」が生んだアルバム9選(後編)

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ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任してはや1年。この1年間にリリースされた作品を振り返ってみると、やはりどこか政治的、社会的なメッセージが込められた作品が多かった印象が強い。

しかし、そうした作品が「トランプという現象」に触発されて制作されたものだったのかというと、必ずしもそうとは言い難い。明らかにトランプ政権の誕生に影響を受け創作へ向かったというケースももちろんあるものの、むしろ、ずっと温めてきたメッセージ性の強い作品が「トランプというきっかけ」によってそのメッセージ性をさらに強くさせていったというケースが多かったように思う。

本記事では、昨年1月20日のトランプ政権誕生以降にリリースされたアルバムの中から、トランプ大統領からの影響を特に色濃く反映している9枚の作品を解説。昨日掲載の前編に続く今回の後編では、フー・ファイターズの『コンクリート・アンド・ゴールド』からエミネムの『リバイバル』までの4枚を紹介していく。

フー・ファイターズ『コンクリート・アンド・ゴールド』9月15日リリース



音楽的にはハード・ロックとポップ・ミュージックとしての試みを融合させるという明確な方向性を持ちつつも、トランプ大統領の誕生が生み出した心情を歌詞的に紐解くことにもなったのが、9月にリリースされたフー・ファイターズの『コンクリート・アンド・ゴールド』だ。

デイヴ・グロールは、『ソニック・ハイウェイズ』のツアーで負った骨折の治療に専念するためしばらく活動から遠ざかっていた期間にトランプ政権誕生に直面。アメリカの行く末を案じたため、休養期間を切り上げて楽曲制作に取り掛かったことを明かしている。

ハードでエッジーなサウンドとポップなアレンジを大胆に組み合わせていく中で、トランプ大統領を生み出した社会状況への絶望感、それを許してしまった自分たちへの自戒、そして将来への不安をごくごく庶民的な皮膚感覚で訴えていくという、あまりにもデイヴらしいメッセージ・アルバムになっている。

U2『ソングス・オブ・エクスペリエンス』12月1日リリース



2014年の『ソングス・オブ・イノセンス』の続編として制作され、12月にリリースされたU2の『ソングス・オブ・エクスペリエンス』。

もともと本作には『イノセンス~』から持ち越したものを収録すると言われていたものの、2014年にボノが自転車事故で重傷を負った際、その治療期間の間にさらなる新曲群を書き進め、結局は収録曲のほとんどが治療期間に書かれた新曲となったのだという。

そのためいずれもトランプに直接影響を受けた楽曲であるとは言えないものの、アルバムを仕上げていた2016年にはイギリスのEU離脱やドナルド・トランプの選挙戦での勢いを目にし、歌詞のアレンジに手を入れる必要を感じたことからリリースを翌年の12月まで伸ばすこととなった。

そうした意味では間違いなくトランプ大統領の時代を見据えた作品ではあるのだが、特にトランプを題材にした楽曲があるわけでもない。バンドが語ってきたように、『イノセンス~』がバンドの初期衝動や駆け出しだった頃の思いや情熱に立ち戻る作品になっていたのに対し、『~エクスペリエンス』はバンドがその経験を通じて今伝えたいことが反映されている。それはシリア難民のことや、バンドとアメリカとの関わり、そして、ボノにとっての愛とはなんたるかというテーマなどがさまざまな形で綴られる内容になっている。

しかし何よりも重要なのはオープナーの“Love Is All We Have Left”で歌われている、とどのつまり人間素っ裸にしたら愛しか残らないし、その愛をどうするのかがその人の価値を決める、というメッセージだ。バンドがトランプ政権誕生に際してこだわりたかったのは、そうしたメッセージがどれだけ明快に伝わるかどうかということ、そしてそのメッセージを特に強調したいという強い想いだったのだ。

N.E.R.D『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』12月15日リリース



ある意味でトランプ大統領の影響が最も色濃く影響として出た作品のひとつが、12月にリリースされたN.E.R.Dの7年ぶりの新作『ノー_ワン・エヴァー・リアリー・ダイズ』だ。というのも、N.E.R.Dとしても、あるいはファレル・ウィリアムスとしても、これまではメッセージ性というものから意識的に距離を置いてきたからだ。今回改めてメッセージ性に満ちた作品を作ってきたのは、トランプ大統領が誕生した時代にどういう作品を作りたいのかということを明らかに見つめ直したからだろう。

