[ALEXANDROS]が1,000人の18歳世代と心の底の感情を放出した『18祭』を観て

12月21日、NHK総合で『[ALEXANDROS] 18祭(フェス)』が放送された。『18祭』とは、アーティストと1,000人の18歳世代(本番当日に満17~19歳の人たち)が一緒にステージを作り上げる企画。ライブ当日のほか、番組ではその日を迎えるまでのドキュメンタリーもオンエアされる。

参加する1,000人を選考するため、番組ではエントリー動画を募集。その際、設けられた選考基準は「自分だけの『かっこよさ』を本気で表現すること」だ。応募者には、自身の特技を披露する人もいれば、既に社会に出ていて、夢を叶えるために下積みを積んでいるのだと語る人もいる。また、彼らのように未来に向かってまっすぐ走ることができている人だけではない。経済的な事情から夢を諦めざるを得なくなってしまった人、自信が持てない性格を変えたいという想いから参加を決めた人もいる。集まった人の内情は様々。しかし「自分の好きなことは周囲から地味と言われるが、心の底からそれをカッコいいと思っている」、「親からは子ども扱いされるが私はもう子どもじゃないという気持ちがある」というふうに、本当の気持ちに素直でありたいという願い、あるいは、それを無理だと言う周囲の声を跳ね返していきたいという反骨心を持った人が多い印象だ。

『18祭』ではバンドの演奏+18歳世代による合唱という形式でのパフォーマンスが通例となっており、今回[ALEXANDROS]は“Philosophy”という新曲を制作した。エントリー動画を見てから曲作りに取り組んだという川上洋平(Vo・G)は、「何か放ちたいんだな、放出したいんだなっていう気持ちが伝わってきた。そういう気持ちを表す曲を作りたい」、「みんな『僕はこんなことしかできませんが』、『私はこんな人間ですが』という前置きがある。その前置きを取っ払ってあげたらストレートに想いを表現できるのでは」と語っていた。

さらに“0.5”というインストトラックも誕生した。メンバーは動画を見て相当刺激を受けたようで、合唱だけでなく、18歳世代が動画で披露していたパフォーマンスもステージに取り入れたいと考えたのだ。そこで1,000人の中からさらに12組のパフォーマー(茶道、華道、日本舞踊、剣道、琴、空手、パティシエ、ジャグリング、スケボー、ヒップホップダンス、バレエ、フリースタイルフットボール)を選出、コラボすることに。なお、このパフォーマンスパートはこれまでの『18祭』にはなかったものだ。

台風接近のため、本番およびリハーサルが延期され、日程が入試などと被ってしまったことにより、当日来られなくなった人もいた。しかしその間、各地では18歳世代自ら企画した自主練習会が行われ、残念ながら参加が叶わなくなった仲間の想いも背負いながら、彼らは団結感を高めていった。

そしていよいよ本番。12組の活躍を見て他の人が拍手や歓声を送るなど、仲間同士で讃え合う雰囲気だった“0.5”を経て、“Philosophy”を[ALEXANDROS]と18歳世代が歌い鳴らす。そのエネルギーは凄まじいものだった。番組中、多くの参加者が共感したと言っていた、《マイナスの感情は/マイナスでしかないの?》→《マイナスの感情は/マイナスで×ればいいよ》→《マイナスの感情は/マイナスだけじゃないよ》と変化するサビのフレーズは、特に歌声に熱が入っていた。川上が英詞で歌う裏で「ラララ」のコーラスを重ねるクライマックスのパートには、1,000人それぞれの、言葉にならない気持ちが託されていた。「(1,000人のことを)もうバンドメンバーだと思ってる」、「セッションみたいなもの」という言葉通り、[ALEXANDROS]の面々は、普段のライブでバンドメンバーにやるのと同じような感じで、18歳世代と視線を合わせながら演奏している。その光景がとても眩しい。

番組でも紹介されたように、[ALEXANDROS]はメンバーが18歳の時に結成されたバンドである。当時川上は目立つタイプの生徒ではなく、人知れず黙々と練習していたが、高校の文化祭のライブで一晩だけみんなの注目を集めた経験から「自分がカッコいいと思うものはやっぱりカッコいいんだ」という確信を得た。そこで「バンドで食っていこう」と決意した。しかし大学卒業後はサラリーマン生活を送りながらバンド活動を行うなど、バンドの芽が出たタイミングは決して早くなかったし、その間友人からも親からも応援されなかったという。それでも「世界一のロックバンド」という夢を一度も諦めず、ここまでやってきた。[ALEXANDROS]にはそんな歴史がある。

[ALEXANDROS]がそうであるように、番組を通じて18歳世代が語った葛藤や苦しみは、何かに挑んだり何かを守ったりしながら、自分に誠実に生きようとする人ならば、大人になってからも一生向き合っていかなければならない種類のものである。[ALEXANDROS]のメンバーほどドラマティックな人生ではないにしても、例えば「自分が素晴らしいと思い、提案したい企画があるのに、上司がなかなか取り合ってくれない」とか、「本当はこういう服を着てみたいが、周囲から似合わないと言われるのが怖くて挑戦できずにいる」とか、そういう経験のある人は少なくないはずだ。

だからこそ『18祭』やこの番組を通じて生まれた曲は、世代を問わず、多くの人の心に訴えかける力を持つのだろう。そんなことを改めて考えさせられるような放送だった。今回、[ALEXANDROS]とともに最高のステージを作り上げた1,000人の18歳世代が、今後の人生で挫けそうになったとき、この日を思い出してまた歩き始めてくれることを切に願う。(蜂須賀ちなみ)
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