「楽しくて、高揚感があって、しかもダークで、でも希望があって、強烈なメロディがあるレコード。フー・ファイターズの土曜の夜のパーティー・アルバムを作るんだってね。そしたら彼(グレッグ)が『最高! 最高だ。さあ作ろう!』って。彼がプロデューサーだと何もかも簡単なんだ」
デイヴ・グロールという人の原点には、紛れもなく「デーモン」とも呼べる底知れない表現衝動がある。それはニルヴァーナ、いやグランジすべての究極点となった『ネヴァーマインド』のドラミングを聴けば明白だ。
カート・コバーンというとてつもない表現者のオーラとエナジーを真っ向から受けとめ、壮絶な物語を機能させるグルーヴを生み出したのがデイヴなのだ。しかし彼が本当に凄いのは、フー・ファイターズという新たなプラットフォームを1995年にたったひとりで立ち上げ、心の闇から噴き出すマグマのような情念をクールに飼い慣らし、この世界のリアルに向き合いながら前へ前へ突き進む、ポジティブにしてサステイナブルな表現力に変換させたことだろう。
それから25年余りのキャリアの中で、テイラー・ホーキンスをはじめとする5人の盟友たちと巡り会い、ロック・シーンを丸ごと引き受けた精神的バックボーンとしてリスペクトされる存在となった。
そして最新作『メディスン・アット・ミッドナイト』は、結成25周年にしてバンド10作目にふさわしい金字塔的マイルストーンだ。それは、「2020年代にロックをどう鳴らすべきか?」の決定的回答として鳴り響き、ロックが長らく陥っていた閉塞感をぶち破ってくれる。
パンデミック以前に仕上がっていた作品であるのだが、そもそも「トランプ以降」のカオティックで捻れた分断が人々の心を蝕む時代のさなか、不撓不屈のバイタルな音を求めて創られたがゆえに、その後世界を覆ったパンデミックの閉塞感さえ吹っ飛ばすインパクトを持ち得ているのは、何の不思議もないのである。
そして今、フーファイの鋼のグルーヴと共振するように、UKでもUSでも欧州でも豪州でもZ世代のアーティストたちが恐るべき強度で「ロックの現在地」を鳴らしている。それはロック不遇の時代に、ヒップホップやR&BやポップやEDMの洗礼を浴びながら、貪欲にそのエッセンスを呑み込んでしたたかにビルドアップされたグルーヴである。
不遇だった時代の鬱憤を一気に晴らすかのように、この捻くれて分断されきった世界に異議を唱える彼らの姿は、痛快にして美しい。
フー・ファイターズが錆びついた扉をこじ開け、そこに雪崩れ込んだ新世代たちが同時多発的に鳴らす「2021年のロックの現在地」。その全貌に迫った、2020年代最新モードのロッキング・オン総力特集をお届けする。(茂木信介)
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