それを明確に打ち出してきたのが、リアーナのラップが話題となったリード・シングル“Lemon”だ。ファレルの「嫌いだ」というフレーズが積み重なるコーラスの締めが「こいつについては俺もみんなにずっと言ってきたのに」という、明らかにトランプ大統領に向けた一言となっており、これがメッセージに満ちた本作の狼煙となっているのだ。

続く“Deep Down Body Thurst”でも、ファレルはそうとは特定させずに「俺の人種を敵に回してこれで済むと思ってるのか」「逃げおおせられると思ってるなよ/その足の速い車でな」と、トランプ大統領を思わせる人物への敵意を露わにしてみせている。

しかし最も重要なメッセージは“Don’t Don’t Do It!”に込められている。警察官による黒人市民の殺害をどこまでも婉曲的に、しかし、つぶさに描き切っているうえに、N.E.R.DならではのどこまでもソリッドでポップなR&Bとして仕上がっているところにファレルの意図が込められているといえる。

つまり、本当に聴きやすいこの曲を繰り返し聴いて、この歌詞の真意をきちんと読み取ってほしいということなのだ。どの曲においてもファレルのメッセージは婉曲的な比喩になっているが、これまでの歌詞と地続きなようでいて、実は今のアメリカを黒人として生きることの意味を問うメッセージが込められている。

ファレルにとっては新しい表現の次元に入ったことを見せつける内容になっているし、バンド名「N.E.R.D」で略されている内容を改めて今回のアルバムのタイトルにしているのも、その内容を読み解いてほしいというメッセージなのだ。

エミネム『リバイバル』12月15日リリース



12月に4年ぶりの新作としてリリースされたエミネムの『リバイバル』。ある意味で、これもまたトランプ大統領の誕生に影響された作品の極みのひとつといってもいいかもしれない。

とはいえ、この作品もまた数年がかりで制作されているものであるため、トランプの大統領選をきっかけに作ったともいい難い。しかし、エミネムはある時期からトランプ大統領を確実に自身の創作のインスピレーションにしてきたはずだし、ひょっとしたらエミネム自身にとっても、それは画期的なことだったかもしれないのだ。

そもそも本作のリリースが近づいているのかもと思わせたのが、10月に「BET Hip-Hop Awards 2017」授賞式で紹介された映像で、エミネムがトランプ批判のフリースタイルを披露したことだ。さらにこのフリースタイルでは、自分のファン層ともなっているアメリカ中西部の白人低所得者層にトランプ支持者が多いことについても触れ、トランプか俺のどっちかを選べと迫り、その過激な内容が話題となった。

本作全体としては“Like Home”のようなあからさまトランプ批判以外にも、家族の問題やラッパーとしての自分の現状など、さまざまなテーマを取り上げるものとなっている。しかし、なによりも重要なのはエミネムが瞬間的に怒りの極点にまでテンションを上げていく歌詞やパフォーマンス、あるいはかなり際どいブラック・ユーモアをひけらかすという、2005年以前までのエミネムのダイナミックな魅力を取り戻していることだ。その最たるものが、エミネム自身が黒人市民を射殺する白人警官になりきってみせる“Untouchable”だ。

エミネムはもともと、自身の家族や前妻キムなど、プライべートの人間関係がうまく築けないことを自身の表現の怒りの源泉としていた。しかし2005年以降は、家族を題材にしたとしても、家族に対する怒りを向けることはやめるという、根本的な創作方法の変更を行っている。そのせいか、その後の作品ではどこかかつての瞬発力や爆発力が失われている印象が強かったが、それらがすっかり蘇っているところが今回の新作の最も魅力的なところなのだ。

では、そのきっかけはなんだったのか。それこそトランプ大統領の登場だったと言えなくもない。少なくとも、日課にしていたはずのニュース番組鑑賞をあまりに腹立たしくてまともな気分でいられなくなるからやめてしまった、と発言しているくらいだから、エミネムにとってはトランプ大統領への怒りがいい材料になったのかもしれない。 (高見展)



『ダム』(ケンドリック・ラマー)、『ヒューマンズ』(ゴリラズ)、『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』(ロジャー・ウォーターズ)、『アメリカン・ドリーム』(LCDサウンドシステム)、『プロフェッツ・オブ・レイジ』の5枚を解説した前編は以下より。

【トランプ政権誕生1年】アメリカの憂うべき「今」が生んだアルバム9選(前編)
ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任してはや1年。この1年間にリリースされた作品を振り返ってみると、やはりどこか政治的、社会的なメッセージが込められた作品が多かった印象が強い。 しかし、そうした作品が「トランプという現象」に触発されて制作されたものだったのかというと必ずしもそうとは言…
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