全出演アーティスト&タイムテーブルを発表した新たな洋楽フェス『rockin’on sonic』。主催者がその趣旨を語ったインタビューを再掲載

全出演アーティスト&タイムテーブルを発表した新たな洋楽フェス『rockin’on sonic』。主催者がその趣旨を語ったインタビューを再掲載

開催まで1ヶ月をきったところで、プロデューサー:山崎洋一郎のインタビューを再掲載! ブッキングの裏側からフェスが目指すビジョンや現在の音楽シーンの特徴までを語っています。(インタビュアー:粉川しの、rockin’on 2024年11月号掲載) 
全出演アーティスト&タイムテーブルを発表した新たな洋楽フェス『rockin’on sonic』。主催者がその趣旨を語ったインタビューを再掲載

●洋楽フェスをこのご時世にやりたいということも含めて、そもそもの出発点からお話いただけますか。

「まず、ニーズがあるのにそれに対応しているイベントがないなあというのがあって。洋楽がシュリンクしているって言われているけど、でも確実にかつての黄金時代と言われていた90年代、00年代の洋楽を聴いて育った世代はいっぱいいるわけですよね。自分がそれを欲しているっていうのもあるけど、しっかりそれに応えるものを作りたいなっていうのはありました。あと、こういうコンセプトでやると年齢層高め向けねと言われるのはわかっていたんだけど、この年齢層高めをターゲットにしたフェスってある意味新しいんじゃないのかなっていう予感があって。これは全然かっこ悪くないなっていう感じもありました」

●サマーソニックとの補完関係というか、どのくらいラインナップの毛色を変えようというイメージだったんですか?

「いや、サマソニの前提は全然なくって。発案がロッキング・オンだったんです。だから最初に、90年代、00年代にロッキング・オンが取り上げていたようなアーティストと、それを読んで育った人へ向けてフェスを作りたいって、俺がラインナップをダーッと書いて、それをクリエイティブマンに話に行って」

●そういう感じだったんですか。

「そう、清水さんに渡してこういうのがやりたいんですって」

●時期、場所ありきではなかったんですね。

「それは半分ありました。こういうフェス作りたいなっていう理想論とは別のところでCOUNTDOWN JAPANを毎年やっていて、そのあとステージやインフラをばらしちゃうのはなんか惜しいなって」

●まだお休み期間があるのになって。

「そう、まだお休み期間もあり、メッセもなにも興行がなく空いているし、なんかできないかみたいなのも別にあって。そのふたつが一致した」

●しかも海外って、クリスマスに休むから日本人みたいに正月にしっかり休む文化はなくって。

「そうですね」

●だから盲点だったなって思いました。

「そう、海外のアーティストはクリスマスは働かないけど、ニューイヤーは働くんだよねって聞いてはいたけど、とはいえ10日とかそれぐらいからかなって思っていたんだけど。いざオファーし始めたら、いや全然いいよってノリだった」

●ラインナップは誰が最初の軸だったんですか?

「最初はウィーザー、プライマルもマニックスもあった。パルプはちょっと後かな。あと実を言うと、いちばん最初にあったのはザ・リバティーンズ。それは早々に無理だった」

●リーガルイシューで?

「そうだね。入国できないっていう。でも、第ニ弾までで発表しているラインナップは当初から呼ぼうと思っていたアーティストたちだから相当打率良かった。もちろん、だめになったのも幾つかあるけどね」

●ウィーザー、プライマル、マニックスって予想に挙がっていた人たちです。でもパルプってたぶん誰も想像していなかったんですよ。

「そうだね」

●だって27年来ていなくって。要するに、日本にパルプを呼んでいた当事者って今の日本にはもういないわけですよ。バンドも解散していたし、再結成したとはいえ、日本って超縁遠い島国になっていたわけじゃないですか。

「そうだよね。再結成のときも来なかったからね」

●よく繋げましたよね。

「向こうも『え、今?』っていう感じだった(笑)。なんでっていう」

●パルプってヘッドライナーでいいんですよね?

「ヘッドライナーです」

●向こうで再結成ツアーが無茶苦茶評判いいんです。各誌五つ星みたいな。ただ基本的にフェスは海外もヘッドライナーで出ているんです。ヨーロッパは特に。なので正直日本は無理だと思っていたんですよ。

「サマソニ、フジだったら厳しいかもね」

●さすがにイメージできないじゃないですか。そこにロキソニという救世主が(笑)。

「嵌ったよね。しかも初めて観る人、相当多いと思うしね」

●多分9割初めてですよ。27年ですよ。前回『ディス・イズ・ハードコア』のときですね、98年とか。全盛期の『コモン・ピープル』のときは来ていないんです。なのですごいものが観れますよって話。


