誤解されないように補足説明しておくと、め組はもともと最高にエモいポップバンドだった。冴えない毎日に嘆き、過ぎ去った恋の後悔に思いを巡らし、半ば逆ギレ気味にズレた自分自身を肯定するための音楽を鳴らし歌うことで、リスナーと《「あなたとなら人生だめにしたい」》(“マイ・パルプフィクション”)というロマンチックな契約を結んでしまうバンドだった。
しかし一方で、憂鬱を歓喜へと塗り替えるめ組の膨大なエネルギーは、例えば菅原達也(Vo・G)の奇妙奇天烈な言葉選びやメロディに、或いは出嶋早紀(Key)や富山京樹(G)のバカテクに裏付けられた自由奔放なプレイに宿り、無邪気な音の怪物と化して暴れ回っていた。それはめ組の大切な魅力のひとつでもあったが、得体の知れない怪物性ゆえに、少しとっつきにくい部分もあったかもしれない。
現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』2018年11月号のインタビュー記事の中で、菅原はそんなめ組の怪物ぶりを「鵺(ぬえ)のようなバンド」と呼んだ。新作『Amenity Wear』で彼らが試みているのは、言うなれば鵺の手綱を引きしぼり、怪物的なサウンドをしっかりとコントロールし、作品全編を洗練されたセルフプロデュースで纏め上げることであった。より広く、深く、思いを伝えるための「マジなめ組」なのである。
《デタラメだらけの話がしたい》という一行に始まり、《あなたの心の真ん中 盗みにきたぜ》という必殺のコーラスが転がり出すリード曲“Amenity”。あまりにもストレートでマジな菅原節が弾ける、め組の最新スタンダードである。また、本作のめ組は自分たちの世代感覚とまっすぐに向き合い、ただポジティブでハッピーなだけではない、シリアスな問題提起を投げかけてくる。インタビュー記事では公開できなかった“5.4.3.2.1”という楽曲のこぼれ話として、菅原はこんなことを話していた。
「20代後半にまつわる話を、出嶋とよくするんですよ。同い年なんで。この前も、“5.4.3.2.1”の《「結婚ってどう思う?」/幸せをおさらいしてばかり/「Don’t stop!」叫ぶ20代後半/ヤケクソになったら》っていう歌詞、分かるよねえって、呑みのときに話してて。で、流れるように、結婚ってマジどう思う?っていう話をしちゃってて。隣に富山もいたんですけど、いやいや、おふたりさん、自然にその話をしちゃってますよ、って(笑)」
笑いごとでは済まされない20代後半のブルースということなら、出嶋がリードボーカルを務める“愛をさけるチーズみたいに”も、倦怠期の果ての恋人たちの情景が歌い込まれた切ない名曲だ。昨年のアルバム『僕だってちゃんとしたかった人達へ』に収録された“あたしのジゴワット”で溌剌としたダンスポップを歌った出嶋だが、今回は物憂げな節回しでボーカリストとしての新鮮な一面を覗かせている。一枚岩のバンドとして誘う世代の共感は、より多くのリスナーを巻き込んでゆくに違いない。
軽やかなモータウンビートの“しあわせのほっぺ”は、胸キュン全開のメロディと歌詞で駆け抜ける、今後のライブでの活躍を期待させてやまない1曲だ。そして最終ナンバーとして配置された“真夏の朝 2人乗り”は、菅原のディープなストーリーテリングが炸裂し、聴き終えた後も胸の内で何度も反響するような、奥ゆかしい心象の余韻を残してゆく。色彩豊かなポップでありながら、トラック数以上にどっしりとした聴きごたえをもたらす5曲である。
誰にだって、胸につかえた思いや、喉から出かかった言葉があるだろう。素晴らしい音楽は、いつだってそれを解放するために響き渡る。め組の『Amenity Wear』で聴こえている音楽は、もはや得体の知れない怪物ではない。あなたがあなたらしくいられるために、着心地の良い部屋着のようにデザインされた、心に纏うべきポップソング集なのである。(小池宏和)