星野源『POP VIRUS』の真髄をRHYMESTER・宇多丸が突いたラジオ対談を聞いて

1月29日にTBSラジオで放送された『アフター6ジャンクション』では、ゲストに星野源を迎え、パーソナリティの宇多丸RHYMESTER・この日のパートナーは宇垣美里アナウンサー)と白熱の『POP VIRUS』対談を繰り広げるコーナーが盛り込まれていた。

ただラジオパーソナリティというよりも一人のアーティストとして、ことあるごとに愛と羨望をもって「母数が違う」だの「星野め」だのと切り込んでくる宇多さんだったが、そんな楽しげなムードの中にも、「『POP VIRUS』は『YELLOW DANCER』が習作だったと思えるくらい、歌詞と音楽的な部分がぴったり一致している」、「“アイデア”の凶暴な実験しかり、リード曲ほど攻めている」、「2018年の日本で売れた曲はこれですって後で言われたときに、恥ずかしくないものを作ったに違いない」といったふうに、核心をズバリと突いた批評を次々と投げかけてくる。

それによって、星野源のありのままの本音が引き出される放送回となったわけだが、個人的にもっとも興味深かったのは、星野源があの大ヒット作『YELLOW DANCER』について「“湯気”から始まった自分のブラックミュージック的アプローチをやり切れていない」と語っていたことだ。あれだけ売れて、多くの人々に多くの場で語られていた作品であるにも関わらず、である。

星野源は“アイデア”という曲について、こんなふうにも語っていた。「ドラマ(NHK連続テレビ小説『半分、青い。』)で使われていた1番の部分は、ベースミュージックを生演奏でやったらどうなるだろうというところから始まって、主題歌なのでアニメソング的な速さを取り入れてキャッチーにしたんですけど、当初のベースミュージック的な部分が、思ったほど伝わっていないと感じた」と。だから彼はその後、STUTSによるMPC演奏の2番や、フォーキーな弾き語りを加えて、「過去・現在・未来が繋がった自分の曲ができる」と考えたのだそうだ。

この発言には、一人の音楽ライターとして強く反省させられる部分があった。“アイデア”の1番が、ベースミュージックをバンド解釈したものであることは、多くの音楽好きが気づいていたはずだ。「星野源なら、それぐらいはやるだろう」と感じただろうし、「星野源がそれをどんなふうにメインストリーム向けのポップとして料理するのか」という部分にこそ、注意を払っていたはずだ。

ところが、多様なリスナーと直接向き合うアーティストであるところの星野源は、「伝わっていない」事実にこそ歯痒さを感じ、それを乗り越えるために創意工夫を積み重ねている。そうして“アイデア”という楽曲は完成した。「ポップの奥底にあるベースミュージックに気づいて欲しい」と願った星野源と、「ベースミュージックの先のポップを感じたい」と願った僕とでは、根本的なモチベーションにズレが生じている。多くのメディアは、『半分、青い。』で初めて“アイデア”に触れたとき、星野源の思いを汲み取ることができていただろうか。それをきちんと紹介することができていただろうか。

星野源の「ポップを生み出すための孤独な戦い」において、もしかしたら僕も、彼の孤独に拍車をかけていたのかも知れない。そんなことに気づかされたのである。表現者と消費者、そしてメディアが正しく噛み合ったときに、ポップカルチャーは成熟する。『アフター6ジャンクション』の宇多さんは、その点で正しくメディアとして機能していた。

2月2日(土)からは、いよいよ京セラドーム大阪から「星野源 DOME TOUR 2019 『POP VIRUS』」が始まる。このタイミングで、一人の音楽ライターとしても身の引き締まる思いがする、そんな放送回であった。(小池宏和)
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