【大総括】RADWIMPSと新海誠が『君の名は。』『天気の子』で私たちに伝えたことは何だったのか?

2016年公開の『君の名は。』が大ヒットしたのち、ファン待望の声を経て2019年に公開された『天気の子』。どちらも手掛けたのはアニメーション監督の新海誠で、コラボレーションとして音楽制作にRADWIMPSが携わった。
音楽×映像の一糸乱れぬ融合により、物語はぐんと煌めきと色鮮やかさを増し、数々の名シーンが誕生したのは記憶に新しい。11月27日(水)には劇中歌・主題歌のフルサイズ音源を収録した『天気の子 complete version』、同時に『君の名は。』初回限定盤が完全生産限定にて復刻発売される。作品を彩った楽曲たちが一挙に収録されるこれらの発売を記念して、『君の名は。』そして『天気の子』を振り返りながら楽曲について綴っていこうと思う。


■『君の名は。』と“前前前世”をはじめとする名曲たちが描いた奇跡の「結び」

『君の名は。』通常盤
『君の名は。』では『天気の子』に先駆けて、個人の力ではどうしようもできないほどの強く揺るぎない「運命」が描かれ、主人公の立花瀧と宮水三葉が互いを想い合う力、人と人が出会って織りなす「結び」によって未来を変えていくという、スペクタクルでSF的でありながらも温度の感じられる作品に仕上がっていた。
RADWIMPSが制作した曲の中でも最も印象深い曲として挙げられる“前前前世”では、このような歌詞が登場する。

≪君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ≫

主人公らが信じる「想いの力」を後押しするエネルギーに満ちた楽曲であり、「取り繕いようがないエネルギーに満ちた本当の言葉」を歌詞に代えて紡ぐ野田洋次郎(Vo・G・Piano)の本領発揮ともいえる楽曲だ。


■そして『天気の子』再びのタッグは世界の形を決定的に変えた

『天気の子 complete version』通常盤
対して『天気の子』は、同じく世界の大きな理が目の前に立ちはだかり、主人公の森嶋帆高は自分の生きる世界と一人の少女、どちらを選択するか迫られる。そして彼は彼女を――天野陽菜を選ぶ。それは即ち世界の運命すらも決定してしまうことで、重大な選択を「選びきった」彼には、ただ陽菜を想う愛の力だけが満ちていた。
本作では、彼らだけではなく大人側にもドラマティックな展開が待ち受けている。最愛の妻を事故で失った須賀圭介は帆高に自己を投影し、終盤で陽菜を助けに行こうとする帆高と対峙し、その背中を見送る。作中で「選択する機会を失ってしまった」役割を担う重要な人物であり、彼の姪である須賀夏美もまた、自身が追い求めたいと思うものを諦めかけていた人物として描かれている。
そのことを踏まえて、主題歌“愛にできることはまだあるかい”を聴いてみる。

≪果たさぬ願いと 叶わぬ再会と/ほどけぬ誤解と 降り積もる憎悪と≫

この部分は、帆高や陽菜ではなく大人たちの声だろう。
人は年月が経つにつれ、ままならないことが増え、後悔が募っていく。

≪愛にできることはまだあるよ/僕にできることはまだあるよ≫

誰かを愛する力は時として何よりも強いエネルギーになるのだ、ということに気づく歌詞の終わりは、きっと『君の名は。』を経ての『天気の子』で、RADWIMPSが伝えたかった密かで強大な愛の力についての楽曲であり、「少年少女だけではない、すべての人たちへ」贈りたい歌だったのではないかと感じる。



『君の名は。』に次ぎ、ひとつの物語を一団となり創り上げるという点で意欲的な作品となった『天気の子』。本作が、そして前作である『君の名は。』が私たちに魅せてくれた美しさは、一生消えない「あの日見た空」のように残り続けることだろう。
もう一度あの奇跡を見てみたいという願いのもと、心に澄みわたり続ける楽曲たちに耳を傾けようと思う。(安藤エヌ)