「どうなんですか、そのへん。どんなライブになるんですか?」

●正直不安もあります。このラインナップが発表になったときに、プライマルよりパルプが上なんだ、みたいな意見がちらほらインターネットにはあって。アホかと私は思うわけなんですけど(笑)。海外では比べ物になんないんですよ、パルプとプライマルって。そのリアリティが若い人たちには伝わっていないので。当日までに認知を深めていかないとな、というのを使命として私は感じています(笑)。オアシスも復活するじゃないですか。当時オアシス、ブラー、パルプはほぼイーブンだったんだよって2025年はいい機会なんで、もう一回周知徹底したい。

「わかりやすく言うと、ビートルズ、ストーンズで2大ロックバンドって言われているけど、海外だとそこにザ・フーが入ってくる」

●まさにザ・フーなんですよ、パルプは。アメリカなんか、その3者の中でいちばんパルプの評価が高かったりするわけなんですよね、ピッチフォークとかでは。且つ、今新作を作り始めていたりするので。

「見どころはどこになるんですかね」

●とりあえずSpotifyの「ディス・イズ・パルプ」を聴いて予習しておいてください(笑)。セットリストを見るとザベストヒットメドレーなので、おじさんおばさんは前方で涙を流していると思うので(笑)。若い人たちも予習しておいてもらえれば。

「それは良かった。パルプって、そもそもデビューのいきさつも屈折しているし、久しぶりの待望の来日で、しかもヘッドライナーだとしても、知ってる曲やんないよー、みたいな捻くれ技に出るのかなって心配もあったんだけど。そんなことはない?」

●捻くれた時期を克服できたからこそ再結成できたんです。あと、黄金期メンバーのベースのスティーヴ(・マッキー)が亡くなってしまって、それがジャーヴィス(・コッカー)的にもショックで。あと、当時の95年のパルプが再評価されているっていうのもあって。『コモン・ピープル』から30年ですからね。だから記念すべき年なんですよ。ブリットポップの真髄は誰かっていったら、パルプです。次いつ観られるかわからないんで。いやほんとに! すごい機会だよと口を酸っぱくして言っていこうかなと思います。そして、ウィーザーは鉄板ですよね。

「そうだね。間違いなくいいライブをやってくれるだろうから」

●『ブルー・アルバム』30周年の再現ライブですよね?

「そう。オファーを決めたタイミングでは、そのツアー自体は発表されていたけど、こういうフェス出演の場合とかってどうするのかなって思ってオフィシャルサイトを見ると、『ブルー・アルバム』の再現ツアーのスケジュールのなかにrockin’on sonicが入っていた」


●完璧ですよ。

「そうだね」

●だって、この前来日したときのインタビューでリヴァース(・クオモ)に「30周年ですよね!」って言ったら、「僕はやりたいんだけど、メンバーはやりたくないって言っている」って話していて。でも、どうやら合意に至ったようで(笑)。来年のグリーン・デイの単独とかも再現ですし、時代はノスタルジアなんですよ。

「そうなのかね」

●海外のフェスティバルもそういう感じになっていますもん。

「それはきっと、リアルタイム世代だけに受け入れられるっていう状況じゃなく、その下の世代も反応するから成立するんだよね」

●第一弾発表は、ガチ90年代だったじゃないですか。でも第二弾でデス・キャブとかジミー・イート・ワールドとか来て、これでY2Kだなと。で、セイント・ヴィンセントでテン年代もフォローされている。

「そうだね。若い世代のなかでも、そのDNAを持ったアーティストっていうところで、もろポップアクトみたいなのは呼ばないけど、ウェンズデイとかレモン・ツイッグスは呼ぶみたいな、そういう流れかな」

●別の話になっちゃうんですけど、ROCK IN JAPANは、日本の最大級の夏フェスとして全方位型でやっているじゃないですか。

「うん」

●どちらかというと、ジャンルを広げていく方向で。今回みたいにジャンルを絞っていく、時代とジャンルを特化していく方向って洋楽だからこそなんですか?

「これねえ、あのRIJを主催しているロッキング・オンと、サマソニを主催しているクリマンのジョイントプロジェクトってよく言われるんだけど、違うんです。『洋楽雑誌ロッキング・オン』と、サマソニのクリエイティブマンのジョイントなんです。だから洋楽フェスっていうのは、フェスのマーケティングとして考えたんじゃなくて、最初から洋楽フェスを作るんだってことしか考えてない(笑)。フェスの新戦略とか、そういうのじゃなく、洋楽雑誌を作っている編集部が『俺たちもフェスやりたいね!』って、言ってみればそういうこと(笑)。『よし、クリエイティブマンに協力してもらおう!』(笑)」

●(笑)いやあ、ほんと「雑誌ロッキング・オン」ですよ。

「ほんとに」

●このニュアンス、私が読者だった時代のロッキング・オンなんですけど。

「そうだよね。ロゴはうちでデザインしたんだけど、クリエイティブマンの清水さんに言われたのが『雑誌のロゴのフォントはあのまま絶対に活かしてください』って。確かに、って。改めてrockin’on sonicで、洋楽のメンツをバッって並べると、あ!俺のロッキング・オンはこれだったって思ってくれる人がいっぱいいるんじゃないかな」

