【大検証】星野源“アイデア”MVに詰め込まれた「アイデア」をひもとく

【大検証】星野源“アイデア”MVに詰め込まれた「アイデア」をひもとく
語りたいかと問われればいくらでも語りたいMVなのに、同時に安易な解釈はしたくないと思う自分もいたり、でも、どんな解釈でもいいよと言ってくれているMVでもあると思うし──という気持ちで日々このMVを何度も観ている。これまで観たことのない、素晴らしい「アイデア」が詰めこめるだけ詰め込まれた、超弩級の作品であることは間違いない。そもそも、フルサイズでの配信シングルで“アイデア”を初めて聴いた時からそうだった。あまりにも、朝ドラの主題歌としての“アイデア”とは、受け取るものの重みが違ったから。そのフルサイズ版についてのレビューは、8月30日発売の『ROCKIN’ON JAPAN』10月号に(短いですが)書かせてもらったので、今回は、主にこのMVについて、今現在で言葉にできることを綴っておきたいと思う。


光と影、表と裏、陽と陰、動と静──。このMVで表現されていることとして、そうした二面性、そのコントラストは確かに色濃い。そして、その陰の部分さえも作品として昇華するということは、本当はすごくエネルギーを使うことだと思うし、そうしようと思えるまでには、かなり時間が必要だったと思うのだ。そういう意味で、フルサイズの楽曲制作に入ってから、図らずも約2ヶ月のブランクを余儀なくされたことは、星野自身も公式に語っていたことではあるけれど、結果的に本当によかったのだと思う。だからこそ、この過去も現在も未来も、希望も絶望も、充実感も後悔も、すべてが詰め込まれた、一大レビューのような、一編の映画のような、何年もかけて撮影したドキュメンタリーフィルムのような、一言ではとても形容できないとてつもないMVを作りたいと思えるまでになったのだから。

『YELLOW DANCER』のジャケを思い起こさせるレッド、“恋”を想起させるイエロー、“Family Song”をイメージさせるピンク、“ドラえもん”カラーのスカイブルー、背景の色だけで、星野源の一連の作品をイメージさせながら、盟友とも言えるバンドメンバーたちとの軽やかな演奏シーンを見せる1コーラス目。このバンドアンサンブルがあってこその、ポジティブで楽しい楽曲制作や充実したライブ活動があったことなどを、リスナーも駆け足で振り返るパートだ。そこからスタジオは暗転しながらセグウェイに乗った星野が、真夜中の暗い部屋へ。

2コーラス目、バンドサウンドから一変し、STUTSによるMPCのビートをバックに、ひとり自分と向き合いながら歌う「陰」のパートへ。《おはよう 真夜中/虚しさとのダンスフロアだ/笑顔の裏側の景色》と歌う、これまで星野があまり表に出さなかった孤独が描かれる。そこから抜け出していこうとするサビでは、紅白のストライプの背景へと移動。これが何を意味するものかはまだわからない。『紅白歌合戦』のことを表しているという人もいるけれど、私が直感的にイメージしたのはアメリカ国旗のポップなストライプだった。その前で総勢16人のダンサーが踊る。そのダンサーの衣装は喪服のようでありながら、そのダンス(振り付けは三浦大知!)と男性の衣装は、どことなくマイケル・ジャクソンを思い浮かべずにはいられない(“ビリー・ジーン”とか“スムーズ・クリミナル”とか)。星野が“SUN”で、《君の歌を聴かせて/深い闇でも 月の上も/すべては思い通り》と、(おそらくは)今は亡きマイケルのことを歌詞にしたことと、ここからのパートは地続きにあるのではないか。だからこそ、夜明けが近いことを思い起こさせる。

他の誰でもない、三浦大知による振り付けだからこそ、このパートは完成したのだと思っている。星野も三浦もともにリスペクトする偉大なる先人の、その鼓動を感じていて、そのビートは、その歌は、今も闇を照らしてくれている──その思いを歌とダンスで表したのではないかと。そして喪服様の衣装は、先人への思いというよりも、むしろ、絶望的な思いを抱えていた自分へのサヨナラなのではないかと。

《闇の中から歌が聞こえた》という歌い出しで始まる、孤独な真夜中から、また誰かに会いたくなる朝へと進んでいくブリッジ部分での弾き語り。ここはオリジナル音源とは違って、ここで撮影・録音した歌とアコギの音をMVに挿入している。ギターをつかんで移動する時間も編集なしで、そう、演奏する前に椅子を引く音もそのままに、リアルな歌が収録されている。この弾き語りこそが、すべて彼の原点であること、いつでもここに戻って来れることを表しているように思える。だからMVの中では、より独立したパートのように切り取られていて、星野はこれがMVであることを忘れたかのように、素の真剣な表情で弾き語る。

最後は、ここからまた何かが始まることを思わせる、白い壁を背景にしたバンドサウンドへ。止まっていたダンサーたちも再び動き出す。星野もマリンバを叩く。そして、すべてのセットを駆け足で振り返った後は、深い闇も強烈な光もすべてを肯定するような、力強いドラの音。
表も裏も、光も影も、すべてが愛おしいと思えるほど人間はいつも強いわけじゃない。でも、闇があるから朝の光を尊いと思えるし、日々はその波の大小こそあれど、その繰り返しだ。そう、繰り返し。アイデアは本当にいろいろなところにある。過去も現在も、未来へのアイデアの塊なのだと、この曲は、そしてこのMVは伝えてくれているような気がする。眠れない真夜中を超えても《おはよう 世の中》と言えるくらいの強さ──それがあればいいなと思う。

謎解きのような原稿を書くつもりはなかった。そこかしこに「アイデア」が織り込まれたMVは、毎日観るたびに自分の解釈も変わる、揺らぐ。なので、できればまた1年後くらいに、「実はこういうことだったのでは?」という原稿を書きたいくらいである。(杉浦美恵)

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