【コラム】それでもポップ・ウイルスはあります

星野源の12月19日にリリースされるニューアルバムのタイトル『POP VIRUS』は、本人が語っている通り、エディター/ライターの川勝正幸氏の著書『ポップ中毒者の手記(約10年分)』からきている。
この本には「Sympathy for the Pop Virus」という英語タイトルがついていて、まえがきで「『ポップ・ウイルス』などというものは、もちろん存在しない」という書き出しから、その概念が説明されている。
世界中の異なる都市で、なぜ人々が共通した匂いを持つポップ・カルチャーを同時に愛でる現象が起きたりするのか。
今はCDやDVDといった形も消えつつあるが、創造者と消費者を結びながら増殖し続ける複製芸術作品=ポップ・カルチャーが持つ魔法とは何なのか。
自分がポップ中毒者として「うわごと」のように書き綴り続けた10年分の評論文の前置きとして、「ポップ・ウイルス」というものがあるように思えてならないことを川勝さんは書いているのである。
 
川勝さんは2012年に火災事故で他界して、今はその文章が書かれてから22年。
インターネットによってカルチャーの伝染は、物理的に見えやすくなって、逆に「ポップ・ウイルス」という目に見えない概念があることは感じにくい時代になっているかもしれない。
星野源の5枚目のアルバムが『POP VIRUS』というタイトルになったのは、“恋”の大ヒットによって自分の音楽が多くの人に凄まじい勢いで伝染することを経験した彼が、そんな今の時代だからこそ、かつて川勝さんがポップ中毒者としての体感から言葉にしたような、不揃いにアナログにゴツゴツと人から人へ心臓から花が咲く病が伝染する「ポップ・ウイルス」を音楽で表現しようとしたからではないだろうか。

このアルバムで次々と展開する多種多様な音楽的挑戦と、それによって掘り起こされる言葉にならない感情の渦。
そして湧き上がる人生スケールの喜び。
それは星野源が日本を代表するポップ・スターになった今も10代の時と変わらぬ一ポップ中毒者として生き続けていることの証明だ。
『YELLOW DANCER』の先にある未知のポップ・ミュージックがファーストアルバム『ばかのうた』にも似た身近なワクワク感に満ちた手触りで表現されている。
これぞ星野源のすべてが詰まった名盤だ。(古河晋)
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