●どうやら俺たちの出番か、みたいなムードを感じます。そういう90年代組に比べると、2000年代組のジミー・イートとデス・キャブは、またちょっと違うイメージがあって。もちろんロッキング・オン的なんだけど、このふたつが象徴しているのは、あの時代の、それこそアジカンとかのような当時の日本のロックを聴いていた子たちが、洋楽に入るきっかけだったり。洋楽的なものの境界が緩くなってきた時代の象徴だし。

「そうだね」

●すごいY2Kっぽいっていうか。

「旧来的な、昔から続く洋楽神話みたいなものがちょっと崩れて、新しいものと地続きでストリートな感覚のある、新しいロックの物語がはじまったのがこの、デス・キャブとかシミー・イートの時代」

●エモがあるこの感じが、サマソニっぽさと、当時のリアリティと、雑誌ロッキング・オンと、ちょうどブリッジの部分って気がします。

「ウェンズデイのライブを今年クアトロで観たんだけど。まだ20代で、それこそ2020年代のバンドだけど、すごく地続きな感じがあったね。初めてデス・キャブのライブを観に行ったときに感触が似ていた。そういうのを繋げたいなっていう意識もあった。サマーソニック、フジロックって何百ってアクトが出るから繋がりが見えづらいけど、こうやって固めるとわかりやすく繋がるかなって。だから、インディとかに興味がある若いお客さんにも来てほしいと思っていて。一日被りなしで全部観られるからすっごい勉強になると思う」


●第二弾は違うところに刺さっていますよね。

「そうそう。第一弾で『結局UKロックなんだ』って言っていた人たちがデス・キャブ!?って」

●セイント・ヴィンセントもジャストなタイミングですよね。置き位置として。

「そうだね」

●あと、このフォーマットってフェスの最新形じゃないですか。海外では例えばデス・キャブとかが2000年代フェスみたいなもののヘッドライナーを務めている。ウィーザーもそういう感じで。リヴァースが以前言っていたけど、自分がフェスでふざけてギターをギャーンって鳴らすと若い子たちが盛り上がる。それで今、また30年前のものがもう一回アリだってフェスの場で気付いたって。アメリカとか完全にそういう感じになっていて。

「やった、最先端だ」

●いや、ほんと最先端のフォーマットだなって思いました。

「Xで古い古いってすごい言われているから、最先端って言われると嬉しいな(笑)。あともうひとつあったのは、自分より上の、ビートルズ、レッド・ツェッペリン、ローリング・ストーンズの世代に対して、悔しいなっていう想いがあったのよ。だってストーンズって永遠じゃない? ビートルズだって不滅感がある。いつでも何だかんだ盛り上がってるしさ。でも90年代ものって、当時はめっちゃ盛り上がったけど徐々に影が薄くなったり、消えかけたりするじゃん。で、あの頃あんなに盛り上がっていたリスナーもちょっと諦めちゃったりする。それが違いだなって思っていて。レッド・ツェッペリン好きなんだぜ!っておじさんってずっと元気じゃん」

●確かに(笑)。

「おじいさんになっても『最高だ!』って言い続けていて。90年代、00年代勢はあの元気さがなくなりつつあるなと」

●90年代で踏ん張らないと、クラシックロックっていうものが今後成立し得なくなる。

「ほんとに」

●やっぱりウィーザーとか来年に来るグリーン・デイが最後のクラシックロック。

「普遍的に盛り上がれるロックの最後だから、もうちょっと頑張らないとなって」

●意義深いと思います。

「いつまでもオアシス最高だぜ!って息巻いていていいんだって」

●我々中年は90年代って完全に歴史なんだと認めるべきで。何だかんだもうクラシックロックとして若い子は聴いているし。ちゃんと伝承していかなきゃいけない。ツェッペリンおじさんみたいに!

「そんないろんな想いを込めてやります(笑)」

●これはまさに「私たちのフェス」なんですけど(笑)、その感覚はどこまで共有されていますかね?

「フェスの現場とかでいろんなアーティストに会うと、例えばアジカンの喜多(建介)くんとかに、真っ先に『山崎さん! rockin’on sonic最高です!』って言ってもらえた。だから、『これは喜多くんのためのフェスだから』って。そうしたら『いや、ほんとそうですよね』って。そしたら[Alexandros]の川上(洋平)くんも『あれ最高!』って。だから『洋平くんのためにやってんだよって(笑)』。みんなそう思ってくれてます」

●そうだと思いますよ(笑)。「俺のフェスだ」「私のフェスだ」ってみんな思ってる。

「ありがとうみんな!(笑)よろしくね!」


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