細野晴臣、星野源にも影響を与えたオリジナルから46年ぶりのリアレンジ版『HOCHONO HOUSE』を聴くべき理由

『HOCHONO HOUSE』
はっぴいえんどやティン・パン・アレー、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を筆頭にした様々な活動で日本のロック/ポップミュージックの礎を築いてきた細野晴臣が、1973年に発表したソロ名義でのファーストアルバム『HOSONO HOUSE』。70年代の日本語ロック屈指の名盤のひとつとして知られるこの作品は、昨年に米シアトルのレーベル(Light in the Attic)よりオリジナルマスターテープ音源を使ったリマスター盤が再発。また、国内でもnever young beachを筆頭に影響を公言するアーティストが多数登場し、近年改めて脚光を浴びている。そして今回遂に、細野自身による『HOSONO HOUSE』のリアレンジアルバム、『HOCHONO HOUSE』がリリースされた。

リリース日直前には、『星野源のオールナイトニッポン』に出演。ここでは星野源が私物の『HOSONO HOUSE』のアナログ盤を持参し、細野晴臣とアルバムについてトークを繰り広げた。『HOSONO HOUSE』が制作された埼玉県・狭山市の近辺で学生生活を過ごした星野源は当時アルバムを聴きながらその近辺の景色を見ていた思い出を語り、新作『HOCHONO HOUSE』については「昔の作品を再構築しているのに、どんどんさかのぼっていったら未来に辿り着いたようた作品。細野さんが今の音楽のトレンドの先に出ていったようなアルバム」とコメント。その言葉通り、『HOCHONO HOUSE』はオリジナル版からの様々な変化が楽しめる作品になっている。

まず印象的なのは、『HOSONO HOUSE』では後にキャラメル・ママ、ティン・パン・アレーへと発展していく鈴木茂、林立夫、松任谷正隆とともに録音したバンドサウンドを、今回の『HOCHONO HOUSE』では、打ち込みでリアレンジしていること。ザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』にも通じるアーシーなフォークロックと緻密なプロダクションを融合させたオリジナル版と同じく宅録での作業でありつつも、その方法論は2019年のものにアップデートされている。また、収録曲順はオリジナル版をそのままひっくり返したものになっており、2作を続けて聴くと『HOSONO HOUSE』の最終曲“相合傘”(インストゥルメンタル)が、『HOCHONO HOUSE』のオープニング曲“相合傘~Broken Radio Version~”に繋がるなど、過去と現在の2つの時間軸が大切に残されていることも特徴的だ。その雰囲気は、ポートレイト風でシンプルだった当時のジャケット写真に、現在の細野晴臣の写真を切り貼りして加えた今回のアートワークの魅力にも通じている。

そうした意味では、一部歌詞が変化していることも大きなポイントだろう。今回10曲目に収録された“僕は一寸・夏編”では、『HOSONO HOUSE』に収録されたオリジナル版で≪日の出ずる国の明日の事でも≫と歌われていた歌詞が、≪日が沈む国に明日も来るはず≫というものに変わっており、高度経済成長期の末期に当たる1973年と、2019年の日本の空気感の対比が見えてくる。もちろん、歌詞以外にも様々な変更点が加えられているため、2作品をじっくり聴き比べることで、当時と今との時代の雰囲気の違いも楽しめるはずだ。

とはいえ、様々な変化が収められているからこそ、変わらないことが胸打つ瞬間もある。最も象徴的なのは、今作の最終曲(つまり、『HOSONO HOUSE』ではオープニング曲)として収録された“ろっかばいまいべいびい”だ。オリジナル版と同様にアコギに乗せて歌われる≪むかしのメロディーくちずさみ/ろっか・ばい・まい・べいびい≫という歌詞のバックには、今回のリアレンジ版では時計の針の音が挿入され、アルバムの最後に改めて、『HOSONO HOUSE』と『HOCHONO HOUSE』の間に流れる約46年の歳月が浮かび上がる。当然のこと、ここで口ずさまれる≪むかしのメロディー≫とは、制作時は「今のメロディ」だった1973年当時のものであり、様々な人々を魅了しながら2019年に辿り着いた『HOSONO HOUSE』の旅路に思いを馳せずにはいられない雰囲気が生まれている。(杉山仁)