「等身大で年相応のロックバンド」――歴史を重ねてくると、ことロックという表現においては、違和感が出てくるバンドもいるが(その違和感が魅力になることもあるのだけれど)、ストレイテナーは本当に等身大で年相応で、今だけの輝きをまとっているように見える。
そう感じたきっかけは、2019年に幕張イベントホールで行われた、結成20周年を締めくくり21年目へと踏み出したワンマンライブ「21st ANNIVERSARY ROCK BAND」の映像作品で、その時に初めて披露された“スパイラル”を聴いた時だ。《きみがいない世界には/いきたくない》、《いつかまた ぼくの歌を聴いてくれ》――とてもパーソナルに捉えられる、歴史を重ねていなければ、出てこないような歌詞。文学的に、先鋭的に、芸術的に表現を突き詰めてきたように思っていた彼らが描いた、素直すぎる世界観にドキドキした。
さらに昨年10月にリリースされたミニアルバム『Blank Map』が、そのドキドキに拍車をかけた。一時期バンドの拠点となっていた地名を冠した“吉祥寺”が収録されていたからだ。私は彼らと同世代であり、さらに私自身も近い時期に吉祥寺に住んでいたという事情もあるのだけれど、《よく通ってた映画館はもうなくなって/公園には新しいカフェが増えて》という一節は手に取るようにわかったし、《2人の風景がまた動き出すまで/永遠みたいに思えて実は一瞬のことで/いつか聴かせたいから/この街で生まれた歌を》という切なくもポジティブな締めくくりに託した気持ちも、胸をかきむしりたくなるほど伝わってきた。彼らの楽曲はポップだし、幅広い世代のファンもいるから、あまり限定的な枠組みには入れたくないのだが、この“吉祥寺”は私たち世代の貴重なロックアンセムだと思った。
そして、4月8日(水)にリリースされるシングル『Graffiti』である。《移りゆく風景も/思い出す音楽も/書き残してきた正しさも/今はもう》という生々しい歌詞から、《何処かでいつか また会えるなら/輝く目を見れば 迷いはないと解るよ/受け入れよう》という、懐の大きなエンディングへと向かう。これも、大人が自分をさらけ出したような曲に聴こえる。昨年、久しぶりに彼らのライブを観た時、ゆったりした曲やテクニカルな曲も、トライではなくスタンダードとして響かせていた、それでオーディエンスを魅了していた様子も重ね合わせると、本当にいいキャリアの重ね方をしているバンドだなと思わずにはいられない。
ただ、言ってみれば、ずっと彼らは素直だったのかもしれない。メンバーが増えていった過程や、それぞれの時期のライブも観ているが、今やりたい音楽をやる、今やりたい人とやる、そういった姿勢は一貫しているように思えるからだ。全てにおいて奔放だったホリエアツシ(Vo・G・Piano)とナカヤマシンペイ(Dr)の2人時代、日向秀和(B)という技巧的で個性的なベーシストを迎えて刺激を体現し始めた3人時代、大山純(G)を迎えてバンドフォーマットで形作るアートを様々な方向性から追求するようになった4人時代。振り返ってみれば、ファンと歴史を共有できるくらい(あくまで傍から見ればだけれど)赤裸々な道のりを歩んできたバンドだと思う。そう考えると、最近の彼らが生み出している曲に辿り着いた、一本の筋が見える。
だからこそ、これからの彼らも楽しみだ。その時々の彼らの表現は、世代やロックバンドのひとつの指針になると思うから。過去も、今も、これからも、きっとまっすぐに進んでいく彼らは、時代や自分自身を映し出す鏡であり、照らし出す光なのである。(高橋美穂)
ストレイテナーが20周年を越えてより迷いなく羽ばたく、その意味に思いを馳せる
2020.03.12 12:00