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至上の快楽 13:40 スガシカオ
8/3 15:30 UP

 太陽がもっとも高い時刻にステージにあがったのはスガシカオ。汗と体液まみれのファンクを鳴らしながら、なぜか太陽よりは青白い月の似合うスガシカオ。本フェス初出場である。
 1曲目“Go!Go!”からいきなりねちっこく黒光りしたそれを青々とした会場に挿入するのがスガシカオ。初体験のオーディエンスも多いだろうが、いきなりねじこむのがスガシカオ。しかし、どのお客さんも素直にグルーヴに体をあずけている。壮観である。青姦という言葉が脳裏によぎる、きわめて快楽的なステージである。この日ビールが似合うアクト、とこの段階で呼んでもいいだろう。
最新アルバム『SMILE』から披露されたのはこの曲のみで、その後は“SPIRIT”“アシンメトリー”“黄金の月”といったシングル曲を連発するスガシカオ。やはりヒット曲があるアーティストは強い、そう痛感させるパフォーマンスである。どの曲もイントロの時点でオーディエンスを引き込んでいく。会場から大きな歓声があがる。ただし、その先にあるのは「喪失後」の光景。流した涙のように情熱が冷めてしまう、そんな喪失。もう二度と純粋を手に入れることができない、そんな喪失。言わずと知れた代表曲“夜空のムコウ”の歌いだしを知っているだろうか? 「あれから僕らは何かを信じてこれたかな」である。「あれ」っていつだ、スガシカオ? わからない。しかし、まっすぐに「愛してる」と歌う無邪気なラヴ・ソングが、この時代に成立困難であることをスガシカオは知っている。人生にも恋愛にも倦怠したすべての人にとって、彼のえげつないラヴ・ソングは愛の困難と向き合う実にピュアなものとして響くはずだ。
「夏らしい曲、ないんだよなあ(笑)」という自嘲と共に、繊細なアコースティックにワウ・ギターが覆いかぶさる“夕立ち”へ。ガラスのような弱さと鋭さを秘めたシンガーソングライター、スガシカオ。彼の資質が表現に定着した1曲だ。個人的には“月とナイフ”が聴きたかったのだけれど。
 そして、この曲を境にいよいよ濃厚なファンクが剥き出しに。そう、セカンド・アルバムに収録された傑作ナンバー“ストーリー”へ!  「このくそ暑いのにファンクやっちゃう? しかも濃いよ?」という、その言葉に偽りなし。ギラギラした欲望が太陽を乱反射する、禁断のスガシカオ・ワールドは、この曲と次の“Sweet Baby”で極点を迎えた。歌詞の断片断片を読むと限りなく変態と呼びたくなるスガシカオ。しかし、先ほども書いたように、かつて愛した人と退屈な関係に陥るくらいならスワッピングすら辞さないのがスガシカオ(の歌世界の主人公)。ときに過剰と形容される彼の欲望は、ぼくにはとても誠実なものに思える。実際、緻密に各楽器のバランスが配置されたアンサンブルも、絶妙にコントロールされたファルセットも、破綻は一切ないわけだし、非常に理知的にファンク・グルーヴを指揮しているアーティストだ。
 ドラム、ベース、キーボード、ギター、ふたりの女性コーラス、そしてスガシカオ。7人編成のソウル・ショウは“このところちょっと”でエロティックな腰使いを誘発して、会場を昇天させた。スガシカオ、初登場ながら貫禄のステージだった。(其田尚也)